イカれた長編処女作、片山慎三監督に訊く
「ポン監督の画力とリズムは参考にしてます」(片山監督)
──この映画を撮られる以前、助監督以外で自分で撮影したり監督した短編というのはないんですか?
BSスカパーの連続ドラマ『アカギ』のなかの1本は撮りました。それと日本工学院という大学の学生と作った、青森にある太宰治の記念館「斜陽館」で上映される5分くらいのアニメーションですね。
──そこに行ったら観られるんですね?
そうです。その前に実写で長編を撮ろうとした企画があって。桜庭一樹さんの原作で40分くらいのパイロット版を作ったんですよ。それを持っていって原作権を押さえようと思ったんですけれど、上手くいかなくて。で、ダメだからオリジナルでやろうとなって、それでこれを。
──それは『岬の兄妹』とはリンクしてないんですか?
いや、もうリンクはしてます。でも今回の映画は、花村萬月さんの『守宮薄緑』(1999年)という短編集、そのなかの『崩漏』という一篇が昔から好きで。そんな話をしたいなと思ったんですね。
──でも、萬月さんならタッチがかなり違うでしょう?
そうですね。それに似たような脚本を書いていたんですけれど、あまり気に入らなくて。で、いろいろ話をしていくなかで松浦さんをキャスティングして。で、兄妹の設定の方が面白いなとなって妹役の和田さんをオーディションして、脚本を書き直して撮影をした感じですね。
──この兄妹なんですけど、天涯孤独なわけですよね。
そこはぼかしているんですけど、お母さんは死んじゃって。だからお兄ちゃんが帰ってきたという設定にしたくて。でもお母さんが死んだということは言わせたくないなと。妹のことを思って。そこは気を遣って「遠くに行っちゃったんだよ」と。やさしい奴だから。
──片足を引きずっている理由も明確には分からないですね。まぁ、造船所で働いているから。
あれはもともと子どもの頃から足が悪くて。子どもって夢見るじゃないですか。夢を見て走ったりするのは、良夫が子どもの頃からしたかったことなんですよね。
──そういうイメージなんですか。なるほど、なるほど。
あそこは音楽にすごく迷って。子どもの声の作文みたいなのでもいいかと思ったんですよね。子どもの頃の良夫が読んでるような。
──そうなると、もっともっとポエティックになったかも知れませんが。
それもイヤだったんで。
──いつの時代のか分からない妙なテクノ(笑)。音楽のセンス、最高ですよね。
音楽は高位妃楊子さんっていう方で。東京芸大の作曲科を卒業したばかりだったんですよ。アニメの仕事でご一緒させてもらって。だけど、それはボツになったんですよ。でも僕自身はその曲が好きだったんで、高位さんにちょっとお願いしてみようかと思って。全部で9曲ぐらい作ってもらったんですけど、すごく頑張ってくれました。
──全部タッチが違うじゃないですか。いきなりピアソラ的なタンゴで始まりながら、変なテクノもあり(笑)、最後はピアノで終わる。
そうなんですよ。ある程度は「こういう曲にしてください」ってリクエストして。で、それに合わせて作曲してくれる。いろんな引き出しがあるんで。
──「これは、売れっ子音楽家になるぞ」って感じが僕はしたんですけど。
いやぁ、売れっ子になって欲しいですね。
──そういうところが、こういう題材なのにも関わらず格好いいんですよね。特に画面作り。素晴らしくポエティックなシーンがいくつかあって。恐ろしいほど美しい空が何カ所も出てきたり。横移動でキャメラが疾走していくと、街並みが昼間から急に夕景になるようなトリッキーなシーンもあったりして。
そういうところは頑張って意識的にやりましたね。
──造船所の人間が良夫に「もう1回帰ってきてくれ」って言ってくるところで、浜辺をキャメラがぐ~~~っと引いていくじゃないですか。キャメラだけが後ろ向きに疾走していくという。ああいう表現はあるようでない、というか誰もしない(笑)。
そうですよね、うん。あれはカメラマンと相談して決めました。カメラマンが「引きで見ると結構面白いですよ」と言って。で、「引いていきますか」って(笑)。
──やっぱり運動性がありますからね。そこから最後の疾走に繋がるような感じがあるので計算されているなぁと。
視覚的に見せたかったんで。この映画はセリフで進行させるのは良くないと思ったんですね。だから画で説明するというか、画で見せていく映画にしようかなって。
──片山監督が助監督として関わられたポン・ジュノ監督も山下敦弘監督も、説明過多に物語を進めるタイプではないですしね。テーマさえセリフで説明するんじゃなくて、シチュエーションと画だけで匂わせていくタイプ。だからやっぱり、そういうイズムみたいなものを感じますね。
ポン監督の画力とリズムは参考にしてますね。そう、リズムは結構大切。
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