「功名が辻」では主人公に悲劇、一晩で消滅…“歴史的ミステリー”も生んだ「天正地震」【豊臣兄弟】

2時間前

『豊臣兄弟!』第40回より。天正地震の前、徳川家康との戦に備える豊臣秀吉(池松壮亮)(C)NHK

(写真8枚)

仲野太賀主演で、豊臣秀吉の弟・豊臣秀長(小一郎)が、兄とともに天下一統を果たすまでを描いていく大河ドラマ『豊臣兄弟!』(NHK)。

10月18日放送の第40回「あさひの輿(こし)入れ」では、これまでになく強い意志を持って、徳川家康の正室となるあさひ像が描かれた。実際のあさひの婚姻状況と、秀吉と家康の運命を変えた「天正地震」についても触れておこう。


■ 地震で一転、和睦交渉へ…第40回あらすじ

徳川家康(松下洸平)のお守り役のような存在だった家臣・石川数正(迫田孝也)は、豊臣秀吉(池松壮亮)の元に出奔し、豊臣家に忠誠を誓った。秀吉には「家康には愛想がつきた」と語った数正だったが、実は三方ヶ原の戦いのときに、家康に「わしが同じ失態を繰り返さぬように諌めてくれ」と言われたことを実行したのだった。

しかし、家康は戦う姿勢を崩さず、秀吉もそれに対抗しようと戦の準備を進めるなか、巨大な地震が起こる。

『豊臣兄弟!』第40回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第40回より。地震で怪我をした夫・副田吉成(前原瑞樹)に、里芋を食べさせるあさひ(倉沢杏菜)(C)NHK

拠点となる城がいくつも崩れた上に、領内の民を救済する必要がある秀吉は戦をあきらめ、織田信雄(山脇辰哉)を介して、家康と和睦交渉を進める。

家康は、自分の息子を秀吉の人質にしているのと同様に、自分の正室として、身内の女性をよこすという条件を出した。送り出せるのは兄弟の妹・あさひ(倉沢杏菜)しかいないということで、夫の副田吉成(前原瑞樹)と離縁させて、家康の元へ送り出した。

■ 『おんな太閤記』から45年…令和は変化

『豊臣兄弟!』第40回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第40回より。離縁して徳川家康に嫁ぐよう、豊臣秀吉から命じられるあさひ(倉沢杏菜)と夫・副田吉成(前原瑞樹)(C)NHK

徳川家康&石川数正、あさひ&副田吉成(甚兵衛)の“2つの別れ”が描かれた第40回。石川数正の出奔については先週のコラムで取り上げたので、今回はあさひの方にスポットを当てよう。

秀吉と家康が出てくる大河ドラマでは、2人が主従関係となるキーパーソンとして必ず登場するあさひだが、彼女が夫と離縁して、家康の正室になるまでの経緯を丁寧に描き、かつ自主的に家康の元に向かわせたというのは、かなり珍しいケースだ。

『豊臣兄弟!』第40回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第40回より。離縁した夫・副田吉成への想いを、豊臣秀長(仲野太賀)に託した妹・あさひ(倉沢杏菜)(C)NHK

あさひ&吉成の悲劇に大きなスポットを当てた『おんな太閤記』(1981年)をはじめ、たいていの大河ドラマでは、あさひの意見は聞き入れられず、とにかく秀吉が無理やり離縁させて家康に押し付けるパターンとなっている。

『徳川家康』(1983年)では、筆者の記憶が正しければ、甚兵衛は自害に追い込まれて、未亡人となって徳川家に送り込まれたし、このコラムでもしばしば出てくる『真田丸』(2016年)で清水ミチコが演じたあさひ(旭)は、出落ちみたいになっていた(それはそれで面白かったけど)。

ちょっと変化が出たのが『どうする家康』(2023年)。ここでは人質となって送り込まれた不安を、愛嬌と笑顔でどうにかしようとする健気さに、視聴者も家康もグッと来てしまった。

そして、今回の『豊臣兄弟!』では、彼女がただ兄たちに命じられるままに離縁→再婚したわけではなく、彼女なりに豊臣家の天下一統のために、戦にでも挑むような気持ちで決意し、吉成もその気持を尊重して離縁する・・・と、家族の絆に焦点を当てた『豊臣兄弟!』らしい、ある意味円満な決着の付け方となっていた。さすがに令和に入り、あさひの自主性が重んじられる時代に入ったのかもしれない。

『豊臣兄弟!』第40回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第40回より。駆け落ちを密告したのはあさひではないかと疑う夫・副田吉成。写真左から、副田吉成(前原瑞樹)、豊臣秀長(仲野太賀)、あさひ(倉沢杏菜)(C)NHK

では、実際のあさひと吉成の離婚はどうだったのか? というと、実はこの頃には、とっくに離縁していたらしい。本能寺の変のあとに起こった一揆で、吉成が守っていた城が陥落してしまい、怒った秀吉が別れさせてしまったそうだ。

ただ、別の資料では、秀吉に領地の加増を条件に離縁を迫られ、それを断って出家したともある。信憑性が高いのは前者の方らしいが、今回はあえて後者を取ったのだろう。そして輿入れも秀吉が強制したのではなく、むしろ家康の方から申し出たという意見が有力視されるようになっている。

『豊臣兄弟!』第40回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第40回より。豊臣秀吉の妹・あさひ(倉沢杏菜)を正室として迎えた徳川家康(松下洸平)(C)NHK

とはいえあさひは、このあと若くして病死してしまうので、まだ吉成が夫のままだったら、彼の嘆きはちょっと見ていられないほどだっただろう・・・と想像してしまう。

『光る君へ』(2024年)のわがままな姫君とは真逆の、庶民的で明朗なあさひを演じた倉沢杏菜。そして、数々の朝ドラに引きつづき、決して多くない出番ながらも強烈な印象を遺した前原瑞樹。永遠にラブラブぶりを見ていたいと思えたコンビネーションプレイを、長く記憶にとどめておきたい。

■ 歴史的ミステリー“幻の城”も生んだ大地震

『豊臣兄弟!』第40回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第40回より。関東の戦国大名・北条氏政に、豊臣秀吉との戦に備えていると話す徳川家康(松下洸平)(C)NHK

今回もう一つキーとなったのが「天正地震」だ。マグニチュード8近い大激震で、近畿・北陸・東海の各地で大きな山崩れや津波が起こり、甚大な被害をもたらした。にも関わらず、遺されている資料が乏しすぎて、死傷者の数はおろか、震源地すら未だに特定されていない、謎の多い地震でもある。

統治者がコロコロ変わり、目先のことしか考えられない戦国時代。アーカイブ機能などは二の次にされていた弊害が、何百年も経ってから出てくるとは。

複数の断層が一度にズレたことで、広範囲に渡って強い揺れをもたらしたと言われる天正地震。

武将たちにも被害が出て、石田三成(松本怜生)が戦のための兵糧を集めた大垣城は全壊焼失。大河ドラマ『巧妙が辻』(2006年)で主人公になった山内千代&一豊夫婦は、当時長浜城に住んでいたが、城が全壊して一人娘を失うという、痛ましい出来事に遭った。前田利家(大東駿介)もまた、城の倒壊で弟を亡くしている。

『豊臣兄弟!』第40回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第40回より。徳川家康の戦に向けて家臣を鼓舞する豊臣秀吉に、戸惑う豊臣秀長(仲野太賀)(C)NHK

しかし、最も悲惨な末路をたどったのは、飛騨の山城・帰雲城を拠点にしていた内ケ島氏だ。この地震で起こった山崩れで、帰雲城は一瞬で崩壊。

運の悪いことに、このとき城で大宴会が予定されていたため、当主の氏理をはじめとする内ケ島一族+家臣団もほぼ全員が巻き込まれて、生き残ったのは数名程度だった。こんな形で一族郎党が一晩で滅亡してしまうとは、なんとも気の毒としか言いようがない。

山崩れの規模があまりにも大きかったため、帰雲城は今も土の下で、どこにあったのかすらわかってないというのが、天正地震の壮絶さを物語っている。

そして、内ケ島氏とは逆に、この地震によって秀吉の侵攻がストップし、生き延びることができたのが徳川家康だ。豊臣兄弟や織田信長(小栗旬)の快進撃を見ても実感するが、やはり天下を取るような人間には、自然の摂理さえも動かすほどの強運が備わっているということなのかもしれない。

◇

大河ドラマ『豊臣兄弟!』はNHK総合で毎週日曜・20時から、NHKBSは18時から、BSP4Kでは12時15分からスタート。10月25日放送の第41回「家康の野望」では、秀吉があさひだけでなく、母・なか(坂井真紀)まで送り込んだことで、家康がついに上洛。秀吉との謁見が実現するまでの、秀長と家康の水面下での攻防が描かれる。

文/吉永美和子


【コメント全文】松下洸平に“豊臣兄弟”が挨拶「うちのあさひをよろしく」

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