吉田恵輔監督「逆なんです、芝居をしないのが芝居なんで」

2018.2.10 18:00
(写真7枚)

「人に(兄弟の)悪口を言われるとムカつく」(吉田恵輔監督)

──粗暴で自分勝手だけど、ひょっとしたら良い奴?って思わせる面もありますよね。兄の稼ぎで家の借金も一気に返したし、高価なマッサージチェアもプレゼントする。でも、弟が昔贈ったチープな座椅子の方がくつろげると、両親はそっちに行ってしまう(笑)。あの新井さんが可哀想なんだけど、かなり面白い。

そうね。俺もすごく笑いを我慢しました(笑)。おせち料理も高いの持っていくけど、あまり誰も箸をつけないという。ま、口に合わないんでしょうね。いつも食べているものをみんな食べたがる。

映画『犬猿』のワンシーン © 2018「犬猿」製作委員会

──新井さんに関しては、ほぼすべて自由演技なんですか?

そうですね。唯一演出したのはキャバクラのシーン。「横にいる女の乳首をビンビン触ってて」って、それだけで(笑)。新井くんは「マジですか?」って言ってたけど、あのシーンで兄弟の会話を撮りたかったんですよ。だけど画角的に女の子が邪魔で、どかしたいけど入っちゃう。でもキャバクラなんだからホステスは横に座ってないと成立しない。そう思ったとき、「あ、乳首ビンビンしてたら画面が持つな」と。で、女の子に聞いたら「全然いいですよ」って言うから、「カメラはそれは無きものとして撮って。あとはお客さんがツッコんでくれればいいから」と(笑)。

──面白いですねぇ、そういう演出。でもそんな思いつきみたいなのがある一方、終盤で2台の救急車がクロスするシークェンス(一連の断片)は見事に緻密に構成されています。

みんなの、4人のそれぞれのリレーですよね。そこをラストにみんなまとめて撮るから、そこに全員が気持ちを持っていけるように徐々に撮影していこうと。そうやって、ある種の気持ちを作っていったし、もちろん撮影も準備していきましたね。

──それまで監督特有のサディスティックな仕打ちを怒涛のように見せつけられながら、あそこで不覚にも観客は涙を流してしまうんでしょうが(笑)、たぶんその涙は中盤の窪田さんと筧さんのデートシーンの会話と呼応してのものだと思うんです。あれだけ兄弟(姉妹)の事が嫌いで嫌いで仕方ないのに、どれだけ大切な存在なのか自分たちも実は分かってる、というのを漏らしてしまうシーンですね。

プロデューサーの佐藤現さんには兄貴がいるんですが、彼がポロッとアイディアをくれたんです。自分自身は兄弟のことをスゴく悪く言うのだけれど、人に悪口を言われると妙にムカつくって。そこからイメージを膨らませる感じで話を展開していったんです。

映画『犬猿』のワンシーン © 2018「犬猿」製作委員会

──監督にはご兄弟はいらっしゃるんですか?

姉がいますね。でも姉とはそういう(犬猿のような)関係では無いですから。むしろ俺の元相方の(脚本家)仁志原了さんがいちばん近いですね、兄であり弟であるみたいな。彼は『ばしゃ馬さんとビッグマウス』で安田章大が演った役のモデルでもあるんですけど。

──本作でも、エンドロールにクレジットされてますね。

そうそう。でも亡くなっちゃったんで(2016年8月に急逝)、だからその気持ちがちょっと入ってる感じはあるのね。 (存命の頃か)「印刷業界の話をやりますよ」って話してたんですよ。絵作りという意味でレトロ感というか、そういう空気感がいいなと思って。「印刷業界の営業マンにどういうことがあるかとか、どういうクレームがあるかとか、そういうことちょっと考えてよ」って言ったら、1カ月半くらい経ってウィキペディアの「印刷業界」の1ページを持ってきて(笑)。

──そりゃ酷いな(爆笑)。

「そんなもん俺だって見てるわ!それ以上のもん見てるわ!」って(笑)。

──「脚本協力」っていうクレジットにはそういう思いがこもっていたんですね。合掌です。

映画『犬猿』

2018年2月10日(土)公開
監督:吉田恵輔
出演:窪田正孝、新井浩文、江上敬子、筧美和子、ほか
配給:東京テアトル

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