加工も整形も…“かわいく生きたい”は「信念の話」、大森靖子が新作に込めた思い

2時間前

10thアルバム『BABY! PINK! MUSIC!』をリリースする大森靖子

(写真7枚)

SNSで理想の自分を発信し、美容やファッション、加工技術までもが自己表現の一部となった現代。「もっとかわいくなりたい」「かわいくあり続けたい」という思いは、ときに執念にも似た熱量を帯びながら、生き方やアイデンティティとも深く結びついている。

そんな女性たちの葛藤や願いを、デビュー以来歌い続けてきたのが、“超歌手”大森靖子だ。

現在「ZOCX」「絶対少女」などアイドルグループのプロデュースや楽曲提供・・・と多方面で活動。自身の音楽活動では、2度目となる47都道府県ツアーで全国を巡り、8月26日には10枚目のフルアルバム『BABY! PINK! MUSIC!』をリリースする。そんな大森に、新作に込めた思いや、自身が考える「かわいい」について聞いた。

■ 47都道府県でライブ「生で音楽を届けに行くことを大切に」

──スケジュールや体力面など、大変なことも多いかと思うのですが、各地でライブをするにあたっての思いはあるのでしょうか。

私は出身が愛媛県なんですけど、やっぱり地元にあるライブハウス「松山サロンキティ」に来てくれたミュージシャンのことは、もれなく一生好きになりましたね。自分が大切にしているミュージシャンが地元に来てくれたら、「ありがとう」という気持ちになります。

それと今、私をインターネットで知ってくれている人が多いタイミングだと思うんです。私は「生で音楽を届けに行く」っていうのを大事にしていて。それなのに全国を回らないという選択肢はない、というのが大きな理由です。

──そんなライブやイベントで全国を回る大森さん目線で「関西の女子」ってどう思われますか?

関西の地域によって違うけど、大阪の子は結構ちゃんと派手です(笑)。グッズにピンク色に大きく「大森靖子」って書いたTシャツがあるんですけど、大阪の子はそれに加えてピンクのヒョウ柄を合わせたりして、下半身まで派手にしてきてくれる。

やっぱり平成育ちなので、ああいう派手な感じを見るとテンションが上がります。きっと「自分はこういうのを着ていいのかな」って迷いがあった上で頑張って着てくれてるんだなというのも伝わるし、嬉しいですね。

「ライブで曲を育ててから音源化するっていうのが、ミュージシャンとして純粋な流れかなと思っていて。一緒に活動しているバンドのメンバーやスタッフさんと、そういう曲の育て方ができたら幸せだなと思ってセトリを組んでいます」

■「かわいい」に執着することは悪いことじゃない

──2025年の『関西コレクション』にアイドルグループ・ZOCXとして出演された際、大森さんの「今日ここに集まってくださった皆さんが、その心、その顔で、そして大好きな服を着て何度でも人生をやり直しまくりながら、素敵な人生を送れますように!」というMCが印象的で・・・。改めて、このMCに込めた思いを教えてください。

関コレに来てくださる方は、やっぱりファッションに興味あったり、インフルエンサーの方に興味を持って「この顔かわいいな」とか「このメイクできるかな」って憧れたり、自分がなりたい像があるわけですよね。
 
自分の世代は雑誌が主流だったんですけど、雑誌を読みながら「これは自分の“かわいい”じゃないのかな」とか「やっぱり自分はこういう風に生きちゃダメなのかな」みたいな思いがあって。そういう気持ちが邪魔をしたと思う部分があったんです。だからこそ、みんなには「迷いなく好きに生きてくれるといいな」っていう気持ちを込めてパフォーマンスをしました。

『KANSAI COLLECTION 2025 SPRING&SUMMER』のライブステージに登場したZOCX(2025年3月2日撮影)

──それでいうと、大森さんが手掛ける曲には「かわいくなりたい」や「かわいい」に関するフレーズがよく登場しますよね。写真の加工や美容医療の進化によって、世の中の“かわいい”へのこだわりはより激化しているように感じます。大森さんから見て、「かわいい」への執着はどう思われますか。

旧ZOCのメンバーに「初代加工詐欺」って言われてる子がいるんです。昔は加工のしすぎは「悪」という風に扱われてて、ライブで変な煽り方をされることもありました。それでもポリシーを貫いてかわいくあろうという信念や、自分の信念に画像を合わせにいくことって何の詐欺でもないと思っているんです。貫きたいものがあれば、実際の形はどうあれ、周りにも自分にもそう見えてるんだから好きなようにすればいいって。

実際に骨や皮膚とか顔の形を変えて、「信念に合わせに行く」のが身の丈に合ってると思うのならそれでもいいし、メイクで頑張るんだったらそれでもいいし。結局自己満足で、「自分が思う自分で生きればいい」っていう話を“かわいい”という領域でやっているだけだと思うんです。

──なるほど。

でもそれって、見た目だけの話じゃなくて。「こんな風に仕事がしたい」とか「こう人と関わりたい」と同じ話をしてると思うんですよ。若い女の子の「かわいく生きたい」っていうのは「自分はこういう人間でありたい」っていう信念の話をしているから、馬鹿にしていいものじゃないし、それに囚われてることが悪いこととも思わない。

それが伝わればいいなと思って、曲も人間の生き様とか歪み、「なんでうまく生きれないんだろう」とか、そういう思いを見逃さないような作りにしたいと思っています。

8月26日に発売される『BABY! PINK! MUSIC!』ジャケット
8月26日に発売される『BABY! PINK! MUSIC!』ジャケット

──今回のアルバム『BABY! PINK! MUSIC!』に収録されてる『お・ん・な・のこ♡もおど♡』や『姫まどんな』の歌詞にも、そういった要素が感じられます。

マドンナみたいな格好をしたり、地方のミスコンみたいなイベントに出ている人がいると思うんですけど、あれが「マドンナ」なんですよ。みんな、マドンナに憧れたり、マドンナにはなれないって思ったりするものじゃないですか? 私は、そういうマドンナや姫は自分の生き様とは真逆だと思っていて、ロックをやりたい、かっこよく生きたいと思っていたんです。

でも、その思いと「かわいく生きたい」というのは別軸じゃないはずで、「かわいいままでロックってできないのかな?」とも思っていて。私は背も低いし、正直むっちりしてる方がかわいいと思ってるし、このままの自分でロックしちゃダメなのかな?みたいなことを、中高生の時はずっと思っていました。その当時を思い出しながら作った曲ですね。

■ 13年ぶりに描く街「今の新宿を書かないといけないと思った」

──同じくアルバムに収録されている『新宿2026』は、『新宿』のアンサーソングという形でしょうか。

『新宿』って曲を作ったのが13年前で、その頃の新宿と今の新宿は、街自体が変わりました。あの頃はトー横もなかったし、昔とは別の意味で怖い街になってしまった。でも、新宿が持つドス黒さとか、逆になんでも許される雰囲気は変わらないんですよ。

それが救いになってる人もいるわけで、トー横にしか居場所がない人もいるわけじゃないですか。そういう人の気持ちを拾えたらいいなという気持ちは変わっていないので。

──『新宿』には歌詞に「きゃりーぱみゅぱみゅ」とありますが、『新宿2026』には「大森靖子」とご自身の名前が入ってるわけですよね。

当時はきゃりーちゃんが音楽活動を始めた時ぐらいで、ルミネの看板がきゃりーちゃんだったんですよ。でもきゃりーちゃんって雑誌カルチャーの出身で、新宿にきゃりーちゃんがいたってことが衝撃的だったんです。だから『新宿』もその看板を見て作ったんです。

新宿って本当にいろんなファッションの人がるんですよ。どんな格好でいても「こんな格好でこの街にいていいのかな」って感じがなかったのが東京だなぁって感じたんです。

──「TikTok」や「X」といった、現代のフレーズが入っているのも印象的です。

それこそ、『新宿』の「女の子だけもらえるポケットティッシュ」というフレーズは、キャバクラの勧誘を指しているんですけど、あのティッシュをもらうのはウザいはずなのにどこかで「女の子として認められてるんだ」みたいな気持ちもあって。肯定されて嬉しかったり嫌だったり、そんないろんな気持ちを曲にしたんです。

ただ最近、条例が変わってそういうティッシュの配布自体が無くなって、「歌詞の意味がわかりません」って言われるようになってきたんですよ。「確かに配ってないわ!」って気づいて、「じゃあ今の新宿を書かないとな」ということで歌詞も結構変えました。

8月26日に『BABY! PINK! MUSIC!』をリリースする大森靖子
8月26日に『BABY! PINK! MUSIC!』をリリースする大森靖子

■ タイトルの裏側、「Baby」と「Pink」を並べた理由

──ちなみに、アルバム『BABY! PINK! MUSIC!』のタイトルには、どういった意味が込められているんでしょうか?

アルバムのタイトルって、自分の音楽をキャッチーにわかりやすく表現するためにつけるものだと思うんですよ。例えば日本の「kawaiiカルチャー」って、海外の方が思ってる以上にもっとドープで自発的で、女の子が「お金はないけど映えたい」みたいな、手作りのカルチャーじゃないですか? そういう温度感がもっと伝わればいいのにな、と思って前作は『THIS IS JAPANESE GIRL』と付けたんです。

それで今回のタイトルをつけるとき、今度は「自分のあり方ってなんだろう」と考えました。私はずっと銀杏BOYZが好きなんですけど、17歳の時、『BABY BABY』っていう曲がホントに嫌いだったんですよ。理由は「みんなが好きだから」。ライブでその曲が始まったら帰るみたいな、とにかくひねくれた人間だったんです。

私も最近『子供じゃないもん17』って曲がバズったんですけど、「これで大森靖子知った人なんて本当のファンじゃないよね」とか言ってる高校生を見かけて、「かわいい!」って(笑)。「私も思ってた、それそれ!」みたいな。

だから私にとって「BABY」っていう言葉はもう自分のものじゃないっていうのが染みついてるけど、音楽的には「BABY」って歌詞はすごく優秀で、言いやすいんですよ。考えてみると、私は何かを表現する人になりたくて、でも音楽のことが好きすぎて、「ミュージシャンにだけはなれない」と思って東京に来たんです。

「PINK」もそうだけど、一度「自分のものじゃない」と思ったものを挟んだ方が「絶対にこれを貫いてやる」っていうこだわりにもなるんじゃないかと思ってて。だからタイトルに並べたんだと思います。

■ CD時代だからこそ、「宝物みたいな感覚を届けたい」

──今回のアルバムは、CD限定で2万円の特殊仕様バージョンも出るんですよね。

今「推し活カルチャー」がすごく広まってるので、アーティストと会えたりチェキが撮れるみたいな「~ができる」ということにお金を払ってるっていう感覚があるんです。そうじゃなくて、音楽を作りたくて曲を作って、その活動を支えてもらうというのがアーティストだと思ってるんです。

でも、今って時代的に、「CDを欲しい」という人はそんなにいないと思うんですよ。でもアーティストとして、音楽に対してお金を払うっていう感覚は持ってほしいんです。

歌詞カードを読むドキドキ感は味わってほしいし、CDを宝物みたいに大事にしてたあの感覚も届けたいっていうのがあって、両方を叶えるシステムはないかなって。

クッキー缶を模した仕様に
クッキー缶を模した仕様に

だから今、CDにカードを封入して、ランダムで出てくるカードで特典会に参加できるっていうシステムも始めたんです。それでCDを買いたい人には価値を上げるけど、そのかわり本当に宝箱を作るから買ってもらうってシステムにしたら、CDも買いたい人も特典会に参加したいという人も両立できるなと思ったんです。

ありがとうという気持ちを込めてます。私、お菓子のカンカンが大好きなんですけど・・・それがイメージです。CDがクッキー缶に入ってたらかわいくないですか? 

──今、かわいいクッキー缶って多いですもんね。私もテンション上がります!

■「いつか壊れるからこそ美しくて、その美しさにこだわることがかっこいい」

──デビュー以来、「かわいい」や「女の子」をテーマに数々の楽曲を生み出してきた大森さんですが、改めて大森さんが考える「かわいい」とは何でしょうか。

1番キラキラしてるものって、1番醜いものだったり1番偏屈なものだったりするんじゃないかって思ってるんです。言葉も人間も、もう万物すべて、良い側面・悪い側面の両方を持ってるものじゃないかなって。いつか壊れるからこそ美しくて、その美しさにこだわるということがかっこいいなって思うんですよ。

自分にとっては、偶然かわいい見た目で生まれてきたからかわいいわけじゃない。だからこそ自分の曲が、誰かのかわいくなれるフィルターになれたんだと思います。

大森靖子
大森靖子

花譜への提供楽曲である『代替嬉々』、山崎育三郎への提供楽曲『光のない方へ』のセルフカバーや、インディーズ時代からのアンセム曲を一部歌詞を書き直してアレンジした『新宿2026』、同じくインディーズ時代からの曲『パーティードレス』の弾き語りなど、新曲7曲を含む12曲が収録された、10枚目のフルアルバム『BABY! PINK! MUSIC!』は8月26日発売。

47都道府県ツアー「大森靖子のライブに行くと幸せになれる47都道府県ツアー『PUNKTUARY 2026』」は、関西では8月7日に奈良「EVANS CASTLE HALL」、9月12日に大阪「GORILLA HALL OSAKA」にておこなわれる。

取材・文/つちだしろ 写真/木村華子

大森靖子

10th Full Album『BABY! PINK! MUSIC!』
2026年8月26日(水)発売

「大森靖子のライブに行くと幸せになれる47都道府県ツアー『PUNKTUARY 2026』」
日時:2026年8月7日(金)・19:00〜
会場:奈良 EVANS CASTLE HALL
編成:大森靖子

日時:2026年9月12日(土)・18:00〜
会場:大阪 GORILLA HALL OSAKA
編成:四天王バンド(Key sugarbeans / G. 堀崎 翔 / B. 千ヶ崎 学 / Dr.張替智広 / Cho, Hyper 宇城茉世)

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