笑い飯・哲夫、エロ小説を上梓「想像でヌイてるヤツが絶対おもろい」

2012.2.2 10:00

2002年、みうらじゅん、伊集院光による放談書『D.T.』によって本格的に幕が開けた現代童貞論。その後、嵐・二宮和也主演のドラマ『STAND UP!』(2003年)、松江哲明監督の傑作映画『童貞。をプロデュース』(2007年)など「童貞」というワードは各方面でクローズアップされて徐々にロードサイドへ。その典型こそ、「草食系」なるトレンド&モテ系への意外なアップデートであった。

しかし2011年、映画『モテキ』『ソーシャル・ネットワーク』で突きつけられた「童貞は物語の主人公になれない」という事実。『モテキ』の主人公・藤本幸世は、るみ子とヤッちまったからこそ、みゆきに立ち向かえたワケだし、『ソーシャル・ネットワーク』のマーク・ザッカーバーグも、ショーン・パーカーとの初対面で童貞臭さを見抜かれて発奮し、フェイスブックを巨大化させていく。そう、童貞は決してヒーローではないのだ。今ここで目を覚まし、原点に立ち返るべきだ。「童貞は決して日なたのモノではない」ということを…。

『M−1グランプリ』優勝をはじめ、数々の漫才賞に輝いてきたお笑いコンビ・笑い飯の哲夫が2011年12月に発表した小説『花びらに寄る性記』は、『D.T.』以降の童貞文脈として系譜し、語るべき快(怪)書といって間違いない。「童貞絶賛こじらせ中」の中学生的思考で描かれる、哲夫のエロ妄想世界。机にうつぶせになって昼休みを過ごすような男子の目線で、さらに、その男の子が想う女子の飼い犬の目線などで、“あの頃の性”の日陰感、ナマ臭さを綴っていく。

「中学生のとき、よく自分で想像力を膨らませてエロ小説を書き、夜のオカズにしていたんです。笑い飯の漫才は“鳥人”とか想像をかきたてるテーマが多いですけど、その原点は確実に“あの頃”にある。今ってケータイなんかで簡単にエロ画像とか手に入りますけど、それって危険だと思うんです。想像しなくなるから。お笑いに置き換えてみても、エロ画像を簡単に手にいれてヌイてるヤツより、想像でヌイてるヤツの方が絶対おもろいですから!」

かくいう筆者も小学生の高学年時、実は部屋にこもってエロまみれの想像小説をシコシコとワープロで書き綴っていたクチ。2番目に好きな女の子が海で溺れているところを助けて、そのまま、くんずほずれつに持ちこむという、現実と非現実を微妙にリンクさせた内容だ(あっ、全然してないか・・・)。哲夫はそれについて「その気持ち、分かりますわ~」と激しく同意!

「まず、童貞の必須アイテムはワープロなんですよ。直筆やと冷めるんです。あと僕も同級生が実名で登場していましたね。絶対に自分の手が届かないような女子。めっちゃ強いヤンキーの彼女とかを(中学時代の小説のなかで)ぐっちゃぐちゃにしてましたね(笑)。内容は、墓場まで持っていくような、ものすごいモンです…」

ここでポイントとなるのが「決して1番好きなコを想像のなかでオカズにしない」というこだわり。それは『花びらに寄る性記』にも頑として保たれている。

「そもそも童貞のときのオナ○ーって背徳感がすごいじゃないですか。僕は5歳の頃、幼稚園の先生に、みんなの前で見せしめみたいな形で怒られたことに快感を抱き、その日から股間を触っていたんですが、“こんな刺激的なことをやってるのは俺だけや。絶対、早く死んでしまう”とすごく怖かった。ただでさえそんな乱れた世界に、自分の1番好きなコを誘うことはできない」

現役童貞の吉本の後輩も「読んで、ヌイた」という今回の逸品。しかし、ただただエロいだけではない。文学的なフォーマットがしっかり敷かれているところが、高評価につながっている。もともと哲夫は三島由紀夫、太宰治などを愛読する文学好きでもあるのだ。

「『人間失格』を読んで一発でハマって以来、いろんな本を読んできましたね。三島由紀夫とは『日本を良くしたい』という部分では精神的に自分と繋がっている気がする。今回の小説は、表紙は谷崎潤一郎の『春琴抄』、文体を手記にして『人間失格』の“です・ます調”。2章の導入は夏目漱石『吾輩は猫である』。だんだん難しい文体になって、最後にまた分かりやすくなるのはダニエル・キイス『アルジャーノンに花束を』。中学生、犬、髪どめのゴムなど目線をズラす手法は、佐藤多佳子さんの『サマータイム』。いろいろ詰めこんでいます」

松本人志、板尾創路、木村祐一、品川ヒロシなどお笑い芸人が他ジャンルで才能を発揮し、成果を上げている前例が近年多くある。哲夫が、小説家としてこれからさらにクローズアップされてもおかしくない。『花びらによる性記』はその可能性を大いに感じさせる小説だ!

「芸人初の芥川賞を目指したいです。音楽界では町田康さんが獲っているわけだし、お笑い界からも何とかチャレンジしてみたい。いじめ問題、SM論、イスラム教など書きたいテーマがいろいろあるので、どんどん仕掛けていきたい。いずれは自著で映画化も…!」

哲夫 (てつお)
1974年、奈良県生まれ。お笑いコンビ「笑い飯」のボケ&ツッコミ担当。作家デビューは2009年の『えてこでもわかる 笑い飯哲夫訳 般若心経』。もともとエロ小説でデビューを狙っていたが、「“般若心経”の本が売れたら」という条件を突きつけられる。しかし、この処女作は5万部の大ヒットを記録し、2011年12月に念願のエロ小説『花びらに寄る性記』を発表した。

取材・文/田辺ユウキ 写真/バンリ

『花びらに寄る性記』
2011年12月25日発売
1,000円/ワニブックス

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