「蓮見、やめてくれ」SNSで話題の劇団員、大阪で直撃「“売れなかった”と言って死んでいくのも幸せ」

2時間前

「匿名劇壇」の福谷圭祐(大阪・京橋にて5月14日/Lmaga.jp撮影)

(写真5枚)

「蓮見、やめてくれ」──お笑い芸人と劇作家・演出家の二足のわらじを履き、今年「岸田國士戯曲賞」を受賞した「ダウ90000」の蓮見翔に向けた怪文書が、5月13日にX(旧Twitter)で公開された。すると、800万回近く表示されるほど大バズり。

演劇&お笑い界隈で、共感する人、ユーモアを称賛する人、納得する人が続出した。記したのは、大阪の劇団「匿名劇壇」を主催する劇作家・演出家の福谷圭祐だ。

「演劇をもっとメジャーにしたい」と公言する蓮見。それが「売れない劇団員」の自分にはいかに不都合なことか。切々と長文で語っている。

「演劇は流行らなくていい。
俺は売れない演劇人、自称・劇団員だ。
今年で36歳になる。
ここまで来たら、もう俺には必要なんだ。
「演劇は流行っていなかった」という言い訳が。……(後略)」

福谷がこの文章を公開した狙いは? そしてどんな芝居を作ってるのか? 福谷を10年以上取材し続けているライターが投稿の翌日、大阪市内で本人に話を聞いた(取材・文/吉永美和子)。

■もらい事故の上田誠「面識がないのに申し訳ない」

──「自分が売れないことを時代や国のせいにしておきたいのに、演劇が流行る世界になったらその言い訳が通用しないから困る」という自虐的な思いを、ユーモラスかつリズミカルに描き出した文章は本当に見事でした。

今年に入ってから、自分のSNSをもっと広めたいという思いがあって、いろいろ試行錯誤してたんです。「俳優特性診断」という表を作ったり、「情報解禁」の代わりに「劇報」という言葉を使おうとか。そうやって作戦を練ると、割と当たるということがわかった。

それで岸田國士戯曲賞の授賞式の直前ぐらいに、今回の文章のもっと短いものを、Xに上げたんですね。

『俺は”演劇が流行ってない時代のせいで売れなかった”と言えないと、自分が困るので、演劇を流行らせようとしないで欲しい。俺は、演劇が流行ると、困る。時代のせいで売れなかったという結末にしてくれないと、困る。だからもうやめてくれ。そういうことは、やめてくれ。いいか、蓮見。頼む。やめてくれ。』

そうしたら蓮見さんが「いいね」を付けてくれたので、これは歓迎してくれてると思いました。

──福谷さんは以前から「もっと世間に認知されたいけどできない」ということを、作品でもコラムでもよくテーマにしていましたが、ついに大ヒットが出ました。

やっぱり「こういうものを書けば当たるな」という作戦だけじゃ、ダメなんですよ。そこに「こんなことが書きたい!」という魂が乗っかると、いろんな人に刺さるんですよね。あの「蓮見、やめてくれ」というのは、言うても本当に本音なので、しっかりと当たったなあという感じです。

──蓮見さんだけでなく、「岸田國士戯曲賞だけは獲らないで欲しかった。ああ、上田誠、お前もだ」と書かれて9年前に同じ賞を受賞した「ヨーロッパ企画」の上田さんまでもらい事故みたいになって、「火の粉がすごいのよ」と書かれていましたが。

あれは申し訳ないことをしました(笑)。僕、上田さんとは多分面識がないんですよ。でも、すごく近い距離にいる先輩という自覚があるのと、雑に扱っても笑って許してくれるだろうと、甘えてみたかったというか。上田さんも蓮見さんと同じように「(演劇が)広がれ」と思ってくれたから、拡散してくださったんだと思います。

──あとはお笑い芸人のヤナギブソンさんが、めちゃくちゃ絡んでましたよね。

嬉しいというか、ソワソワしました。すごく「会いたい」って投稿に返信をくださったけど、もっと僕がクリエイターとして売れたら会える人だと思っていたので、思想家みたいなポジションで面白がられるのは悲しいというか、嫌だなあと(笑)。だから「ありがとうございます」とだけお返事しました。

noteの反響について語る福谷圭祐(大阪・京橋にて5月14日/Lmaga.jp撮影)
反響について語る福谷圭祐(大阪・京橋にて5月14日/Lmaga.jp撮影)

■「環境のせいにしたいのは僕だけじゃなかった」

──ほかにも印象に残った反応は。

あの投稿を見て「福谷さんや!」って反応してくれる人が、ポコポコいたことです。やっぱり15年もやってると、僕を認識してくれている人がこんなにいるってことを可視化できて、それは驚きました。

あとは演劇界だけじゃなくて、いろんなジャンルの人に刺さったこと。いわゆる「なろう系」の文芸界隈とか、漫画家とか。後輩の活躍におびえている、普通の会社の営業職の人もいたし。みんなが自分に置き換えて、感傷に浸っていたので、結構普遍の論理なんでしょうね。

──「好きなことをやってるのに芽が出ない」という、あらゆる人たちに刺さったと。

そうそうそう。「環境のせいにさせてくれ」っていう言い訳を保持したいという願いは、僕だけじゃなくて、やっぱりみんな持ってるんやなあって思いました。

──私が印象に残ったコメントで「ラブレターと嘆願書とクレームと遺書をまとめてる」というのがありましたが、これって結構福谷さんが作る芝居の世界にも通じるなあと思いました。

なんというか「傾かなさ」のある芝居や文章が好きなんです。シンプルに笑えるとか泣けるんじゃなくて「笑ったあとで何か悲しくなる」とか「憎みながら愛を示す」みたいな、そういう世界。ただ僕は、もともと芸人から逃げたという出自なので、やっぱり根底に「笑わせたい」という思いがあるから、ウケなかったら落ち込みます。

「受賞の喜びは、ずっとお世話になった水沼健(MONO)さんに一番に伝えたい」と福谷(左)。「今回の戯曲は自分の家族の話をベースにした」と橋本(6日、吹田市文化会館メイシアター)
Lmaga.jpでは10年以上前から福谷圭祐を取材してきた(2016年撮影)

──「芸人から逃げた」というのは?

最初は芸人になりたくて、高校卒業したらNSCに入ろうかと悩んでたんです。特に「ラーメンズ」の小林賢太郎さんみたいに、コンテンツのみで勝負するカッコよさに憧れてました。でも・・・それこそ蓮見さんのように、芸人がバラエティ番組でも頑張るって、しんどそうじゃないですか?

自分はああなれないから、スタッフ側に回ろうと思ったんです。それでコント作りに活かせると考えて、近畿大学の文芸学部演劇学科に入りました。

──そこで演劇沼にハマってしまったと。

そうですね。さっき言ったみたいに、自分が笑いに特化した趣味趣向じゃないということが、だんだんわかってきて。あとは大学に入って初めて観た、唐十郎さんの芝居の影響も大きいです。泥臭くて話も全然わからへんのに、ラーメンズのようなスタイリッシュでわかりやすいコントと同じレベルで、俺の心をくすぐってくるぞ! って。ほかの表現にはない演劇のエネルギーを、唐さんの舞台で浴びたのが自分の原体験です。

「匿名劇壇」の福谷圭祐(大阪・京橋にて5月14日/Lmaga.jp撮影)
「匿名劇壇」の福谷圭祐(大阪・京橋にて5月14日/Lmaga.jp撮影)

■ 「演劇は安心安全じゃなくていい」というジレンマも

──唐さんとか、あと野田秀樹さんもそうですけど、意味が正確にはつかみ切れないのに、俳優の勢いとか熱量とか見せ方の工夫で「なんかすごいもん観た!」って思わせる世界が、演劇界では高く評価されますよね。ほかのジャンルにはなかなかない傾向だと思います。

確かにそこが演劇の奥深いところやけど、一番取っつきにくい部分でもあるんですよね。今の演劇界って「わかりやすいこと、メジャーなことをやらないのが所作である」みたいな固定観念がある気がして。三谷幸喜さんとか宮藤官九郎さんみたいにテレビでも活躍する人に、アンチっぽい感じがするじゃないですか?

──ありますあります(笑)。それこそ蓮見さんが、演劇界に向けて語ったという「流行ってないのにお高く止まって偉そうにするのはやめましょうよ」と記した記事が話題になりました。

蓮見さんはそこに、気持ちのいい一発を決めてくれたから、僕なりのやり方で応援したいんですよね。でもその一方で、演劇ってやっぱり、なにが起こるかわからないから面白いんでしょう? っていう気持ちもぬぐえない。

今それこそトリガーアラート(注:PTSDを引き起こす可能性のある描写が含まれることを、事前に告知すること)とか、安心・安全なエンタテインメントであることが演劇にも求められてきているけど、演劇はそこは担保してほしくないなあというのはジレンマです。

──それでいうと福谷さんの作品も、おかしさの裏にすごく残酷な背景を隠してるとか、ギリギリのエロや暴力を暗示するとか、決して安心安全じゃないですし。

僕が「匿名劇壇」の作品を「コメディじゃなくて、ジョーク」って言ってるのは、笑わせるのが主目的じゃないということもあるけど、ジョークって結構「あかんこと」じゃないですか? 笑わせるだけじゃなくて、人を傷つけたり怒らせたりするような切り方もする団体ですよ・・・ということを言いたくて、ジョークっていう表現をしています。

■ 僕は今、「東京に行ってないから売れてない」

──あの蓮見さん宛の文章で「『流行ってさえいれば、俺はもっと評価された』と刻まれた墓碑を立てた」という一文が強烈だったのですが、これって角度を変えたら、死ぬまで演劇を作る覚悟ができてるってことですよね?

演劇はやめたくないし、ずっとやるってことをまっとうしたいです。僕は今年で36歳になりますけど、ここまで特に職歴のない男が今さら転職しても、そんなに大成功するとは思えない。だったらここまで積み上げてきた資産とスキルを生かした方が、まだマシちゃうかと。

その結果「売れなかったなあ」と言って死んでいくことが嫌だと思わないし、むしろすごく素敵な人生だったと思える確信があるから、だからもう、そっとしておいてくれと(笑)。

演劇のジレンマを話す福谷圭祐(大阪・京橋にて5月14日/Lmaga.jp撮影)
演劇のジレンマを話す福谷圭祐(大阪・京橋にて5月14日/Lmaga.jp撮影)

──関西である程度評価されたら、東京に拠点を移す人も多いなか、福谷さんがまだ大阪にいるのは、なにか狙いがあるんですか?

そこなんです、僕がすごく言っておきたいのは。僕は今「東京に行ってないから売れてない」という切り札を、一個持ってるんです(笑)。東京に行けば売れるという可能性は、後生大事に取っておきたいから、これだけは奪うな! と。

──じゃあ福谷さんが東京に行ったら、ついに最後の手段に出たということに。

いよいよギャンブルに出たというか、もう辞める時です(笑)。あと大阪にいたから、ここまでつづけられたというのがあります。「匿名劇壇」はずっと大学の友だちとやってるんですけど、東京に行ったら名前が売れないと絶対つづかないし、関係性も変化したと思うんで。

むしろ大阪の方が、フリーランスやアルバイトで働きながらつづけやすいんですよね。大阪にいたから、劇団員たちと変わらずやってこれたというのはあります。

──その「匿名劇壇」が、2025年に上演した舞台『いいから早く助けてく』が、現在無料配信中です。登場人物たちがとんでもないテンションとスピードの会話を交わすことに圧倒されつつ、現代人がなにに困ってるかを風刺する部分もあり、演劇的な面白さが詰まった作品ですね。

前半の掛け合いだけも観てほしいです。なんなら90分中の冒頭の5分だけでも、割と十分というような芝居なので(笑)。あのテーマをすごく普通のいい話にすることも僕はできるんですけど、外部の仕事はともかく、劇団ではやりたくない。もっとどうなるかわからない、それこそ一言では言えないことの言語化を試みるということを、「匿名劇壇」ではやっていきたいです。

──そしてこれが、演劇を知らない人が舞台を見に行くきっかけになってほしいです。

本当にそこら辺でいろんな人がカジュアルに上演してるし、それこそ今週末にもどこかでやってるはずだから、まずは知られてほしいですよね。それこそダウ90000って、僕らからしたら絶対売れっ子なんですけど、多分「HEP FIVE」辺りにたむろってる人たちに聞いても、9割は知らないと思うんです。

だから今から知られようとしたら、大谷翔平レベル(の知名度)になるぐらいの心意気を持ってないとダメだなって思います。

匿名劇壇の次回本公演『台詞のない子どもたち(仮)』は、2027年1月に「高槻城公園芸術文化劇場 南館サンユレックホール」(大阪府高槻市)で上演。6月中に同劇場で、無料の試演会を開催する予定。『いいから早く助けてく』無料配信終了日は、現時点では未定。

写真/Lmaga.jp編集部

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