映画「64」 豪華俳優陣のライバル意識

瀬々敬久監督
「(原作者から)記者の描写をおろそかにしないでくれと」(瀬々監督)
──チラッとしか見えないけどいいですね。あとベテランの俳優さんでは、三浦友和、奥田瑛二、吉岡秀隆らもやはり存在感がありました。
みなさん独特の緊張感を持って現場に臨まれていて、役柄の雰囲気が身についていて素晴らしかったですね。特に今回、奥田さんが撮影時にすごく緊張しているのを感じて、撮影終わりに「奥田さん、緊張してましたよね」と訊いたんです。そうしたら「ああ、これまでにないくらい緊張したよ」って言われて。「どうしたんですか?」って言ったら、「だって、みんな出(で)が違うだろ」って。

──出が違う?
俳優さんたちそれぞれが、俳優としての出自も違うし、歩いてきた道も違うということですね。佐藤さんと緒形さんは父親も俳優だったわけだけど、父親とは違うところを経てきた人たちだし、三浦さんは山口百恵さんの相手役、つまりアイドル映画から出発して相米慎二監督の作品に出演されるようになり、永瀬さんも原点は相米作品で、ついでジム・ジャームッシュの作品に出演、吉岡さんは『男はつらいよ』に『北の国から』じゃないですか。だから、けっこうバラエティに富んでいるんですよ。そして、みなさん、これまでのものを背負いつつ、やはりライバル意識もあったんじゃないでしょうか。「決して負けたくない」といった。それが緊張感と迫力を生んでいるんだってことを、奥田さんと話して気づきました。
──なるほど、それは面白いですね。一流の人たちのそういう意識や演技を視て、瑛太や綾野剛、窪田正孝、坂口健太郎といった若手の人たちも刺激を受けたでしょうね。
そう思います。みんな、浩市さんと絡むときは目の色が変わっていましたから。

──俳優の話でいうと、驚いたのが警察に詰めているマスコミの記者を演じた人たちでした。だれもが記者らしい風貌をしていて個性があり、劇中のさまざまな局面で、この記者はどう考えているのかがわかる気がしました。
そう言ってもらえるとうれしいです。実は原作者の横山さんから言われていたんです。記者の描写をおろそかにしないでくれと。これまでの映画に登場する記者たちって、物語の説明係で終わることが多かったじゃないですか。役名も、多少台詞があっても記者A、B、Cみたいな。そういうのはやめてくれと。それぞれに人格が在って会社を背負っている人間たちなのだから、一人ひとりの性格が解るようにしてくれと。横山さん自身が新聞記者出身なので、これまでの描かれ方は嫌だったのでしょうね。
──記者役のなかには、最近よく見る名脇役の宇野祥平や、『ヘヴンズ ストーリー』にも出ていた菜葉菜もいて、いい芝居をしていましたが、ほかの俳優さんは正直言って知らない人も多かったです。でも、ほんとにみんな良くて、彼らの存在や演技が作品の厚みになっていると思います。
8割くらいはオーディションで選んだのですが、最初、どの役をやってもらうか決めずにいろいろ設定を変えて芝居してもらって、それをみて段々とあなたはこういう会社の記者でこういう性格でと決めていったのですが、そこは丁寧にやりました。多くの人がインディーズの作品などに出ている俳優さんたちなのですが、彼らが集まることでいい意味でごった煮感が生まれたと思います。そこに浩市さんや綾野くんが入っていくと、さらにごった煮感が増して面白かったですね(笑)。
──メイン俳優たちの迫力あるぶつかり合いに負けない厚みでした。そんななか、異彩を放っていたのが、交通事故で亡くなった老人を演じている俳優・大久保鷹です(笑)。唐十郎の状況劇場から観ている人間にとってはうれしい出演でした。
鷹さん、良かったでしょう(笑)。大抵の俳優が何かをしたがるのに、あの人だけはほんとになにもしませんからね。飄々としていて貴重ですよ、あの芝居は。
──原作者の横山さんから言われていたことは、ほかに何かありましたか?
実は、映画は原作と終盤の展開を変えているのですが、そのことについて横山さんとかなり話し合いました。横山さんにとって、主人公が警察の広報官であるということが特別なことで、それは十分わかるのだけれど、どちらかというと僕らはひとりの父親、ひとりの人間としての主人公を描こうと思った、その違いですね。だから、横山さんにとっては映画での展開を認めることには忸怩たる思いがあったのかもしれないです。映画を観てもらったあと、「人間は望んでいない仕事に就いたとしても、そこで思ってもいなかった果実を得ることもあるのではないか」という、小説のラストに込めた思いを初めて横山さんから聞いたんですが、それには強く胸打たれたました。ただ、僕らの選んだ映画ならではの終わり方も、これはこれであるだろうとは今も思っています。
映画『64-ロクヨン- 前編/後編』
前編=2016年5月7日(土)公開、後編=2016年6月11日(土)公開
監督:瀬々敬久
出演:佐藤浩市、綾野剛、榮倉奈々、瑛太、永瀬正敏、三浦友和
配給:東宝
© 2016 映画「64」製作委員会
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