「俺、謝罪って何?というのをずっとやってて」吉田恵輔監督が語る、映画『mentor』に込めた問題意識

2時間前

映画『mentor』の脚本・監督を務めた𠮷田恵輔監督

(写真8枚)

10月16日より全国公開され、鑑賞後の感想や考察がSNSでも広がっている映画『mentor』。同作は、少年時代に花火遊びでアパートを全焼させたことがある益子龍之介(磯村勇斗)と上谷拓海(末澤誠也/Aぇ! group)、その火事で妻子を失った被害者・埜本潤(綾野剛)が、15年後の再会をきっかけに、過去の罪や後悔と向き合いながら人生を大きく狂わせていく姿を描いている。

今回は、メガホンをとった吉田恵輔監督に、作品について話を訊いた(取材・文/田辺ユウキ)。

■ 少年時代の無邪気な過ち…「やり場のない感覚」から始まった物語

──物語の起点となる火事の場面ですが、少年が事件を起こしたという点がポイントですよね。

少年たちがやっていた花火の戦争ごっこは、昔はみんなやっていたようなことですよね。もしこれが大人のやったことなら「どうなるのか想像できるだろう」と思うけど、子どもがやったことだから、やり場のない感覚になるんですよね。

20代のときから「いつかそういう企画をやりたい」と思っていて、「1回(脚本を)書いてみよう」と、15年後に当事者の3人が再会する物語を考えていきました。

映画『mentor』より。埜本(綾野剛)、拓海(末澤誠也)©2026「mentor」製作委員会
映画『mentor』より。埜本(綾野剛)、拓海(末澤誠也)©2026「mentor」製作委員会

■「自己啓発の理想論」への違和感、『mentor』に込めたもの

──しかも被害者の埜本(綾野)が、加害者の拓海(末澤)のメンターになるという設定が興味深いです。拓海にとって埜本の言葉は、人生を前に進めるための支えになる。そこには自己啓発的な側面もありますよね。

自己啓発本を丸々一冊読むことはないけど、そういう本の要約をYouTubeで観たりするんです。1日に何本かそういう動画を観て、「いいこと言ってんな」「俺もこういうこと、自然とやってるかもな」と思ったりして。

そうしたら、そのうちの一つに俺の知り合いが書いている自己啓発の紹介動画があったんです。そいつは人間的にかなりクセがあるから、「あいつ、書いてること全然できてねえじゃん!」って(笑)。

映画『mentor』の脚本・監督を務めた𠮷田恵輔監督
映画『mentor』の脚本・監督を務めた𠮷田恵輔監督

──ハハハ(笑)。

そうすると、みんな信用できない感じになって。確かにいいことを言っていても、再現性があるかと言われたら難しいですよね。つまり、メンターが言うことは理想論でしかないというか、自分の中でそういう違和感が生まれていき、話の中に落とし込んでいったらどうなるんだろうって。

──一方で現実には、つらいことがあったとき、自己啓発的な考え方で自分を奮い立たせることも少なくないですよね。たとえば失恋して、「もっときれいになろう、格好良くなろう」と自分に言い聞かせて前向きになっていくとか。

俺の撮っている映画ってほとんどそうなんです。つらい現実に対して、視点をどこに持っていくか。『空白』(2021年)の場合は、それを怒りにする。事故で亡くなった娘に自分がもっとできたこと、逆にできなかったことに向き合えないから、他者を攻撃して、いたたまれない時間を過ごす。

『mentor』では、龍之介がアーチェリーと向き合い、その活躍でお母さんに喜んでもらうことでつらい過去に蓋をしていくとか。人間は何かにすがらないと生きていけないものなので、すがり先とすがり方、そしてその濃度みたいなものが必要で、どれかを間違えると事件へと発展したりする。それに近い話を俺はこれまで何度も書いていると思います。

映画『mentor』より。龍之介(磯村勇斗)©2026「mentor」製作委員会
映画『mentor』より。龍之介(磯村勇斗)©2026「mentor」製作委員会

■「反省とは何か」過剰な謝罪と、想像力が欠如した現代社会

──『mentor』では、自己啓発と並んで、謝罪もこの映画の大きなテーマになっています。今は何か不祥事を起こしたら、誰の目にも分かるくらいの謝罪が求められますよね。オーバーなくらい謝罪しても、その謝罪に誠意があるかどうかは、視聴者や読者の判断に委ねられてしまいます。

俺、「謝罪って何?」というのをずっとやっているんですよね。『空白』でも、「反省しているやつがスタミナ定食の大盛りを食べるのはダメでしょ」とか(笑)。でも本来、反省と食は関係ないですよね。なんで食を細くしなきゃいけないんですかって。

でも視聴者や読者は攻撃態勢でいるから、反省している人間がしっかりと食べていると分かると、それすら許せないんですよね。俺は「反省とは何か」にずっとこだわっているんです。第三者の悪意のある書き込みも然り、他者への想像力の欠如みたいなものをずっと描いています。

映画『mentor』の脚本・監督を務めた𠮷田恵輔監督
映画『mentor』の脚本・監督を務めた𠮷田恵輔監督

■「拓海は末澤さん以外あり得なかった」今しかできない貴重な芝居

──末澤さんが演じた拓海は全力で“号泣土下座謝罪”するから、周囲も「誠意がある」と心を打たれる。非常に分かりやすい謝罪ですよね。

末澤さん本人が本当にそう感じてやっていたと思うんです。「拓海という人間はこれが正しい」と信じてやっている。末澤さんは個人では映画での芝居が初めてだから、「この場面の謝罪はこういうものだ」とガチなんですよね。

でも本気度が入っていればいるほど、俯瞰で見るとおかしく映る。今の末澤さんにしかできない貴重な芝居だし、拓海は末澤さん以外あり得なかったです。

映画『mentor』より。埜本(綾野剛)、龍之介(磯村勇斗)、拓海(末澤誠也)©2026「mentor」製作委員会
映画『mentor』より。埜本(綾野剛)、龍之介(磯村勇斗)、拓海(末澤誠也)©2026「mentor」製作委員会

■ 「ハコ」から抜け出す移動劇、“働く車”が会話劇にテンポを生む

──拓海と埜本の距離が縮まる場面も印象的でした。お互いが社用車で並走し、顔を見合わせて笑うという。そもそも吉田監督の作品には車がよく登場しますよね。登場人物がどんな車に乗り、車でどのような行動を起こすかも特徴的です。

俺はまず、働く車が好きなんですよね。『ミッシング』のミキサー車やバキュームカーとか。車をよく出す理由は、俺の物語は基本的には会話劇だから。そうすると、主人公たちが動けないんですよ。会話のシチュエーションって、居酒屋や部屋の中、あと喫茶店とかが多いですよね。

でも“ハコ”の中でお喋りが続くと、観ている側は窮屈に感じて飽きちゃう。だから会話劇でも車を走らせたりして、映画のリズムを作っていくようにしているんです。それがあることによって、会話劇だけでは収まらない内面の動きにもつながるし、映画的にも、止まっている画から流れている画になることでテンポが出ます。

■「人間って脆いんですよね」感情があふれる瞬間をどう描くか

──個人的には、龍之介と埜本が食事をしながら胸の内を明かす場面の“動き”が素晴らしかったです。龍之介が、事件以降の自分の核心部分に触れかけたとき、トイレに立ちます。ところが店員から「トイレは使用中です」と告げられ、席に戻ることになる。そして感情が湧き上がるという。あそこで一旦、立たせるという演出があることで感情の吐露に奥行きが生まれました。

あれはね、俺の性格を反映しているんです。自分があのシチュエーションだったら、トイレに行く。トイレの中で感情を出して、落ち着いてから席に戻るんです。『ミッシング』のときも、テレビ局のロングインタビューのシーンで、沙織里(石原さとみ)が、自分の言ったセリフが虎舞竜の歌詞と重なってしまいそれを突っ込まれて泣いちゃうということがありましたよね。

つまり、自分で前に進もうと思ったのにもう一回引き戻されて、足払いされると人間って脆いんですよね。子どもってそうじゃないですか。せっかく泣くのを我慢したのに、周りから「あ、泣いちゃう、泣いちゃう」と言われると涙が出ちゃうことがある。

映画『mentor』より。龍之介(磯村勇斗)、埜本(綾野剛)©2026「mentor」製作委員会
映画『mentor』より。龍之介(磯村勇斗)、埜本(綾野剛)©2026「mentor」製作委員会

──ありますよね。

『ミッシング』の場合は、「どういう風に足払いするか」の大喜利をめちゃくちゃやって、かなり奥深いところまでいきました。僕の映画は、そのパターンをどのように見つけるかだと思います。

──本当に、何度でも鑑賞したくなる映画でした。詳しくは書きませんが、終盤、埜本がある人物とやりとりする場面には驚かされました。アイデアといい、俳優さんたちの演技といい、非常に印象に残っています。

本編にはまったく関係ないようなことだけど、そこで心がちょっとだけグラッとなるんですよね。あれも、一回引き戻される場面。自分が想像していなかったことが起きると、リズムが崩れるという。

この映画は、きっといろんな感情を観客に与えるはず。イライラしながら観る人もいれば、泣いている人もいて、その横で笑っている人もいるような。映画館の中でそういう光景が広がってほしいですね。

映画『mentor』の脚本・監督を務めた𠮷田恵輔監督
映画『mentor』の脚本・監督を務めた𠮷田恵輔監督

映画『mentor』は10月16日より全国で公開中。(※吉田監督の「吉」の字は土に口が正式表記)

写真/Lmaga.jp編集部


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映画『mentor』

2026年10月16日(金)公開
監督・脚本:𠮷田恵輔
出演:磯村勇斗、末澤誠也、木南晴夏/酒井若菜、川上麻衣子、二村仁弥、黒沢あすか、田村泰二郎/綾野剛 他
配給:エイベックス・フィルムレーベルズ、スターサンズ
上映時間:115分
製作:2026年/日本
©2026「mentor」製作委員会

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