【連載vol.26】見取り図リリー、藤田嗣治×国吉康雄を観る

5時間前

フランスの藤田、アメリカの国吉…比較して見るとふたりの関係性や画風などの変遷が興味深い!

(写真23枚)

アート大好き芸人・見取り図リリーが、色々なアート展へ実際に観に行き、美術の教員免許を持つ僕なりのおすすめポイントをお届けする企画「リリー先生のアート展の見取り図」第26回でございます。

今回は、『藤田嗣治×国吉康雄:二人のパラレル・キャリア―百年目の再会』です。「兵庫県立美術館」(神戸市中央区)で2025年8月17日まで行われています。

藤田嗣治(ふじたつぐはる)さんは1886年生まれ、国吉康雄(くによしやすお)さんは1889年生まれ。ほぼ同時期に生まれた2人による作品、手紙や日記など約180点を、9つの章で年代別に観ていけるのでとてもわかりやすい構成でした。

藤田嗣治さんは、乳白色の肌と呼ばれる裸婦画などで知られるエコール・ド・パリ(注釈1)を代表する画家。アート最先端の地、フランスで活躍してた日本人がいるなんて嬉しいですよね! 僕も大好きです。

そして国吉康雄さん、わたくし知りませんでした! しかも僕と同じ岡山出身で、しかも、しかもですよ…国吉さんは中退していますが僕と出身高まで同じでした。なんで知らんかったんだ。高校の時の先生教えてくれや!

この国吉さん、めちゃくちゃすごいんです!

17歳で労働移民としてアメリカへ行き、働きながらアートを学んでいったのですが、現代アメリカ絵画を代表する存在に。『19人の現存アメリカ人による絵画展』(注釈2)にも選ばれてるんです。凄すぎ! 岡山出身者の中で最も早く世界で評価された人なのかも!?

この2人、フランスとアメリカと別々の地で活動し、作風も違う、なのに丸メガネにヒゲという共通点。映画ならダブル主演の主人公て感じ。惹きつけられる!

国吉康雄による《自画像》。丸眼鏡にヒゲって、なんだか2人はそっくり!? 1918 油彩・カンヴァス 福武コレクション 
国吉康雄による《自画像》。丸眼鏡にヒゲって、なんだか2人はそっくり!? 1918 油彩・カンヴァス 福武コレクション 

今回、特に心に残った章について書いていきたいと思います。まず、第1章1910年代後半からの作品で、画家として成功するちょっと前の作品です。国吉さんの作品がめちゃくちゃ良かった! 《自画像》ではフォーヴィスム(注釈3)のような迫力があり、なにも知らない状態でこの絵を観ていたら日本人画家が描いたとは想像できなかったです。

その後の第7章で展示されている《夢》もめちゃくちゃ好き。本当に夢の中みたいで不気味なのに、なぜか輝いて見える! もちろん国吉さんの中に絵画理論はあると思うけど、僕は生まれもったセンスというか感覚というか、俗に言う天才なのだと感じました!

一方で、藤田嗣治さんの《坐る女》を観てビビりました。輪郭線の細さ! これ日本の面相筆(注釈4)を使って描いてるらしいのですが、0.03ミリのペンでもあんな均一に綺麗な線描けません。そして乳白色の肌ばかりに気を取られてて、ちゃんと気づいていなかったんですが…絵がうめぇ! 細部まで描き込んでて、とりあえず絵がうめぇ! 天才です。

いやどっちも天才なんかい! ベクトルの違う天才の作品を順番に観ていくと、お互いの作品の良い部分を引き出し合っているというか、際立たせているように感じます。まるで悟空とベジータ(すいません。令和の時代での『ドラゴンボール』の例えは、若い子が知らないから煙たがられてるらしいのですが、どうしてもそう感じたのでお許しください)。

同じ裸婦を描いていてもこんなにも印象が違う! 藤田嗣治の《タピスリーの裸婦》1923 油彩・カンヴァス 京都国立近代美術館(左)、国吉康雄の《幸福の島》1924 油彩・カンヴァス 東京都現代美術館
同じ裸婦を描いていてもこんなにも印象が違う! 藤田嗣治の《タピスリーの裸婦》1923 油彩・カンヴァス 京都国立近代美術館(左)、国吉康雄の《幸福の島》1924 油彩・カンヴァス 東京都現代美術館

1922~24年で、2人が異国で成功をおさめた頃の第2章もおもしろい! 藤田嗣治の乳白色の肌の作品が、仕上がってます! 《タピスリーの裸婦》なんて藤田エキスが濃すぎて嬉しい。パッと見ると、ほぼ白なんですが、よく見ないと気づかない陰影など、これも細かい所まで描き込んでるのがすごい。

面相筆と墨など日本画らしさと西洋アートとの融合。どういった作風であればフランスで好かれ、かつ独特であるのかというのも考えられていて、マーケティングの天才でもあると思います! 藤田嗣治恐るべしですよね。

その隣に並ぶ国吉の《幸福の島》、これも素晴らしい! 同じ裸婦画であるのに対照的なスタイル。こちらは、くせになる立体感と重量感。子宮内の胎児にも観えてきます。全ての作品に独特の不気味さがあるんですよねー。もちろん両者天才なのですが、個人的に国吉さん好きです。

と!!! 思ってたんですが、第4章の藤田嗣治の《自画像》が素晴らしい。藤田さん好きです。俺サンジくらい惚れやすいかもです(令和の若者のみんな、例えに『ワンピース』のサンジはギリギリセーフだよね)。

藤田らしい乳白色の女性の絵を飾った部屋にいる、自分自身を描いています。テーブルには面相筆と硯。隣には大好きな猫。この1枚で完璧に自分をプレゼンしています! あったま良いー!

アメリカの画家として成功した、国吉康雄による数少ない日本モチーフ。《日本の張子の虎とがらくた》1932 油彩・カンヴァス 福武コレクション
アメリカの画家として成功した、国吉康雄による数少ない日本モチーフ。《日本の張子の虎とがらくた》1932 油彩・カンヴァス 福武コレクション

そして国吉の《日本の張子の虎とがらくた》。これも良すぎる。《夢》のように想像して描いた絵ではなく静物画なんです。なんだろう、不安定なのにまとまりがある。ありそうで、見たことない構図と組み合わせ。やはり絶対的センスだと思う。こういうのは計算でできない気がする…国吉さん好きです!

まだあと半分ありますが、ちょっとこの展示エグいかも! 日本人の画家2人の作品で、海外の画家の作品をたんまり観た時より満足度あるかも!

これまで判明していなかった藤田と国吉の接点。今回の企画展の調査で発見された色紙に、その証拠が…! しっかりといろんな角度から目を凝らしてみてください
これまで判明していなかった藤田と国吉の接点。今回の企画展の調査で発見された色紙に、その証拠が…! しっかりといろんな角度から目を凝らしてみてください

藤田と国吉、2人とも互いは意識はしていたとは思うんですが、実際に会った事ない説も(あと仲悪い説もあったそうです)。ただ、なんとこの展覧会で新事実! 準備するために調査するなかで、2人が会っていたであろう証拠が、初めて出てきたんです!

1枚の色紙の真ん中に国吉が牛の絵を描いているのですが、その左上に(ほぼ見えないのですが、うっすらと)藤田によるイラストとサインがあるんです。藤田がニューヨークを訪れた際に、画家たちが遊びがてら1枚の色紙にさらさらっとコラボしたなら、絶対会ってますよねって話! 主人公2人が対面してたの胸熱!

第5章の1930年代は、藤田が中南米を旅し、東京に戻ってきて戦線取材に出て、国吉は最後に日本に帰国した時代。そのなかの《バンダナをつけた女》をはじめとする、国吉の「ユニバーサル・ウーマン」というシリーズが印象的でした。

うれしいのか悲しいのか…どういう表情かわからないし、アジアなのか欧米なのか国籍もわからない。感情を押しつけることなく、人種も関係なく、国吉の思う理想を描いてるのかもしれません。ちなみにこの時代あたりでは、茶色を多く使っていて「クニヨシブラウン」と言われたりします。ちなみに、藤田は「フジタホワイト」という言われ方をします。なんかすげぇですよね!

藤田嗣治による海軍作戦記録画。深刻な絵の印象がなかっただけに驚いた。東宝の映画撮影のセットをもとに描かれたそうだ。《十二月八日の真珠湾》1942 油彩・カンヴァス 東京国立近代美術館(アメリカ合衆国より無期限貸与)
藤田嗣治による海軍作戦記録画。深刻な絵の印象がなかっただけに驚いた。東宝の映画撮影のセットをもとに描かれたそうだ。《十二月八日の真珠湾》1942 油彩・カンヴァス 東京国立近代美術館(アメリカ合衆国より無期限貸与)

第6章では、太平洋戦争が勃発し、2人の人生が一気に変わります。藤田は日本に戻り、軍に依頼され、作戦記録画《十二月八日の真珠湾》などを描きます。

巨大なキャンバスに真珠湾を描いているのですが、藤田の理想のアート理論を捨て、ただただ事実や軍の思惑を伝えるために写実的に描いています。皮肉なことに、ここにきて改めて藤田の絵画技術に感激しました。うますぎる。通常時は、この画力がありながらも、写実に走るのではなく、自分らしい芸術を突き詰めている事がわかり、より好きになってしまいました。

藤田は日本軍に協力する形となりますが、国吉はアメリカの民主主義を支持する立場を表明。アメリカの戦時情報局のために、ポスターを描くこともありました。このことで、敵に魂を売ったとして国吉は裏切りものだ!という人もいたようです。

国吉は日本の軍国主義という考え方に賛同できず、自分ができる一番の平和への近道を探していたのだと思います。終戦直前の1945年春に描かれた《跳び上がろうとする頭のない馬》では、国吉自身が手がけた「我々は自由な世界を築くため闘う」と書かれたポスターが、絵の中で破かれています。

敵性外国人として行動制限を受けたり、迫害されるようになっていた国吉。協力したのに話が違うじゃないかという事なのかもしれません。でも、国吉はアメリカも日本もなく、ただ自分の意思を持った平和を望む地球人だったのかもしれません。

そして最後の第9章。2人の晩年の作品が並びます。藤田はずっと帰りたかったパリで、乳白色の肌の作品《姉妹》などを描きます。戦争の記録画やタッチが違うものを描いたりしたものの、結局本当に描きたいものが何か、自問して辿り着いたのではないでしょうか。

国吉康雄が晩年に描いた《ミスターエース》1952 油彩・カンヴァス 福武コレクション
国吉康雄が晩年に描いた《ミスターエース》1952 油彩・カンヴァス 福武コレクション

そして国吉の「自らの最高傑作のひとつ」と言った《ミスターエース》。ここでは「クニヨシブラウン」の茶色はなく、オレンジや黄色でパッと見は華やかなのですが、どこか不気味。晩年に近づいてから、カラフルな色を取り入れた国吉。このピエロの格好をした自分自身だという説もあります。何を思ったんでしょう。多くを語っておらず、観れば観るほど考えさせられ見入ってしまいます。

全然違うベクトルの天才の人生をたどっていきましたが、満足感がすごい! これは2度3度行っても、毎回感じかたが変わりそうです。もう1回行けたらいいなぁ。

© Fondation Foujita / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2025 E5974

(注釈1)エコール・ド・パリ…1920年代を中心にパリで、活躍する他国のアーティストたちの総称「エコール・ド・パリ」。藤田のほか、モディリアーニ、シャガール、ユトリロ、以前紹介した佐伯祐三も一員。パリらしさを取り入れつつも、自分の国民性を大事に、それぞれ独自のスタイルを確立しているのも特徴。

(注釈2)『19人の現存アメリカ人による絵画展』…1929年にニューヨーク近代美術館(MoMA)で開催された展覧会。その名の通り、アメリカの美術界を牽引していた19人の当時存命だったアーティストが選ばれたが、1人だけ日本人だったのも賛否両論あったのだそう。

(注釈3)フォーヴィスム…20世紀初頭に広まった絵画運動。訳すと野獣派。リアルを追求する写実主義とは異なり、自分が感じるままの色彩で、のびのびしているスタイル。

(注釈4)面相筆…読みは「めんそうふで」。眉毛など細い線を描くための日本画用の筆。

【見取り図リリーの近況】

最近は華道もたしなみ、8月10日は『あれみた?芸人華道部 LIVE~みんなで笑いの花をいけましょう~』(@ちゃやまちプラザステージ)に藤崎マーケットのトキさん、ツートライブ修平魂とともに、花をいけます! 華道部の活動についてはYouTube「あれ見た?【MBS公式】」をご覧ください。「なんばグランド花月」「よしもと漫才劇場」「森ノ宮よしもと漫才劇場」などに出演。気になった方はぜひ「FANYチケット」へ。

『藤田嗣治×国吉康雄:二人のパラレル・キャリア―百年目の再会』

「素晴らしき乳白色の下地」としてフランスで絶賛された藤田嗣治(1886ー1968)と、アメリカ芸術家組合の初代会長に選ばれアメリカ美術を牽引するひとりとなった国吉康雄(1889ー1953)。異国で才能を認められた2人は、パリとニューヨークで接点があり意識し合うような関係に。「兵庫県立美術館」の林洋子館長が、長年にわたって藤田を研究し続け、3年前から2人の資料を調査し、構想を練り続けて実現。巡回がなく、ここだけの貴重な展覧会。期間は2025年8月17日まで、料金は一般2000円、大学生1200円、高校生以下無料。

『藤田嗣治×国吉康雄:二人のパラレル・キャリア―百年目の再会』

期間:2025年6月14日(土)〜8月17日(日)
時間:10:00〜18:00(入場は〜17:30)
住所:兵庫県立美術館(神戸市中央区脇浜海岸通1−1−1【HAT神戸内】)
料金:一般2000円、大学生1200円、高校生以下無料、70歳以上1000円
電話:078ー262ー1011

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