恒例の評論家鼎談、洋画・勝手にベスト3

2019.8.17 20:00

映画『スパイダーマン:スパイダーバース』

(写真6枚)

「分かってる人が、分かってムチャクチャに」(斉藤)

斉藤「『アリータ』は良かったよね! なぜかあんまり評価されてないけど、続編を今すぐにでも観たいくらい」

田辺「早く観たいですよね。ほぼ胴体と首というか、ちぎれた状態で相手を倒しにかかるという」

斉藤「いや、あそこまでよくやったよね。原作読んでる? 原作もあのまんまやねん。ジェームズ・キャメロン監督が、前から映画化するって言い続けてたけど、できなくて」

春岡「日本の漫画だよね?」(註:木城ゆきとによる漫画『銃夢』)

斉藤「そう。原作も相当グロテスクで。これはアメリカの基準ではできないだろうって。でも、ロバート・ロドリゲス監督はやっちゃうんだよなあ(笑)」

田辺「キャメロンだったら無理でしたね。ロドリゲスならかろうじて、というか」

斉藤「そう。あれ観て、『ロドリゲスって、恐いもんないんや!』って思ったもん(笑)」

春岡「だって、あの『マチェーテ』(2010年)を撮った監督だろ? だったら『アリータ』なんて、怖くもなんともないだろ(笑)。ロドリゲス監督ってメキシコ出身だった?」

斉藤「テックスメックスですね。限り無くメキシコに近いアメリカ。アントニオ・バンデラスとか使って、ずっとメキシコ人、あるいはメキシカン・アメリカンのためのアメリカ映画を撮り続けてきた監督で」

田辺「クエンティン・タランティーノ監督とは、『ブラザー』の間柄ですもんね」

斉藤「そうそう。で、主人公のアリータは、人間に似せたアンドロイドで、わざと人形っぽく目を大きくしているねん。トレーラー(予告編)を観ただけなら、ちょっと気味悪いんだけど、映画ではちゃんと必然性があって。だから、異種間の恋愛にも説得性があるし、なによりサイボーグ・フェティシズムをちゃんと描いた初めての映画やと思う。それに、SFモノとしてもちゃんと成り立っている」

田辺「キャメロンがやってたら、もっと説教くさい物語になっていた可能性がありますよね(苦笑)」

斉藤「ね、そう思うよね。これはロバート・ロドリゲスの最高傑作じゃないか、と思うくらいのクオリティの高さですよ。あと、ルカ・グァダニーノ監督の『サスペリア』はどう?」

田辺「いやあ、最高でした! 伝説の傑作ホラーを、文字通り再構築していて」

斉藤「楽しかったよなぁ。完全にアート映画だよな。(伝説の映像作家)ケネス・アンガー監督を思い出したもん。しかも、ダリオ・アルジェント版(1977年の『サスペリア』)をちゃんと踏襲してるし」

春岡「俺、観てないんだよ。ダリオ・アルジェントをケネス・アンガーでやったらこうなった、という感じ?」

斉藤「言葉にすればそうだけど、全然違う(笑)」

田辺「バレエの特訓シーンとか、いちいちしつこいんですよね。それが最高でした。まさに禁断の宴。トム・ヨークの音楽がまたいいんですよね」

斉藤「そうそう。で、公演シーンではちゃんと、アルジェント版の音楽を手掛けた(イタリアのバンド)ゴブリンのテイストを出してくる。みんな分かってるよね。分かってる人が、分かってムチャクチャにしているという。で、またキャメラがいいのよ」

田辺「パルム・ドールを獲得したタイのアート映画『ブンミおじさんの森』(アピチャッポン・ウィーラセタクン監督/2010年)で一躍名を馳せたサヨムプー・ムックディプロームでしたね」

斉藤「完全に、アピチャッポンの暗闇バージョンのキャメラなのよ。で、最後だけ陽光に戻るというね。ただ、読み替えリメイクにしてはスゴすぎる。出来過ぎ」

イ・チャンドン監督の『バーニング 劇場版』

春岡「俺は、イ・チャンドン監督の『バーニング 劇場版』が良かったんだよ」

斉藤「めちゃくちゃ面白かった!」

次頁:「その見事な計算に、天才を感じさせる」(斉藤)

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