入江悠監督「時代性を意識した映画作り」

1995年に発生した連続殺人事件の犯人が、時効成立後に記者会見を開き、事の真相を発表。映画『22年目の告白−私が殺人犯です−』は、そんなセンセーショナルな場面から物語が展開していく。監督は、『日々ロック』(2014年)、『ジョーカー・ゲーム』(2015年)などを手がけ、また今年自身の代表作をテレビドラマ化した『SRサイタマノラッパー〜マイクの細道〜』(テレビ東京)も好評を博している、入江悠監督。メジャー映画を次々と放つ売れっ子監督だが、今回のインタビューではひとつの悩みを打ち明けてくれた。
取材・文/田辺ユウキ
「みなさん、意外と気を遣って質問をされないんです」(入江悠監督)
──この映画は、1995年の阪神淡路大震災の映像からスタートし、現代に至るまでの社会的な出来事も辿っていきます。物語の軸となるのは22年前の連続殺人ですが、一方で入江監督とその同世代たちが体験した「時代のダイジェスト」にも感じ取れました。
そうなんです。この映画の話が来たとき、脚本作りでまず考えたのは時代性でした。1995年といえば僕は思春期でしたが、日本の戦後史のなかでターニングポイントと言われている。阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件などが起こり、インパクトがあった年。それを掘り下げたかったんです。僕はバブルを経験していない世代だけど、例えば当時のミュージックチャートをみても、小室ファミリーが席巻していて、まだバブルを引きずっているような浮かれているムードが感じられた。そういうライトな雰囲気の最後の年だった気がするんです。その後、サブカルチャーなんかも変容していきますし。
──劇中では、シャ乱Qの当時のヒットソング『シングルベッド』が2回流れます。特に2度目は、阪神淡路大震災を経験した女性・里香(石橋杏奈)が、「自分は誰も救えなかった」と悲しみ、彼氏・拓巳(野村周平)に励まされる場面。あの曲は個人の世界のサイズ感を表していて、里香が周りの人のところまで手を伸ばせなかった無念さと重なりますね。
そうです。『シングルベッド』などを聴いた瞬間、僕と同世代である30〜40代は、自分の歩んできた22年の道のりを喚起する。そうやって観る人が、それぞれ個人史を振り返っていくことができます。2000年代は諸行無常というか、時代が変わって、自分が何を得て、何を失ったかを考えさせられた。物語も、殺人事件の犯人・曾根崎(藤原竜也)、彼を捕まえられなかった刑事・牧村(伊藤英明)、事件を取材し続けてきたキャスター・仙堂(仲村トオル)たちが何かを失っていく展開ですね。
──阪神淡路大震災の光景から始まるってことは、街の見た目は年月とともに復興していくけど、人間の本質はボロボロのままで立ち直っていないのではという疑問を表していますよね。
内面や精神的なものって目に見えないから、放置されやすいんですよね。それが、この映画の鍵となる時効システムに関連してくる。登場人物それぞれの気持ちには、果たして時効があるのか。22年間、ひとつのことを追い続けるのって相当難しいじゃないですか。22年もあれば、好きなものも忘れていくし、当時の不満も少しずつ消化していく。というか、折り合いを付けるようになる。それが一般的のなか、同じ気持ちを保ち続けている人はどれだけいるんだろうって思ったんです。もちろん、殺人事件ですから遺された人は忘れるわけがないですが。でも、誰もが自分に置き換えてそれを考えられるはずです。

──物語は、時効後に犯人・曾根崎が事件の告白本を発表します。そのとき、殺人事件の真相ではなく、そのセンセーショナルさや曾根崎の美男子っぷりに注目が集まっていく。この告白本については、神戸連続児童殺傷事件の加害者、元少年Aが2015年に出版した『絶歌』との関連を尋ねられたりしませんか?
それがみなさん、意外と気を遣って質問をされないんです。この映画自体、3年前から動いているので、あの本とのリンクは偶然ですが、これまでも(松山ホステス殺害事件の)福田和子、(連続ピストル射殺事件の)永山則夫など、獄中手記というのは昔からいくつかあります。今はそれがSNSですぐに広がり、本質からずれた広がり方をしていく怖さがある。でも、情報が溢れまくっている上にスピードが早すぎて、それすら誰もが触れなくなっていく。そこで、被害者側が忘れられてしまうのが一番怖いと思うんです。
映画『22年目の告白−私が殺人犯です−』
2017年6月10日(土)公開
監督:入江悠
出演:藤原竜也、伊藤英明、夏帆、 野村周平、仲村トオル、ほか
配給:ワーナー・ブラザース映画
大阪ステーションシティシネマほかで上映
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