【連載】春岡勇二のシネマ重箱の隅 vol.2
『家族はつらいよ』という題名は、山田作品のテーマ「家族」に代表作『男はつらいよ』シリーズの名を併せたもの。資料には、自作のオマージュにしても構わないだろうと山田監督がつけたとある。だからか、劇中に『男はつらいよ』のポスターは貼られているし、ラスト近くでは、鰻屋の出前持ちの青年が『男はつらいよ』の主題歌を口ずさんでいたりする。青年を演じているのは、太い眉毛が特徴的な演歌歌手・徳永ゆうき。でも、さすがに主題歌まで歌わせるのはやりすぎでは、と思っていたが、徳永があるキャンペーンで、彼の両親の出身地が奄美群島の加計呂麻島で、それがきっかけで監督と親しくさせていただいたと話していたと聞いて「そうか」と思った。『男はつらいよ』は奄美群島と深い関係があるのだ。
知っている人も多いと思うが、『男はつらいよ』は元々テレビで1968年の秋から半年間放送されていたドラマだった。主人公の寅さんが最終回で亡くなるという展開に視聴者から多くの反響・抗議が寄せられ、それを受けて松竹で映画化が決定したのだ。その最終回で寅さんが亡くなった原因が、奄美大島でハブに噛まれたこと。つまり、寅さんは奄美で亡くなったのだ。そして、映画となって甦り、69年から95年まで48本も作られた映画シリーズの最終作の舞台も、やはり奄美だった。
『家族はつらいよ』にはもうひとつ、ふれておきたいネタがある。それは妻夫木聡演じる、一家の次男の恋人として登場する蒼井優の名前。妻夫木が蒼井を家に連れてきて「間宮のりこさんです」と紹介する。すると、妻夫木の母親役の吉行和子が「どんな字を書くの?」と尋ね、蒼井が「憲法の憲です」と答える。ここで多くの映画ファンが「えっ」と思ったはず。妻夫木と蒼井の関係は『東京物語』をリメイクした『東京家族』と同じで、つまり蒼井は『東京物語』でいう原節子なのだ。だが、原節子の役名は「紀子」だ。原節子は小津作品の永遠のヒロインであり、特に『晩春』(1949年)『麦秋』(1951年)『東京物語』の名作3本で主人公「紀子」を演じ、この3本は「紀子3部作」とも言われる。なのに「憲子」だって!? でも、その疑問はすぐに解けた。「憲法の憲です」と答えた蒼井に吉行が返すのだ。「あら、いいわね。キリッとしていて」と。その台詞にこそ、山田監督の今の想いがある。
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