【京都・老舗の継承】漬物の文化を「TSUKEMONO」で世界に広めていきたい

京つけもの「大安」代表取締役社長・大角安史さん(2026年2月撮影)
「千枚漬」の漬け込み作業が始まる立冬に、冬の風物詩としてメディアで紹介されることも多い「大安」(京都市左京区)は、明治35年(1902年)創業の「京つけもの」の老舗です。代表商品の千枚漬のほかにも、「すぐき」や「しば漬」、季節の限定漬物など、数多くの漬物を販売しています。社長を引き継いで12年、3代目の大角安史さんを取材しました。
大安は、大角さんの曽祖父・安治郎さんが創業しました。きっかけは、豊作で畑に捨ておかれた野菜を見て、「もったいない。漬物にして売ったらええのに」と思っていたこと。漬物屋に丁稚奉公にいったものの、奉公先がレストランに業種を変更したため独立しました。

当時、漬物は家で漬けるものだったため、漬物屋さんから買うというのが恥ずかしかった時代でした。表を売り歩いても誰も出てこず、裏口から声をかけると購入してもらえたとか。
順調に商売を進めていましたが、大正10年に大量の「すぐき」の注文を受けて、仕込んだ「すぐき菜」にスが入っていて売り物にならず、会社をたたんだこともあったそうです。
しかし「やっぱり漬物がやりたい」と再チャレンジして、大根の糠漬けに昆布を巻いて串でさした「玉椿」が大ヒット(現在は販売されていません)。さらに昭和3年には切り干し大根の漬物「酒の友」が爆発的に売れて、現在の大安の地盤ができました。
安治郎さんが亡くなった昭和45年(1970年)に、息子が戦死していたため、孫にあたる大角さんの父・正幸さんが26歳の若さで会社を継ぎました。そして大角さんは、42歳(2014年)のときに社長に就任します。
「幼稚園くらいから、親戚で集まったら『やっちゃん、大きくなったら何になりたいの?』って聞かれて、『大安の社長』と言わないとがっかりされると感じていて、期待に応えたいと思っていました。そんなふうに小さい頃から無言の圧を感じていましたが、ほんまに継ごうと腹をくくったのは大学生の就職活動でした」と大角さん。
大学卒業後は、東京で寮生活をしながら、第一勧業銀行(現:みずほ銀行)で4年間働き、家業に入りました。生産部や営業部を経験しながら、40歳までJC(京都青年会議所)で活動し、理事長も経験しています。
■42歳で社長に就任するも、さまざまな苦難が
2年の猶予をもらい、42歳で社長に就任するにあたって最初に取り組んだのは、「ちいさなだいやす」です。「漬物のある食卓を目指していきたい」と、1回食べきりサイズの20グラム程度でパックした商品でした。漬物を切ったり、残ったら保存したりする必要がなく、洗い物も少なく済む。結果的にヒット商品になったものの、製造や販売に手間がかかるため、社員の理解を得るのが大変だったと振り返ります。

社長を引き継いだ当時は、生産部や営業部がバラバラで「大安」としてまとまってなかったと大角さん。意識して部署間の交流や勉強会、自らが講演などをおこなっています。 「社長になったときに、基本理念を策定しました。お客様と従業員どちらも幸せになってもらいたい。僕らはつけもん屋以外の何者でもない。みんなで美味しいもん作ろうぜ、と。やっといい感じになってきました」と微笑みます。2002年には、原材料を国産のみとし、国内で手に入らない材料が必要な商品は作らないという決断もしました。
社長になってから常に苦労の連続だったと振り返りますが、やはり一番苦労したのはコロナ禍でした。売り上げは20%まで落ち込み、今も余韻が残ります。漬物離れもささやかれます。「売れへん売れへん言うてもしゃあないから、売れることを考えましょうと。今後は、おにぎりのように、漬物が横文字で認識されるような世界を作りたい」と、力強い想いを明かします。
2024年にはインバウンド客も入りやすい「おにぎりカフェ『祇園えんむすび』」もオープンしました。漬物が入ったおにぎりが気軽に買えるカフェという位置付けで、ソフトクリームなども販売し、外国人観光客を意識しています。
また、漬物は捨てる場所がほとんどない元祖SDGsな食品ですが、千枚漬は皮を厚く剥かなくてはならず、捨てる部分が多いそう。捨ててしまっている不可食部にも新たな価値をつけようと、不可食部を発酵させてエキスを抽出した化粧品を作り上げたほか、皮そのものが食べられるようにできないかと現在も研究中です。
「今の時代に合わせて、できるものは取り入れていくべきだと僕は思っています。常に時代に合わせて変化していくことで、伝統は繋がっていくのかなと思っています」(大角さん)
大角さんの息子さんは、現在大学4年生で4月に就職します。「10歳のときに将来の夢を語る場で、『漬物屋の社長になる』と宣言していて、お前も苦労してるんやなと思いつつ、やる言うたよね、みたいに言質をとったと思っていました(笑)。大学2年生くらいのときに、飲みに誘って聞くわけですよ。そうしたら最終的には大安をやりたいって言ってくれて、それを聞いて安心してもう1軒飲みに行こうかとなりました」と、笑顔がこぼれました。
■京漬物の定義とは
ちなみに…京漬物の定義が気になり、大角さんにお聞きしました。
「京の三大漬物は、千枚漬・すぐき・しば漬ですが、それ以外も京漬物と言われていて、定義というのは実は難しくて。僕は『京もの』の概念を説明した方がわかりやすいかもしれないと思っています。たとえば京都には名物の『にしんそば』がありますが、ニシンもお蕎麦も昆布も京都ではとれません。全国からいいものを集めて、京都の加工技術とセンスでええものに仕立て上げるというのが、京ものの真髄だと思っています」

「そういう考えで、僕らのお漬物も、全国からいいときのお野菜を引っ張ってきて、僕らの技術で美味しい漬物に漬け上げる。それが京漬物だと思っています。食べ比べをしていただいて、自分の好みに合うお店をアイテムごとに見つけていただくことが、京漬物の楽しみ方ちゃうかなと思います。うちの漬物はほんまにうまいですから、全部うちで買ってもらうのが一番いいんですけど(笑)」

取材・文・写真/太田 浩子
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