大東駿介「不倫よりよっぽどオモロイ」

2018.6.5 21:00
(写真5枚)

「不倫より、想像が広がるものに興味を惹かれたい」(大東駿介)

──その腹を決めた直後の舞台が、この『ハングマン』ですね。英国初演の舞台を映像で観たんですけど、田舎のパブならではの閉鎖的な空気感と人間関係が、想像を超えた事態をどんどん引き起こしていくという、とてつもなくアナーキーな笑いに満ちた作品でした。

ですよね。『スリー・ビルボード』もそうやったけど、物語や人物の構造はすごくシンプルなんですよ。でも裏に潜んでいる「何か気持ち悪い」って思うモノに対して、観る側が勝手に想像を広げて楽しむことができるという点が、マクドナーのおもしろい所だと思います。日本版の台本も、これがまたメチャクチャ面白い。だからみんなが自然と「この本を大事に扱おう」という気持ちになれて、あれこれディスカッションしながら作っていきました。

舞台『ハングマン』本作の舞台は、「僕ら舞台上で、ずーっと呑んでますからね(笑)」と大東 写真/引地信彦
舞台『ハングマン』本作の舞台は、「僕ら舞台上で、ずーっと呑んでますからね(笑)」と大東 写真/引地信彦

──そのなかで、大東さんの提案が生かされた部分はあるんですか?

この本では、僕が演じるムーニーと、パブの人たちの訛(なま)りが違うのが重要なポイントなんですよ。都会と田舎の格差や差別意識が見えてきたりするから、それが笑いの種になったり。その言葉の違いを、日本語でどう表現するか? という所で、僕のアイディアを採用してもらえました。そういう意味では「戯曲が生まれる瞬間」に、初めて立ち会わせてもらった気分です。先日(埼玉で)2日間上演して、「まだまだおもしろくなる」という実感を得られたし、この舞台を今の日本でやる意味や、日本人にどういうモノが届くんだろう? と稽古場で考えていたことが、さらに明確になったと思います。

──本作は、元・死刑執行人で現在はパブを経営する主人公を巡る物語。大東さんは、彼が以前関わった事件の真犯人かもしれないと匂わせる、謎めいた青年役です。

ムーニーの背景については、翻訳台本を手がけた小川絵梨子さんと、演出の長塚圭史さんの間でも、見解がまったく違っていたんですよ。誰よりもこの本を読み込んでいる2人ですら、その核を正確につかみ切れないキャラクターなんです。この役を演じる上で圭史さんと話したのは「確信のない脅威こそが、一番怖いんじゃないか?」ということでした。暴力的な言葉を暴力的に向ければ、明らかな脅威になるけど、それではムーニーじゃない。彼は、例えば僕がこうしてお話している最中に、相手の目を見て「(それまでとまったく同じ口調で)しょうもない時間ですね」って、急に言い出すような奴です。

大阪府堺市出身の大東。インタビューはネイティブな大阪弁で応じた
大阪府堺市出身の大東。インタビューはネイティブな大阪弁で応じた

──ああ、確かに今「あれ、この人もしかしてヤバイ人?」って、一瞬怖さを感じました。

もちろん本当は、そんなこと考えてないですよ!(笑)でもその内側の怖さが外側に見えない・・・というか、本当は怖いのかどうかもわからない曖昧な存在に対して、人は一番脅威を覚えるんじゃないかと思うんです。僕はムーニーを演じながら、北朝鮮を重ねてしまいましたね。確信のない武力で、確信のない脅威をみんなに与えているという所で。もしかしたらマクドナーも、そういう世界情勢の縮図みたいなものを、裏の意図として書いてたのかもしれないです。

──でも同時に、主人公の娘を惹きつける魅力もあるし、本当に善悪がわからないんですよね。観た人によって解釈が大きく分かれる、本当に興味深い役だと思います。

そうそう、誰にもとらえられない。やっぱり今って、難しい時代やなあと思うんですよ。答えの出せないようなものに、いい加減に具体的な答えを出そうとするという。政治家や有名人が「良い」って言うから良くて、「悪い」って言うから悪いの? たとえば不倫問題を一斉に叩くけど、それって「悪い」って言った人にはわからない事情が、裏にあるんじゃないの? って。何かそういう「いい加減に具体的な答え」によって、想像するということがどんどん狭められていってる気がするし、変な時代だと思います。不倫なんかよりも、もっと具体的な答えが出せない、想像が広がるものに興味を惹かれたいですよね。恐竜とか宇宙の話の方が、よっぽどオモロイですよ!(笑)

大東は、「気負わずに遊びに来てほしいし、気軽な距離感で演劇と付き合えるきっかけになったらうれしいです」と話す
大東は、「気負わずに遊びに来てほしいし、気軽な距離感で演劇と付き合えるきっかけになったらうれしいです」と話す

──それが先ほど言われた「この舞台を今の日本でやる意味」なのかもしれないですね。

僕は勝手にそう思ってます。「これにも具体的な答え、出せますか?」って。ムーニーが本当はどんな男なのかという答えは、本当に人によって違うだろうし、しかもそれは全部正解だと僕は思うんです。答えってやっぱり、自分のなかだけでいい気がするんですよね。周りの評価はともかく、自分自身はその物事をどうキャッチして、どう感じるか? ということを僕は常に意識しているし、逆に自分と違う意見の人がいても否定しない。それが感性であり、個性やから。この舞台を観ることで、そういう原点みたいな所に戻ってもらえたらいいなあと思います。

舞台『ハングマン』京都公演は、6月15日〜17日に「ロームシアター京都 サウスホール」(京都市左京区)にて。チケットは一般7500円、25歳以下5500円で現在発売中。

舞台『ハングマン』

日程:2018年6月15日(金)〜17日(日)
会場:ロームシアター京都 サウスホール(京都市左京区岡崎最勝寺町13)
料金:一般7500円、25歳以下5500円
電話:075-746-3201

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