過酷撮影を乗り越えた映画「エルネスト」

「人間として自信がついた」(オダギリ ジョー)
──宮口精二演じる剣客に憧れる若い侍というのが、チェ・ゲバラに憧れる感じと重なったのかな。
阪本「いや、風貌が似ていたと。でも、そんな繊細な感じもどこか通じていたかもしれない。オダギリくんはオダギリくんで、親戚によく似ていた人がいたって言ってたよな」
オダギリ「そう、母方の従兄が写真で見るフレディさんにそっくりなんですよ(笑)」
──そうなんだ。オダギリさんご自身は、フレディさんと似たところとかありますか?
オダギリ「夢や目標に向かうと、周囲のことが見えなくなるくらいのめり込んでしまうところとかは似ているかもしれません(笑)」

──演じる上で意識されたこととかありますか?
オダギリ「関係者の方にお話をうかがうと、フレディさんはご兄弟のなかで一番日本人らしかったとおっしゃるんです。そこに演じる側として興味がありました。今回初めての外国人役だったのですが、自分が演じる意味のひとつとして、フレディさんのなかに日本人らしさみたいなものを醸し出せたら、というのをポイントとしていたところはあります」
阪本「フレディさんは5人兄弟で、お姉さんのマリーさんにお話をうかがったり、撮影の許可を取りに行ったりして、そのとき聞いたのが、ほかの兄弟は小さいころから歌ったり踊ったりが好きでいかにもラテン系なんだけど、フレディだけは歌うときにすごく照れて、歌えなかったと。あの子だけが、日本人のお父さんの血を引いてたって、そんな言い方もされてました。小さいころから寡黙でシャイで、また父親ゆずりで意志の強い子だったって」
──そういうところはオダギリさんの芝居のなかにちゃんと生かされてますね。今回、阪本作品にしては珍しく、現場でどんどん脚本が変わっていったようですが。
阪本「フレディが軍事訓練を受けるシーンや、最後に彼の生涯をハイライト的につなごうと考えていたシーンを省きました。それは単純に言うと、銃や軍事機材の調達ができなかったからです。日本では銃や軍服も映画の小道具として揃っていますが、キューバではそうはいかない。すべて本当の軍に協力してもらって調達するわけなんですが、今回、それが順調にいかなかったんです」
──それはなにか理由があったのですか?
阪本「軍の協力には国家評議会議長のラウル・カストロ(フィデルの弟)の認可が要るのですが、撮影時期、彼が忙しすぎたということです。なにしろその時期、オバマ大統領がアメリカの大統領として88年ぶりに訪問してきたり、その後は日本からも安倍首相が訪れたりしてたんです。僕らの撮影申請書もラウルの机の上に置かれるまではしていたらしいですが、そんな時期、それはもう後回しになりますよね(笑)」
──大変な時期に重なっちゃたわけですね。
阪本「それで、いつまでも待ってるわけにはいかないので、仕方なくそういったシーンを省いていったのですが、ただ減らすのは悔しいので、その分フレディの他のシーンを増やしたんです。そうしたら、軍事訓練のシーンなどははっきり言って映画を盛り上げるために考えていたわけなんですけど、それが減ってすっきりして、またフレディの学生生活を描いたシーンが増え、革命兵士になる前の彼を描こうと思っていた本来の趣旨に、結果的に立ち戻ることができました」

──困難な状況が逆にいい方に作用したわけですね。オダギリさんは現場ではどう思われていたんですか?
オダギリ「監督が言われた通り、撮影できないからって止まっているわけにはいかないですから。なんとか前に進めて撮り切ることだけを考えていました。ただ、学生のフレディが思いを寄せている女性と過ごすシーンがいくつかあるんですが、あのシーンはどこも台詞が多くて大変でした。監督に『フレディはどうして彼女の前でだけはこんなに饒舌なんですか!』って問いただしました(笑)」
──2人のシーンはワンカットで撮られているところが多く、ワンカットも長いのに。
阪本「あのシーンを撮ってるころは、もうオダギリくんへの負担とか考えてなかったものね(笑)。また、オダギリくんは台詞とか完璧に入っているから、こちらの要求にいくらでも応えてくれるし」
──そうしていろいろと大変だったわけですけど、それでもキューバで映画を撮るということには魅力があったんですね。
阪本「それはありました。キューバはまだまだ未知の国で、そこでしか観られないものや感じられないことがたくさんありましたし。僕らにとってキューバというのは、やはりどこか憧れの国でもありましたから。また、個人的なことで言うと、30歳で監督になり、来年60歳になるのですが、50代のうちに大きな仕事をやりたいという思いはずっとあって、この映画を撮って、それはできたなという達成感がありました」
オダギリ「これ以上ない過酷な作品とも言えますが、それを乗り越えて、こうして完成できたというのは、大きな自信になりました。俳優としてもそうですが、人間として自信がついたという方が大きいですね」
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