キリンジの2人に聞く、曲作りのヒミツ

2011.11.17 12:00
(写真2枚)

キリンジの2人がそれぞれ他者に提供した曲を集め、そのオリジナル音源と、さらにキリンジとして新たに録音したものを2枚に収めた『~Connoisseur Series~KIRINJI「SONGBOOK」』。同アルバムのリリースにあわせたライブを観た。レコード・デビューからすでに10年を超えるキャリアのなかから、今回は先にも書いたような事情から、“新しいアルバムの収録曲を中心に”という制約から自由だったせいか、かなり凝った選曲。イントロで、つい何度も“忘れようにも思い出せない”という古いギャグを思い出しつつ、「そう来るか~」の連続でにやにやしてしまった。そして、その『SONGBOOK』からの数曲。これが圧巻。キリンジのライブ・バンドとしての凄みに圧倒された。ライブの翌日、堀込泰行、堀込高樹の2人にその感想を伝えた。

取材・文/安田謙一 写真/長谷波ロビン

「細かい要求が出来ないんで、あらかじめ・・・」(堀込高樹)

弟・泰行「『SONGBOOK』を録音するにあたって、その前に「ビルボードライブ東京」でセルフカヴァー中心のライブがあったんですけど、その時にバンドで作ったアレンジが基になっています。自然にアレンジが出来上がっていったところがあって。いつもの自分たちの作品だとコンピューターにむかって、打ち込みながら作っていくんですけど、そういうものに比べて、バンドで作っていくと、いい意味での大味さとか、親しみやすさとか、王道感が出来上がるという。そこが面白かったですね。いつもの曲よりも取っ付きやすさがあるんじゃないでしょうか」

兄・高樹「人にあげた曲の方が歌いやすい、とか。…そういうとこない?」

泰行「そうだね。親切に出来てるっていうか。聴く人にやさしいというか。南波(志帆)さんのとかは難しいけど」

──南波さんへの提供曲『お針子の唄』のライブ・ヴァージョンではブリティッシュ・ロックの凄み、エグミを感じました。松任谷由実『時のないホテル』みたいな。

高樹「ああ、なっちゃったんですよね。ホントは歌謡曲なのに。ライブでやったらああ、なっちゃった」

キリンジの堀込高樹(左)と泰行
キリンジの堀込高樹(左)と泰行

──さっきの“親切なつくり”についてもう少しお聞かせください。それは歌手側からの発注の時点の要望ですか?

高樹「キリンジでちょっと難しい曲を作っちゃうと、泰行に頼めばがんばって歌ってくれるというのがあるし、録音にも立ち会って、細かく指示が出来るんだけど、デモテープとして渡してそれっきりになっちゃうと、メロディに対する誤解、たとえば、そこ半音高いです、とか、このシンコペーションが変わるとメロディの印象が変わるんで、歌詞を一個増やしたり、減らしたりしないでください、とか、そういう細かい要求が出来ないんで。それで、あらかじめ変更があっても耐えられる強度の強いものが求められるっていうのはありますね。自然に歌いやすかったり、覚えやすかったりというものになりますね」

──そういう曲の作りのせいか、提供曲のセルフカヴァーはライブに向いていると感じました。

泰行「今、アルバムで頭からお尻まで丁寧に曲を並べても、聴く人は飛ばしちゃいますからね。昔みたいに、がんばって聴かない。それは、時代の変化でしょうがないと思うんですが、ライブだと飛ばせない。やっぱり曲を並べた時の面白さってあるし」

──『SONGBOOK』での、これまでの曲よりシンプルな曲作りや編曲が、今後の作品に影響を与えるという予感はありますか?

泰行「たとえば『ハルニレ』のギター・ソロの後にオルガン・ソロが来るという、ベタな(笑)、でもグッとくるという。あの感じとかは否めないというか」

「曲を並べた時の面白さってあるし」とは弟・泰行
「曲を並べた時の面白さってあるし」とは弟・泰行

──これまでは意識的に避けていた?

高樹「なんか、そりゃ長いだろう、と(笑)。ソロ・パートそんないらない、とか」

泰行「ライブでメンバーみんなが同時進行で盛り上げていくから成立すると思うんですよね。ソロ・パートが2倍になるというのは。2人だけでやると、ああいう大きいアレンジはできにくいですね」

高樹「逆にライブの印象を音源に定着させようと思うと、たとえばロックぽい感じの演奏とかは、どうしてもコンプされた感じとか、音をちょっと歪ませたりとか、そういう傾向になりがちで、出来たときはいいんですけど、長く聴こうとすると、疲れるとか、飽きるとか。そういう風になっちゃうですよね。レコーディングの時の、長く聴かれるための音作りっていうのは2人で具体的に話しあったこともないんだけど、意識は共通してますね」

──録音された音楽が売られていく形もどんどん変わっているんですが、個人的には配信とか利用されてますか?

泰行「1回だけ(笑)。ホリーズのベストを」

高樹「1回! 俺はゼロだよ(笑)。音楽を“携帯”することがあんまりないんで。もちろん、聴かれている環境を把握していかないと思うんですけど。やっぱり盤で出したいですね。なんせ音、悪いですからね。新しいメディアが出るたびに、どんどん悪くなっていく。iPodもいちおう持ってはいるんですけど。(スティーブ・)ジョブスの偉大な功績の一個にされてるけど、余計なことしてくれたなと(笑)」

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