一期一会の音世界、芦屋で小杉武久回顧展

2017.12.21 06:00

小杉武久「Heterodyne II」2002/17年

(写真4枚)

音楽家がコンサートではなく、美術館で展覧会をおこなう。そんな実験的な催しが「芦屋市立美術博物館」(兵庫県芦屋市)で2月12日まで開催中です。

小杉武久(1938〜)は、1950年代後半から活動している音楽家。会場に入ってすぐの吹き抜け空間に並ぶのは、オーディオ・ビジュアル作品の数々です。スピーカーを取り付けた2台の扇風機が向き合って送風している「Heterodyne II」。この作品は、スピーカーから発する人の声が扇風機の風にあおられて変調し、2台の相互作用によってさらに複雑な音世界が立ち現れるというもの。同じように、AM送信機、ラジオ、扇風機、波の映像を組み合わせた「Mano-dharma, electronic」という作品もあります。

小杉武久「Light Music II」2015年

また「Light Music II」という作品は、金網をかぶせた白いテーブルの上に、電子回路、ソーラーパネル、電池などから成るピースが散らばっており、それらがランダムに「チッ、チッ」というクリック音を発することによって、一期一会の音世界=音楽を繰り広げます。これらの作品は周囲の人間の動きや天候(太陽光の強弱)からも影響を受けており、そのバリエーションは無限と言っても過言ではありません。

マース・カニングハム舞踊団 神戸公演 リハーサル風景 (1964年)

一方、2階の展示室にはアーカイブ資料が集められています。なかには極めてレアな写真や印刷物も含まれており、よくもここまで集めたものだと感心せざるを得ません。チラシ、ポスターなどの印刷物はデザインや書体に時代の特徴が感じられ、写真に写っている小杉の姿も、1960年代半ばまでは七三分けの髪型に背広姿だったのが、1960年代後半から70年代前半には当時のヒッピー文化の影響か、胸まで届く長髪に変わっています。ジョン・ケージ(作曲家)、一柳慧(作曲家)、マース・カニングハム(舞踊家)など、当時の前衛芸術家たちの姿も大勢見られます。本展は一芸術家の回顧展としてはもちろん、20世紀後半の文化ドキュメントとしても非常に意義深いと言えるでしょう。料金は一般800円。

取材・文・写真/小吹隆文(美術ライター)

『小杉武久 音楽のピクニック』

期間:2017年12月9日(土)〜2018年2月12日(祝・月) 
時間:10:00〜17:00 月曜休 ※12/28〜1/4休館 ※1/8・2/12開館、1/9休館
会場:芦屋市立美術博物館(兵庫県芦屋市伊勢町12-25)
料金:一般800円、大高生500円、中学生以下無料 ※12/24・1/8は無料観覧日
電話:0797-38-5432

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