満島ひかりで映画化、女の熾烈な恋物語
2017.8.15 17:00

満島ひかりで映画化、女の熾烈な恋物語

「生きていることがファンタジーな気分」(満島ひかり)

──それがミホの、後の行動に繋がりますもんね。

「彼女が恋をすることによって、言葉ひとつ、自分の歩く風ひとつ、触るものひとつひとつが色づいていくんです。こんなパワーが自分に眠っていたんだと驚く中で、どんどん島を味方につけながら、敏雄さんに会いに行く。そういうイマジネーションをずっと持っていました。唄にもありますけど、島の自然を着物みたいにどんどんまとって、豪華絢爛になって彼の元に現れる。そんな女の美しさにのみ込まれそうになって、男はちょっと怖くなってくる」

──そうそう。

「そして、『ちょっと怖い』がだんだん恐ろしくなればなあと。彼らはやがて『死の棘』に続いていきますから、なんとなくその前兆が見えたらと思って。ただ単純に愛を捧げたいだけの女と、現実を見てしまう男・・・ふたりの戦争の気配が、なんとなく匂い立ってくる」

──彼女にはすでに、一種の狂気の芽が現れているという。その男女の対比でいくと、敏雄(劇中では朔中尉)を演じた永山絢斗さんが実にいいんですよ。島をまとった彼女に情熱的に迫られて、もちろん受け入れてはいるんだけどいささか退いてしまう、及び腰になってしまう様子が、彼のキャラクターも幸いしてうまく出ている。

「すごくうれしいけど、ちょっと待って、みたいな。絢斗くんの佇まいの良さですよね。葛藤とかもそのまんまでそこにいる感じがしました」

映画『海辺の生と死』より © 2017 島尾ミホ/島尾敏雄/株式会社ユマニテ画像一覧

──この『海辺の生と死』の延長線上にある2人も観てみたいですね。今回、満島さんのルーツである奄美が舞台ですが、やっぱり島で撮ってると不思議なことが起こったりするんですか?

「たとえば『飛んでいる鳥を見て泣くトエ』っていうシーンでも、テストから本番まで同じタイミングで鳥が飛ぶんです。空を飛んでいる鳥が。そういうのは不思議でした」

──それは満島さんがやはり島に愛でられた女性というか、いわゆる「神女」の素質があるからじゃないですか? ミホさんも明らかにそうだったと思いますが。

「島に戻るとパワーが強くなります。いいことばかりでは無いですが(笑)。ミホさんの書いた『祭り裏』という本に『何でもかんでも古い風習ばっかりで嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ』って島の言葉で書いてあって、そういうことを書くんだなと驚きました。新しいものに憧れているだけではなかったでしょうけど、古いものに閉じこもろうとしているかつての島の人たちへの居心地の悪さも感じていたんだろうなと」

──ミホさんは早くに東京に出られてますしね。

「戦時中にハイヒールで加計呂麻島に帰ってきたそうですけど、相当イケイケですよね」

──『海辺の生と死』という原作もちょっと不思議でしょ? 現実のことを描いていて、エッセー風でさえあるのにファンタジーというか、幻想文学的なところがあって。

「おとぎ話ですね」

──この映画で描かれるようなひとつの事実を書いても、敏雄さんが書いたものと全然違うっていう。

「私が自分の故郷のことを書いても、近いものがあるかもしれない。ああいった、精霊たちに守られた世界で生きているミホさんの文章には、とても共鳴します。生きていることがファンタジーな気分にもよくなります。あと、その場で起きていることをお芝居仕立てに見ることも。踊りとか唄の文化が強い土地ってあるんですかね、そういうのが」

──踊りや歌って、一般的にはその行為そのものが自分を「ケ」から「ハレ」の状態に持っていく手段というか、装置ですよね。でも、踊りや歌が日常から渾然一体になっている土地だと、ハレに切り替わるスイッチはもっと緩いのかも知れませんね。

「それは思いました。島の子どもたちもそうで、なんかおかしいんですよ。自分の子どもの頃を見ている感じが本当にして。感性が似ているから、やりたいこととか言っていることがよく分かるんです」

「生きていることがファンタジーな気分にもよくなります」と満島ひかり画像一覧

──その場で起きていることを芝居仕立てに見たり、現実と物語の境がなくなったりするのは、たぶんミホ/敏雄もそうだったと思うんです、ふたりの書簡集を読んでも感じますが、敢えて作りあげていってますよね、2人だけの世界を。

「お芝居中にお芝居しているみたいな状況が、撮影中にいくつかあって変でした。途中、力が抜けてしまったりとか。なんかこの人たち、どこまでが本当なんだろうと。喋り方も会話も、神話の登場人物のようでちょっと面白くなってしまうこともあった」

──そうですね。ミホさんの文章の、独特の口語体からも推し量れるけど、実際に2人はどういう風に喋っていたんだろうかと。

「ミホさんの話し方は、アレクサンドル・ソクーロフさんが撮ったドキュメンタリー『ドルチェ 優しく』(1999年)で聞けましたが、唄のような口調で物語の登場人物のようでしたね、美しさと恐ろしさを感じました」

──そもそもがかなり音楽的な喋り方ですよね。抑揚が。

「実は、敏雄さんがラジオでお話ししている音源も聞いていて。それは(女優の)白石加代子さんが持っていたんですよ。白石さんが『死の棘』をラジオドラマで演じたことがあって」

──あー怖っ!! (笑)

「百物語のような(笑)。奄美での撮影の前にドラマ『ど根性ガエル』(2015年)のピョン吉(の声)をやっていて、白石さんと一緒だったんです。『次何やるの?』って訊かれたので、『島尾ミホさんのお話です』って答えたら『敏雄さんの喋ってらっしゃるのがあるかも』って。わざわざカセットテープを貸してくださって。あとは、奄美にある図書館で映像を見せてもらったりもしました。お2人とも、ドラマチックな存在ですよね」

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映画『海辺の生と死』

2017年7月29日(土)公開
監督:越川道夫
出演:満島ひかり、永山絢斗、川瀬陽太、井之脇海、津嘉山正種
配給:フルモテルモ、スターサンズ
テアトル梅田(8/5〜)、京都シネマ(近日)、シネ・リーブル神戸(8/5〜)で上映
URL:http://www.umibenoseitoshi.net

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