演劇界の巨星が集った舞台「レミング」

2013.5.16 00:00

左から寺山修司(てらやま・しゅうじ)、松本雄吉(まつもと・ゆうきち)、天野天街(あまの・てんがい)

(写真2枚)

【レミングとは・・・その2】音楽的にして妄想狂な台本&生物のような舞台装置

「難解な言葉も音楽に置き換えたら、感覚でわかるようになるのでは」(松本)という狙いで、台詞の大半は維新派風のリズミカルな言葉に改訂。「犬が水蒸気になる」などの意味不明な一節も、理屈で考える前に、リズムとともにスッと体に入ってくる。逆に天野天街が脚色した映画のシーンは、謎や妄想をさらに膨らませたような場面に。台詞の前後の音を、しり取りのように重ね続けるというミラクルも見せながら、夢と映画と現実がゴッチャゴチャな世界を繰り広げていく。

「天野君は寺山さんと似たような文学者体質で、言葉の使い方が非常に独特ですね。また彼の担当部分は、他の寺山作品の言葉をたくさん引用しているから、少しでも寺山を知ってる人は楽しいんとちゃうかな」(松本)。

また維新派といえば大規模な舞台装置が名物だが、今回も人間が床下から登場したり、天井からギロチンのごとく街が降りてくるなど、シュールな遊び心に満ちたものだ。

「寺山さんの街の記述が文学的なので、舞台装置は“都市は巨大な生命体”という不気味さを出したいなあと。それとだまし絵のように、上下感覚が完全にご破算になった世界も作ってみたかった。野外劇だと、上から装置を吊るすなんて、あまりやれませんからね」(松本)

【レミングとは・・・その3】テレビでもおなじみの役者が、維新派風の演出にマッチ

高度なリズム感を要求される「ヂャンヂャン☆オペラ」だが、どの役者もそれぞれの個性を生かすことで、この舞台に欠かせない存在となっていた。中には八嶋や片桐のコント的掛け合いのような、維新派では観られない芝居もあり、ナイトメア的な世界に一時の安らぎを与えてくれる。

「今回は本当に、いろんな俳優の演技論が集積してできた芝居。八嶋さんはすごく柔軟で天才的だし、片桐さんはピュアな感じがするから、恥ずかしいような台詞を言っても結構納得できるんです」(松本)

左から寺山修司(てらやま・しゅうじ)、松本雄吉(まつもと・ゆうきち)、天野天街(あまの・てんがい)

また常盤貴子も非現実的なほどのあでやかさで、実体かどうか定かでない大女優を体現。母親役の松重豊も、最後の壁のごとくタロの前に立ちはだかる姿が、まさに怪演にして快演だ。

「常盤さんは結構太ももを強調するような演技をしていましたが、あれは僕の演出じゃなく、彼女が自分からやったこと(笑)。松重さんは、若い時に寺山さんの芝居を観ていたそうで、一人アングラ的な空気をまとっていましたね」(松本)。ちなみに常盤と松重は、最初と最後のシーンには意外な役で登場するので、それもお見逃しなきよう。

【レミングとは・・・その4】総じて「演劇」というライブに目を見張る舞台!

『レミング』初演版に書かれた台詞「世界の涯とは、てめえ自身の夢のことだ」は、この舞台には登場しない。むしろ壁が消えた街の末路や、世界の涯とは何か? などの疑問は「現代の状況に合わせて丸ごと書き換えた」(松本)ラストになっても謎のまま。しかし“滅びの美しさ”を絵に描いたような最後の風景に、答を教えられる以上のカタルシスを感じたのは確かだ。

「世界の涯とは“虚構の極み”なのかなと、僕は思うんです。死に近いほどの絶頂や幸福感に憧れ、そこを目指していく気持ちは、すべての芸術に共通するものじゃないかと。その中でも演劇は、様々な人間の経験や想いを1つの世界にまとめ上げ、それを生で客席に投げかけ、観客はそれを精一杯の感性で受け止める芸術。TVや映画ではやれないことを、演劇というライブではやれる可能性があんねんなあ……ということを、少しでも感じてもらえたらいいですね」(松本)

多分この舞台は、終わった後「あー面白かった!」とスカッと言えるものではない。むしろ大量の謎や疑問を残されて、まるで巨大な迷路の中に放り込まれたような気持ちになるだろう。でもそこには“迷子になる楽しさ”みたいなことが、きっとある。寺山が投げかけ、『レミング』メンバーたちが渾身の力で打ち返した球の行方を、このライブに触れることで追いかけてみてほしい。

profile
寺山修司(てらやま・しゅうじ)
映画、短歌、エッセイ、競馬評論などの様々なジャンルで活躍した、戦後のサブカルチャーを語る上で欠かせない人物。特に演劇では「演劇集団◎天井桟敷」を主宰し、多数の作品を発表した。主な作品に『書を捨てよ、町へ出よう』(評論集/後に舞台・映画化)、『あしたのジョー』テーマ曲(作詞)、『身毒丸』(演劇)など。83年没。

松本雄吉(まつもと・ゆうきち)
1970年に劇団「日本維新派(現・維新派)」を結成。劇場以外の場所での表現にこだわり、関西各地でパフォーマンス色の強い野外劇を上演する。90年代に、ラップ調の台詞回しや機械的な動きを用いて、様々な街の風景を壮大に描き出す「ヂャンヂャン☆オペラ」のスタイルを確立し、海外でも高く評価されている。11年に紫綬褒章を受賞。

天野天街(あまの・てんがい)
愛知学院大学在学中の1982年に、劇団「少年王者(現・少年王者舘)」を結成。日本語の概念をくつがえすような脚本、映像やダンスを奔放にミックスした演出で、若い演劇人の尊敬を集めている。初監督を務めた映画『トワイライツ』では、短編実験映画のアカデミー賞と言われる「オーバーハウゼン国際短編映画祭」でグランプリを獲得。

「レミング ~世界の涯まで連れてって~」

作:寺山修司、演出:松本雄吉(維新派)
上演台本:松本雄吉、天野天街(少年王者舘)
出演:八嶋智人、片桐仁、常盤貴子、松重豊、ほか

日程:2013年6月1日(土)・2日(日)
場所:イオン化粧品 シアターBRAVA!

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