市と長政の残酷な最期にSNS賛否両論…信長の思いも汲んだ?「介錯」の理由を推測【豊臣兄弟】

2時間前

『豊臣兄弟!』第17回より。「御免!」と刀を長政に向ける市(宮﨑あおい)(C)NHK

(写真14枚)

「最高の調整役」として、豊臣秀吉の立身出世を助けた弟・豊臣秀長の活躍を、八津弘幸脚本・仲野太賀主演で描く大河ドラマ『豊臣兄弟!』(NHK)。 5月3日放送の第17回「小谷落城」では、織田信長と対立した浅井長政が、ついに城を枕に討死することに。市が最期に見せた大河史上初の行動に、視聴者の間では驚きと号泣の声が相次いだ。

■ 自害を望む長政を、小一郎たちは止めるが…第17回あらすじ

朝倉義景(鶴見辰吾)を滅ぼした織田信長(小栗旬)は、近江の浅井家に総攻撃をかけた。前当主の浅井久政(榎木孝明)は自害し、残るは小谷城本丸に籠城する浅井長政(中島歩)のみとなったが、小一郎と藤吉郎(豊臣秀吉/池松壮亮)は柴田勝家(山口馬木也)とともに、長政と市(宮﨑あおい)に和睦の交渉を試みた。そこで長政は、市を守るためだけでなく、天下が欲しいと思って信長を裏切ったと、市と小一郎と藤吉郎に告白する。

『豊臣兄弟!』第17回より。長政(中島歩)と市(宮﨑あおい)を迎えに来た秀吉(池松壮亮)と秀長(仲野太賀)(C)NHK
『豊臣兄弟!』第17回より。長政(中島歩)と市(宮﨑あおい)を迎えに来た秀吉(池松壮亮)と秀長(仲野太賀)(C)NHK

自害を望む長政を、小一郎は「なんでわざわざみずから死なねばならない」と止める。藤吉郎とともに相撲勝負に挑むが、長政が勝ったために、彼の望み通りにする。市は3人の娘と城を脱出するが、その途中で小一郎たちは、かつて市に話したまま中断した「娘を救うために湖の水を飲み干した大男」の続きを話した。その男と長政を重ねた市は、切腹をしても介錯する者がおらず苦しんでいた長政の元に戻り、刃を下ろした・・・。

『豊臣兄弟!』第17回より。切腹をするも死ねずに苦しむ長政(中島歩)(C)NHK
『豊臣兄弟!』第17回より。切腹をするも死ねずに苦しむ長政(中島歩)(C)NHK

■ 「ざまあみろ、信長」お互いの歪んだ兄弟愛に涙

2人の出会いから、少しずつ積み上げられてきた不幸のジェンガが、ついに崩壊するときが来てしまった。政略結婚ではあったものの、非常に仲睦まじい夫婦だった浅井長政と市だが(史実でも仲が良かったと伝えられている)、信長の野望の犠牲となって、まさに「死が2人を分かつ」最後を迎えた。

SNSでは長政の死を悼むと同時に、この悲劇の完成に向けて、実はさまざまな布石が打ち込まれていたことに驚かされる声も出ていた。

『豊臣兄弟!』第17回より。子どもたちのためのお守りを市(宮﨑あおい)に託す長政(中島歩)(C)NHK
『豊臣兄弟!』第17回より。子どもたちのためのお守りを市(宮﨑あおい)に託す長政(中島歩)(C)NHK

朝倉家を先に滅ぼして、いよいよ長政を残すのみとなった信長。しかし、ただただ邪魔な存在だった義景と違い、長政に対しては、自分の手で殺した実の弟に代わって愛情を注いだ義弟に裏切られた・・・という、いわゆる「かわいさあまって憎さ百倍」という思いがあった。「すぐに楽にしてやる」という、単なる敵対相手にはなかなかかけないだろう一言に、信長の激重感情がめちゃくちゃに込められていた。

SNSでも「信長さん、首が傾いてて、めっちゃくちゃしんどいんやな・・・弟を倒す苦しみから解放されたがってる」「長政が苦悩してしんどいのちゃんとわかって、俺が引導渡してやらんといかんと思ってるのでは?」「すぐに楽にしてやる(意訳:お前がやむにやまれず裏切ったのは分かってるからすぐに楽にしてやるからね)」「これも歪んだ兄弟愛なんだろか」などの推察が。

『豊臣兄弟!』第17回より。足利義昭(尾上右近)に京からの追放を告げる信長(小栗旬)(C)NHK
『豊臣兄弟!』第17回より。足利義昭(尾上右近)に京からの追放を告げる信長(小栗旬)(C)NHK

そして織田VS浅井の構図を生み出したすべての元凶と言える浅井久政が先に自害し、次は本丸にいる総大将・長政を残すのみ・・・となったところで「チームお市様強火担」の秀吉、秀長、勝家が和睦の交渉へ。

それは市と娘たちだけでなく、長政の命まで助けるという破格の条件だった。信長としては、本当に命を助けようと思ったのか、それとも長政が恐れた通り、その手で首をはねようとしたのかは、今となってはわからない。

しかし長政は、その助命の申し出を拒否した。市を助けるためにしぶしぶ信長と戦ったのではなく、信長を倒して天下を取りたいという野望が生まれていたからだ。義兄にも、そして市に対しても申し訳が立たないから死ぬ・・・という長政の希望に対して、秀長が待ったをかけた。

『豊臣兄弟!』第17回より。長政(中島歩)を説得する秀長(仲野太賀)(C)NHK
『豊臣兄弟!』第17回より。長政(中島歩)を説得する秀長(仲野太賀)(C)NHK

農民出身ゆえに、敗北=死という侍の死生観が身についていないことと、直(白石聖)や自分が手にかけた雑兵のように「生きたいと思っても生きられなかった」人たちの無念を、直接感じてきた秀長だからこそ出てきた説得の言葉だろう。

このあまりにも対立する価値観について、言葉で戦うのは難しいから、相撲で勝負だ! というのは、やっぱりマッチョな武士の世界で生きてきた長政らしい決着の付け方だ。演じた中島自体は線が細いが、実際は190cm近い巨漢だったと言われる長政。

小柄な豊臣兄弟が2人がかりでも倒せるものではなかった・・・のだが、この2人の姿が、いつしか信長と重なり、勝利して「ざまあみろ、信長」と言い放つところに、逆になんとも言えない長政の兄弟愛を感じさせられた。

『豊臣兄弟!』第17回より。秀吉(池松壮亮)、秀長(仲野太賀)と勝負する長政(中島歩)(C)NHK
『豊臣兄弟!』第17回より。秀吉(池松壮亮)、秀長(仲野太賀)と勝負する長政(中島歩)(C)NHK

SNSでも「相撲の勝敗で長政が生きるか死ぬかを決めるのか! その相撲の中で、長政が2人を信長に重ねるのが切ない」「ノッブの思い通りにはなってやらなかったことで一矢報いたのね」「ああ、長政は信長と戦う(相撲をとる、戦をする)のが楽しかったんだねぇ」「せめて幻想の中で(相撲であっても)信長に勝ったと思って自害できたのは、少し救いがあった」「やっぱり百姓寄りの小一郎くんの言葉は生粋の侍には届かないんだなって明確に答えが出たな」などの声が上がっていた。

『豊臣兄弟!』第17回より。切腹をする長政(中島歩)(C)NHK
『豊臣兄弟!』第17回より。切腹をする長政(中島歩)(C)NHK

■ 市が長政の「介錯人」に…実はさまざまな布石が

そうして一人、城のなかで切腹をする長政だったけど、首を落とす「介錯人」がいないためになかなか死ねないという地獄に陥った。数々のドラマの描写で、人は切腹したらすぐに死ぬと思ってる人が多そうだけど、実際は腹部で致命傷を負うのは難しいので、通常はその苦痛からすぐ解放するために、介錯人がいるわけだ。

池のような血溜まりができるほど出血しても、死ぬどころか意識さえハッキリしていて、すさまじい激痛に耐えつづけるという切腹のリアルがここまで描かれたのは、非常に珍しいのではないだろうか。

そこで市が長政の元に戻り、秀長から借りた刀で長政を斬る・・・というのは、なんともショッキングで、なんとも痛ましく、そして同時に美しさすら感じるシーンだった。

『豊臣兄弟!』第17回より。秀長(仲野太賀)に刀を渡すよう話す市(宮﨑あおい)(C)NHK
『豊臣兄弟!』第17回より。秀長(仲野太賀)に刀を渡すよう話す市(宮﨑あおい)(C)NHK

そのきっかけとなったのが、秀吉と秀長が市に語ったおとぎ話。かつて信長と長政が小谷城で相撲を取った日、2人が市に聞かせたこの話は、異変を察した信長が突然帰還を命じたので、途中で終わっていた。

少しでも市の心をやわらげるために、2人がおどけながら語ったそのつづきは、大好きな娘のために大男が腹に穴を開け、月となって娘を見守るようになったという、長政の姿とあまりにもかぶる物語。今まさに「腹に穴を開けて」苦しむ長政の痛みを察した市は、刀を持って引き返し、彼をこの世から解放した・・。

『豊臣兄弟!』第17回より。長政(中島歩)の元に刀を持って戻ってきた市(宮﨑あおい)(C)NHK
『豊臣兄弟!』第17回より。長政(中島歩)の元に刀を持って戻ってきた市(宮﨑あおい)(C)NHK

市にこの決断を下させるためには、兄弟がこの話の導入を市に聞かせていたという伏線が必要だったわけだが、そのほかにも、市が刀を自在に振り回せるほど武芸に通じているという描写があり、首を落とせずとも、斬るぐらいの腕前はあることをうかがわせていた。

さらにこの展開に持っていくためには、市が秀吉たちのおとぎ話を聞くのは別に珍しくないという背景が必要になる。ということは、市が初登場して秀吉に話をせがんだときから、すでにこの結末は仕掛けられていたわけなのか・・・なんとも思いがけない所からロングパスが来たものだ。

『豊臣兄弟!』第10回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第10回より。刀を振るう市(宮﨑あおい)(C)NHK

■ 賛否両論のラストだが…介錯をしたもう1つの理由を推測

市が長政のトドメを刺すという、少なくとも私には記憶にないラストに、SNSでは「ありえない」という声が少なからず見られた。確かにフィクションとしてはギリギリなラインだっただろうが、この『豊臣兄弟!』で長政の介錯をするのが市である必要があった理由は、夫婦愛以外にもう一つある。

このドラマでの織田信長と市は、単なる血をわけた兄妹である以上に「兄上が苦しければ私も苦しい」と言うように、魂のレベルでつながっている一心同体のような関係性だ。そう考えると、長政の首を落としたのは市であり、同時に信長であると言えるのではないだろうか。

『豊臣兄弟!』第13回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第13回より。相撲をとる浅井長政(中島歩)と織田信長(小栗旬)(C)NHK

「歯向かうものは死あるのみ」と言いながらも、義弟にだけは命乞いを許した信長。生きてまた一緒に相撲を取るチャンスを与えながらも、長政はその手を払い除けて、侍の誇りで切腹する道を選んだ。

それならば、いっそ自分が介錯人となる・・・と、なにかと愛が重い小栗信長であればきっと考えただろうし、市は兄のその思いを感じ取って、刀を取ったのではないかとも思える。だって市が介錯前に「すぐに楽にしてさしあげます」と呼び掛けたのは、信長の「すぐに楽にしてやる」と相似なのだから・・・。

『豊臣兄弟!』第17回より。子どもたちのためのお守りを市(宮﨑あおい)に託す長政(中島歩)(C)NHK
『豊臣兄弟!』第17回より。子どもたちのためのお守りを市(宮﨑あおい)に託す長政(中島歩)(C)NHK

このあまりにも悲劇的な夫婦の、そして兄妹(義弟)の終着点に、SNSは「兄上のお役に立ちたい、と刀の修練を積んでいたお市様の刀が最初に斬り落としたものが長政様の首だったの、あんまりにもあんまりすぎる」「戦国の殺伐さ、悲しさが同時に押し寄せてくる。忘れられない衝撃的展開」「ねえなんで戦国のアイラブユーは楽にしてやる(槍ドンとか首チョンパ)なの?」「エンディングの取り合おうとする直前の手が長政とお市にしか見えない魔法が俺たち視聴者にかけられた」などの、悲しみのコメントが相次いだ。

■ 心から称えたい! 浅井長政を演じた中島歩

史実的にハッピーエンドにはならないのは確定としても、これほど「親兄弟も殺し合うのが普通の戦国の世」の苛烈さを実感させる、劇的な夫婦の終幕にするとはなんとも衝撃的だった。しかし市は長政の思いを、まさに「浴びるように」受け止めたことで、次に待ち構えている人生のステップにも、毅然と進むことができたのかもしれない。

『豊臣兄弟!』第17回より。(C)NHK
『豊臣兄弟!』第17回より。織田信長に攻め込まれ、窮地に立たされる浅井長政(中島歩)(C)NHK

まずは、思いやりの深さゆえに戦国の掟に翻弄された男の苦痛と同時に、秘めたエゴも最後に爆発させてきた中島歩の演技を心から称えたい。次に大河に出るなら文学青年的な役を見てみたいので(国木田独歩の子孫だし!)、関係者様、見ていたらお願いします。

大河ドラマ『豊臣兄弟!』はNHK総合で毎週日曜・20時から、NHKBSは18時から、BSP4Kでは12時15分からスタート。5月10日放送の第18回「羽柴兄弟!」では、ついに藤吉郎が城持ち大名となり「羽柴」姓を名乗ることに。そして新たな家臣を募るなかで、藤堂高虎(佳久創)が再登場、石田三成(松本怜生)が初登場を果たす。

文/吉永美和子


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