熊切和嘉監督「自分なりのニューシネマ」

2016.9.2 18:00
(写真3枚)

「松田翔太は、どういう場面でも主役だと分かる」(熊切監督)

──追われる者も追う者も流れて行くロードムービーであり、これもニューシネマ的ですね。主演の松田翔太さんはいかがでした?

肉体表現の力には圧倒的なものがありましたね。パリでウィリアム・フリードキン監督のポリス・アクションの傑作『フレンチ・コネクション』(1971年)や、シネマテーク(映画を収集・保存し、非営利目的で上映する施設)で特集していたバスター・キートンの作品とかを観て、「ああ、役者を走らせたい!」と思っていたのですが(笑)、松田さんの長い手足を見て、もう願ったり叶ったりだと(笑)。彼の走る姿のカッコ良さはピカイチです。また、アクションシーン以外でも俳優としての存在感があって、どういう場面でも一目見て彼が主役だなとわかるんです。

──それはスターとしての大切な条件でしょうね。ただ、彼が演じた主人公の青年は肉体的バトルにおいてそんなに強くないという設定なのですね。

基本的に弱いんです。だから、腕力で相手を倒して事件を解決していくというタイプの人間じゃない。事件の関係者を粘り強く調査していって、事件の背景の真相を暴き、根本的な解決を図ろうとする。いわば「探偵」なんです。松田さんにはその雰囲気も充分にあった。やはりパリで久しぶりにロマン・ポランスキー監督の『チャイナタウン』(1974年)を観て、「探偵もの」が撮りたくなっていた僕にこれもピッタリでした(笑)。

──松田さんは原作のファンだったこともあって、本作への熱意には相当なものがあったようですね?

すごかったですね。テレビ版では、僕のほかに冨永昌敬、茂木克仁、真利子哲也監督が撮っていて、冨永くんが4本、ほかの監督が2本ずつの計10本が作られたのですが、10本すべての現場がわかっていて、シリーズ全体を支えていたのは松田さんだったわけで。僕なんかは一番最後に参加したようなものですから、ほかの俳優さんの台詞の言い回しなど、彼に「ここでこの人はこういう言い方する?」って訊いたりしました(笑)。なんにせよこの作品は、彼あってのものですね。

主演の松田翔太(前列右)と浜野謙太(同左) © リチャード・ウー、すぎむらしんいち・講談社/映画「ディアスポリス」製作委員会
主演の松田翔太(前列右)と浜野謙太(同左) © リチャード・ウー、すぎむらしんいち・講談社/映画「ディアスポリス」製作委員会

──松田さんの相棒を演じている、映画『婚前特急』(2011年)やテレビ『仮面ライダードライブ』などに出演、ミュージシャンとしても活躍しているハマケンこと浜野謙太さんも面白い存在ですね。

彼は天性の喜劇俳優ですね。ミュージシャンとしても一流なので間やリズムが抜群にいい。また、とてもクレバーな俳優さんで、そのときこっちが何を求めているか即座に理解して的確に返してくれる。演出家としては、現場にいてくれてとても助かる人でしたね。

──裏都庁側の人間のキャスティングで驚いたのが、都知事役が、「猪木 vs アリ」戦をコーディネートするなど70年代の伝説的なプロデューサーとして知られる康芳夫(こう・よしお)さんだったことです。

狙い通りですね(笑)。康さんとは以前から個人的におつきあいがあり、飲みの場などで「映画に出てくださいよ」とか言っていたのですが、あの風貌ですからなかなか合う役がなくて(笑)。今回の裏都庁の都知事、あ、これだと思ってお願いしたんです。「立っているだけでいいんで」って。

映画『ディアスポリス -DIRTY YELLOW BOYS-』

2016年9月3日(土)公開
監督:熊切和嘉
出演:松田翔太、浜野謙太、須賀健太、安藤サクラ、柳沢慎吾
配給:東映 PG-12

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