幻の劇団「維新派」を疑似体験、屋台村も復活! 10月に大阪の公園で“無料”開催

『透視図』(2014年/大阪・中之島)撮影/井上嘉和
大阪を拠点に、国内外でスペクタクルな野外劇を作り続け、主宰・松本雄吉が2016年に逝去し、2017年に解散した劇団「維新派」。彼らの作品を野外で上映するイベント『十字路の迎え火』が、10月9日から4日間限定で難波宮跡公園「なノにわ」(大阪市中央区)にて開催される。
松本の逝去から10年を経ても、彼らの生み出した野外劇のすごさは伝説のように語り継がれている。もはや再現不可能なあの世界を、今からでも疑似体験できるとは…。
維新派と松本雄吉の取材を何度も行ってきたライター・吉永美和子が、初心者必見の解説や見どころを紹介する。

■まずは基礎知識から。「維新派」ってどんな劇団?
維新派の結成は、アングラ演劇全盛の1970年。「日本維新派」と名乗っていたこの頃は、半裸の男たちが一升瓶の水を一気飲みして嘔吐したり、毎日公演中に排泄をおこなう(実は内臓機能を制御しないとできないスゴ技)など、身体の限界を見せつけるパフォーマンスを行う野外劇が名物となっていた。
しかし劇団名が「維新派」に変わった頃から、少年たちを主人公にして、独自の都市論や風景論を表現する音楽劇に移行。さらに、もともと松本が現代美術と建築に強い関心を持っていたこともあり、デザイン性の高い巨大劇場を、公演ごとに打ち立てるのが恒例となった。

新世界の「ジャンジャン横丁」にちなんで「ヂャンヂャン☆オペラ」と呼ばれた独自の野外劇で、維新派は演劇やダンスファンのみならず、多様なジャンルから注目を集める存在となっていく。
■ 最大の魅力は……究極の「ビルド&スクラップ」!
維新派を語るときに欠かせないのが、その野外劇のスケールだ。劇団員やスタッフが現場で共同生活を送りながら、約1カ月をかけて学校の体育館…時にはそれ以上のレベルの劇場を建設。何千本もの丸太が組まれたり、人が十分住めそうな建物が次々に動き回ったり、あるいは琵琶湖の水面を舞台にしたりと、公演ごとに「ここまでやるか!」とびっくりさせるアイデアを実現した。

また、瀬戸内の離島や奈良の山奥などの、自然豊かな場所で公演を打つときは、逆に美術を極力シンプルにして、その風景美を引き立てる世界を作り上げた。そして公演が終わると「せっかく作ったのに…」などとは1ミリも考えず、あっという間に解体して、何事もなかったように去っていく。この究極の“ビルド&スクラップ”の潔さも、多くの人が維新派に惹かれた理由の一つだろう。

■ 音楽、振付、劇場外の現象も巻き込んだ総合芸術
さらに維新派を語るうえで欠かせないのが、現代音楽家の内橋和久作曲・生演奏の音楽。セリフではなく「単語」を変拍子の曲に乗せて、関西弁のイントネーションで発する“オペラ”は、終演後には思わず口ずさみたくなるような中毒性がある。
それに合わせた振付も、日常の動作を繰り返したりデフォルメした、一見シンプルでミニマムなもの。しかし、真似してみると意外と難しいこの動きによって、実は「日常」のなかにもダンスがあり、物語があるということに、観劇後しばらく経ってから気づいた人も多かったはずだ。

この舞台美術・音楽・振付に加えて、野外ならではの効果──時間とともに変化する空の色や街の明かり、山や海やアスファルトの匂い、あるいは街の喧騒や虫の声までも、芝居の一部として観客に体感させる。まさに「風景すら巻き込んだ総合芸術」は、今もなお維新派にしかできない世界なのだ。
■ ただの上映会ではない! セットで楽しむ屋台村も登場
90年代後半以降の維新派の作品は、DVD化されたものが多く、上映会もしばしばおこなわれている。映像で観ても、綿密に作り込まれつつも、大阪らしい“おおらかさ・あたたかさ”も感じられる劇世界の素晴らしさは伝わるが、やはり維新派公演の楽しさは、10軒以上のお店が軒を連ねる「屋台村」とワンセットなのだ。

公演前に、異国情緒あふれる雰囲気のなかで腹を満たし、終演後は多彩なアルコールで一杯やりながら、公演の感想を…。ときには松本雄吉本人と語り合うのを、芝居以上に楽しみにした人は多かったはず。

今回の『十字路の迎え火』が特別なのは、野外で作品を上映することに加えて、屋台村も設営されること! 公演当時と同じように、街の空気や空の変化をダイレクトに感じながら作品を観て、屋台村でその余韻を増幅させる。

当時の楽しさを懐かしむ維新派ファンはもちろん、さまざまな事情で維新派に出合えなかった人も、今回は実際の野外劇に近い形で体感できるはずだ。

■ 上演されるのは4作品、その見どころと鑑賞ポイント
今回上演される演目は、10月9日は『透視図』(2014年)、10月10日は『十五少年探偵団 ドガジャガドンドン』(1987年)、10月11日は『水街』(1999年)、10月12日は『アマハラ』(2016年)。各作品の特徴と見どころを紹介しよう。

『透視図』は、現在は「中之島GATEサウスピア」のある、大阪都心ド真ん中の河岸に、計16個の正方形の舞台を並べただけという、余計なものを一切削ぎ落とした空間が特徴。
俯瞰すると、碁盤の目状の大阪の街にも見える世界を用いて、「水の都」と呼ばれた大阪の過去の風景を、現代社会からはみ出した少年少女たちの視点で描き出した。舞台に本物の川の水を引き込み、かつての川の風景をよみがえらせたようなラストシーンが圧巻だ。

『十五少年探偵団 ドガジャガドンドン』は、この中では唯一ソフト化されておらず、上映の機会も少ないレアな演目。日本維新派時代の男たちの荒々しいパフォーマンスから、少年たちの視点で都市を描く、スチーム・パンク風の世界へと変化していく、その分岐点と言える作品だ。
また、パフォーマーとしても高く評価されながら、1990年代半ばから作・演出に専念するようになった松本雄吉が舞台に立つ姿を拝める、貴重な作品でもある。

『水街』は、2000年にオーストラリアの演劇祭で、初めて海外公演を実現した記念すべき作品。戦前の「大大阪」と呼ばれた時代に、大阪市大正区の湾岸エリアに実在した、海上の沖縄人街を再現。
住人たちの厳しくも愉快な日常の暮らしと、工業都市・大阪の姿をリアルに描き出した大作だ。三池崇史映画の美術でも知られる林田裕至が手掛けた、本物の水を約30トンも使ったセットは「CGか?」と思うほど、非現実的な迫力だ。

『アマハラ』は、松本逝去後に劇団員たちで完成させた最後の作品。ほかの3作が大阪の都心部に劇場を建てたのに対して、この作品は奈良・平城京跡の広大な空き地に、大きな船のような舞台セットを作って上演された。
戦前に様々な夢と目的を持って、台湾やフィリピンなどのアジアの島々に移住した日本人たちの姿を、一緒の船に乗って見て回るような感覚で描き出した一大叙事詩だ。維新派の歴史の中でも最大規模の可動式舞台が出てくるのに加えて、多くの観客を涙させた、松本からの最後のメッセージのようなラストも必見。
■ できれば全部観てほしいけど…あえて1本選ぶなら?
維新派未体験者が1本選ぶとしたら、シンプルな空間にコラージュを重ねていくような世界が好きなら『透視図』、わかりやすい物語性とスペクタクルを求めるなら『水街』、激動の歴史のダイナミズムも感じ取りたいのなら『アマハラ』というところだろうか。
『十五少年探偵団 ドガジャガドンドン』は、どちらかというと近年の維新派を観ていた人たちが「こんな時代もあったのか!」と再発見するための作品に思える。ただ、蒸気がバンバン吹き出していく迫力や、今や知る人の少ない“パフォーマー・松本雄吉”を目撃したいなら、ぜひ観ておこう。

■ 入場無料なので、フラリと観に行くのもOK
実は、この上映会自体は料金無料! ただしイベント期間は連休中で、全国から熱心なファンが押し寄せることが予想されるので、気になる作品があったら、早めに予約を申し込むことをオススメする。
そしてここまで読んで、もし維新派に興味がわかなかったとしても、ぜひ屋台村だけでも楽しみに来てほしい。自分が普段暮らしている街に、突然異世界が現れ、翌日から風景の見え方が一変するという維新派の魔法は、この屋台空間でも十分体感できるはずだから。
◇
『十字路の迎え火』各上映会の座席優先予約は、9月12日から開始。上映会以外にも、ゆかりのアーティストを招いたミニライブや、松本雄吉の戯曲を朗読するリーディング公演もおこなわれる予定(ラインアップは後日発表)。また現在クラウドファンディングがおこなわれていて、多数の特典も用意されているので、興味が出た人はぜひチェックを。
『十字路の迎え火』期間:2026年10月9日(金)~12日(月・祝)、会場:難波宮跡公園「なノにわ」(大阪市中央区)、料金:入場無料、上映作品:10月9日『透視図』、10月10日『十五少年探偵団 ドガジャガドンドン』、10月11日『水街』、10月12日『アマハラ』
文/吉永美和子
『十字路の迎え火』
期間:2026年10月9日(金)~12日(月・祝)
会場:難波宮跡公園「なノにわ」(大阪市中央区)
料金:入場無料
上映作品:10月9日『透視図』、10月10日『十五少年探偵団 ドガジャガドンドン』、10月11日『水街』、10月12日『アマハラ』
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