吉田恵輔監督「逆なんです、芝居をしないのが芝居なんで」

「筧ちゃんもさすがに傷ついたって(笑)」(吉田恵輔監督)
──あのシーンの前がスゴいじゃないですか。2組の兄弟の感情のぶつかりあいが最高潮に達したところで、諍い合う言葉を消してピアノの音楽を流すとか。その諍いと同じ比重で、喧嘩した後の4人の虚しさみたいなものをきっちり押さえる。
喧嘩のシーンも、ちゃんと台詞を書いてやってるから迫力もあって面白いんですけど、急に音を消して音楽を流すと妙に悲しい気持ちになるんです、行為は同じなんだけど、視点が少し変わると喜劇だったものが急に悲劇に見えてくるみたいな。人間の感覚って、まったく同じ行為でもちょっとしたことで喜劇と悲劇の見え方が変わるというのをやりたくて。
──監督の演出術の真骨頂でもありますよね。観てる方もけっこう感動するのに、カット明けには尿瓶をこぼさせて台無しにする、ってことも含め(笑)。今回も終盤の幼少期の幻想シーンなど前作『ヒメアノ〜ル』を想起させますし。
そうですね、ああいうのは割と好きですし、あの、天に向かう血のついた手・・・まあ、俺の手なんですけどね。
──ああ~、そうなんですか。
ちょうど新井くんがいなかったから、「俺の手、キレイだから俺のでいっか」みたいな(笑)。これって結構、観ている人によって泣いたり笑ったりするポイントが違うとは思うんですね。感情移入の仕方とかもあるでしょうし。そこは俺の感覚で作っているので、逆に人が選んでくれればいいと思います。
──感情移入というと開巻早々、架空映画の『感動コメント予告編』のパロディが悪意たっぷりに出てきます。非常に上出来のトレーラーなんですが(笑)、以前監督はあの手の企画は山ほど来るけど断ってるっておっしゃってたけど。まさにそのタイプの映画ですよね。
だから2分間だけだけど、「もう、俺撮ったから大丈夫です!」みたいな。満足しました(笑)。
──でも案外、この『犬猿』って映画そのものに共感する人って多いと思いませんか? 宣伝プロデューサーだったら「感動コメント予告編」を作りたくなるような(笑)。
そうでしょうねぇ。男兄弟の物語を作ると女の人が見たとき今ひとつ世界観についてこれないけど、今回姉妹もいるから、そっちにも共感できるし。けっこう間口は広く作ってますからお客の幅は広がるぞと思っていますけれどね(笑)。
──監督一流の台詞や設定の妙もあって、性差も含め立体的に浮かび上がっている。それも、まさにアンサンブル・キャストという感じで各俳優の持ち味が活かされているからだと思うんですが、今回はいつにも増してダイアローグ劇(会話劇)っぽいですよね。全員当て書きなんですか?
当て書きというわけではないです。ある程度脚本を書いたところで、どういう役者さんに演ってもらおうかって考えて、で、(オファーしてみて)引き受けてくれることが分かってから、具体的にブラッシュアップしていくんです。筧ちゃんに「胸がデカいだけで大して才能も無いのに」とか酷い台詞浴びせたり。

──本当に酷いですよね~。「誰も必要と思ってない」とか。
そんな台詞を追加して直接本人に渡すんですよ。筧ちゃんもさすがに傷ついたって(笑)。
──当たり前ですよ(笑)でも、江上さんにいたっては、最初から最後までヒドい。いったい(窪田くんがプレゼントする)赤い菊柄の手ぬぐいってなんなんですか(笑)。
(異性からもらったものに)深読みしすぎる気持ち悪い男っているじゃないですか。そのおばさん版をやってみようと。周りは、「全然そんな意図ない」って分かってるのに、都合の良いように関連付けてチャンスありって思う奴。でもそれが面白かったりすると、キャラクターに対して愛着というか、謎の愛情が生まれてくるんですよね。そうすると、彼女が苦しくなると観てるほうも辛くなってくる。まあ、みんなに愛してもらうためのイジメみたいなもんです。
──窪田くんにデートのつもりはなかったとしても、そもそも一緒に遊びに出かけた相手に、「手ぬぐい」を渡すってこと自体どうかと思いますけどね(笑)。
そうですよね。あれも買ったものかどうなのかよく分からないですからね。誰かに貰ったものをそのまま渡したとしか思えないという(笑)。
──その窪田さんがとりわけ素晴らしいですねえ。
窪田くん、本当にいいんですよ。芝居で引き算ができる人って、実はなかなかいないんです。引き算をしているのにちゃんと立ってるというか、何もしていないように見えつつ存在感を残して。外国の俳優は普通にそういうのできているんですけれども、そこら辺がめちゃくちゃ上手いんだよなぁ。
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