過去最大級の衝撃 野田秀樹の新作

2016.3.19 08:08

NODA・MAP第20回公演『逆鱗』撮影:篠山紀信

(写真5枚)

松たか子、瑛太、井上真央ら豪華俳優陣を招いた、野田秀樹率いるNODA・MAPの新作舞台『逆鱗』。東京公演に続いて、3月18日~27日には大阪市中央区の「シアターBRAVA!」(シアターブラバ)で上演される。

野田が「芝居で人を感動させるつもりがまったくない」(「Lmaga.jp」2012年6月のインタビューより)と発言しているにも関わらず、多くの人がNODA・MAPに惹きつけられる。それは、自分が今いる世界がほんの小さなキッカケで、一瞬にしてひっくり返される衝撃を体験できることが大きい。たとえば昨年の『EGG』では、スポーツで熱狂するフィールドに「731」という数字が出た瞬間、劇場全体が終戦直前後の満州の重い空気に一変した。

笑いの絶えないエンタメの世界から、観客全員の襟首をつかんで、シリアスな現実の現場に放り込む、まさに垂直落下するフリーフォールのよう。その現実は、映像と違って「その現場」をライブで体験できるという演劇の特性を、最大限まで活かしたと言える世界なのだ。そして今回の『逆鱗』における衝撃度は、これまで私が観てきた野田作品のなかでもトップクラスだ。

最初は「人魚ショー」を企画する水族館の人たちや、地上に現れたNINGYO(松)の話がコミカルに描かれていく。NINGYOがなぜ人魚について詳しいかを問われ「人魚同一性障害」と説明し、周りが「同化(どうか)してる女だ」とつっこむなど、野田お得意の言葉遊びも盛り沢山だ。本格的に舞台に復帰した松の、謎と慈愛にあふれた存在感。笑いを取りながらも、随所で影を見せる瑛太のたたずまい。そして大河ドラマとは打って変わった、井上の小悪魔な演技も観客を引き付ける。

NODA・MAP第20回公演『逆鱗』撮影:篠山紀信
NODA・MAP第20回公演『逆鱗』撮影:篠山紀信

そんな舞台に散りばめられた言葉や、各人物の行動が次第につながりを見せ始め、ついには本作のキーワード「人魚は、ひとつの『逆鱗』を食べる」の意味が明かされる。この瞬間から、私たちが体感することになる「その現場」とは?

様々な感情を激しく突き動かされると同時に、今の日本に野田がこの物語を叩きつけてきたその意味を、考えずにはいられなくなるはずだ。まさにフリーフォールのように、衝撃が大きすぎてエクスタシーすら覚えるようなこの世界を、一度は体験してほしい。大阪公演の前売チケットは完売したが、全ステージで当日券が発売される。

取材・文/吉永美和子

NODA・MAP 第20回公演『逆鱗』

作・演出:野田秀樹
出演:松たか子、瑛太、井上真央、阿部サダヲ、池田成志、満島真之介、銀粉蝶、野田秀樹
日時:3月18日(金)~27日(日)
会場:シアターBRAVA!(大阪市中央区城見1-3-2)
料金:一般9,800円、高校生割引1,000円(全席指定)
電話:06-6946-2260(シアターBRAVA!)

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