堅物の恋川春町すら動かした、蔦重の魔法の言葉【べらぼう】

16時間前

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第19回より。地本問屋・鶴屋と話す戯作者・恋川春町(岡山天音)(C)NHK

(写真7枚)

横浜流星主演で、数多くの浮世絵や小説を世に送り出したメディア王・蔦屋重三郎の、波乱万丈の生涯を描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)。5月18日の第19回「鱗の置き土産」では、鱗形屋の人気作家だった恋川春町が重三郎の新しい仲間に。そのために重三郎が取った人たらしテクニックと同時に、大河ドラマファンなら既視感のある、女郎・誰袖の行動も話題となった。

■ 恋川春町の獲得争い勃発…第19回あらすじ

鱗形屋孫兵衛(片岡愛之助)が店を閉めることになり、重三郎は鱗形屋お抱えの人気作家・恋川春町(岡山天音)の獲得を狙うが、春町は重三郎を鱗形屋の仕事を奪った盗人と忌み嫌っていた。鶴屋喜右衛門(風間俊介)を新たな板元とした春町だが、喜右衛門からは自分が書きたい作品を「古い」などと否定され、孫兵衛に相談。孫兵衛は、春町の才能を活かしてくれそうな重三郎の元に行くよう、裏から手を回すことにした。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第19回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第19回より。地本問屋の主人・鱗形屋(写真右、片岡愛之助)と話す重三郎(横浜流星)(C)NHK

春町に必要なのは、今まで誰も書いたことがない案思(アイディア)と聞いた重三郎は「100年先の江戸の世界」という案思を春町に提案。春町に書いて欲しいという熱意に加えて「古い? 新しい? んな、鼻クソでしょう」と言われた春町は、鶴屋を離れて、耕書堂で本を出す決心をする。鶴屋との間を取り持ってくれた孫兵衛に、不義理をしたことを詫びる春町だったが、孫兵衛は思惑通り行ったことにほくそ笑んでいた・・・。

■ 鶴屋と春町の相性最悪、追い詰められる…

出版社お抱えの人気作家が、会社の倒産でフリーに。現在でもよくありそうなこのシチュエーションに、重三郎が動かないわけがない! ということで、恋川春町獲得の駆け引きが描かれた19回だったが、まずは重三郎が手を挙げる前に、早々と別の大手板元・鶴屋が身元を引き受ける形に。しかし不幸なことに、春町の作家性と喜右衛門の編集方針は絶望的なほど合わなかった。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第19回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第19回より。地本問屋の主人・鶴屋(写真右、風間俊介)と青本の新作について話す戯作者・恋川春町(写真左、岡山天音)(C)NHK

「誰も見たことがなくて、しかも自分が書きたいと思えるテーマの新作を書きたい」という春町に対して、「作風古いし、人気作品の続編でいいから、今の読者がウケるものを書いて」と言い放つ喜右衛門。もちろん喜右衛門が望むような仕事が好きだし得意という作家もいるから、別に彼が無能というわけではない。とはいえウケないとか古いとかストレートに口に出して、真面目な春町をいたずらに追い詰めたのは大きな失敗だった。

SNSでも「鶴屋はムチは得意だけど、飴が苦手な編集者だな」「書き手の自信とやる気を削ぐ絶妙に嫌な圧を持った編集さんの再現率が高すぎて泣けた」「言ってることは正しいが作家の心は慮らない。リサーチ力は確かだから書店としても実力者ではあるんだが」「商人の論理と作者の論理がぶつかっているが、これは決して古い話じゃなくて現代でも常に本作りで目にする話題」など、喜右衛門の言い方をたしなめつつも、そのスタンスには理解を示す様子が見られた。

■ 鱗形屋と蔦重の「ネタ出し」に視聴者ワクワク

そして鱗の旦那は、春町が喜右衛門に潰されないよう、重三郎の元に行けるよう画策。新ネタを投下すれば春町は動くというアドバイスのもと、重三郎は周囲の人々にリサーチをしたうえで、今発刊されているすべての青本をチェックして、今までにない案思を探すことに。この過程が楽しそうだったし、喜多川歌麿(染谷将太)の「読みたい話より先に、見たい絵を考えたら?」と突破口を開く流れもお見事だった。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第19回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第19回より。重三郎と手紙をやり取りして、恋川春町の新作のアイデアを出し合う地本問屋の主人・鱗形屋(片岡愛之助)(C)NHK

SNSも「遠距離で、再びきゃっきゃと恋川春町さん向けのネタ出ししあっている鱗形屋さんと蔦重、楽しそう」「過去作全部洗ってんのか? すごいなぁ、今時ネタ被りなんてあるだろうに」「絵から考える、絵描きならではの発想!」「トム・クルーズが先にやってみたいスタントシーン挙げて、後からそれに合った映画を作るあれと同じだ」などの納得のコメントが上がっていた。

そうして出てきた「100年先の江戸」という、まさかのSFネタを引っ提げて、春町を説得しはじめた重三郎。「古いとか新しいとか関係ねえ!」など、クリエイターが聞きたい魔法の言葉ぞろいの口説きに「私の作風古いのかな・・・って悩んでる時にこんなこと言われたら、即落ち間違いないよ!」「蔦重はすごい人たらしではあるけど、表面的なものでなく心からの情熱があるから人の心を動かすんだよなあ」「あんたって人は本当にどんだけ人の心の隙間を察して癒すの上手いんよ!!(ただし女心除く)」などと一同感心。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第19回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第19回より。戯作者・恋川春町(写真右、岡山天音)に新作のアイデアを提案する重三郎(写真左、横浜流星)(C)NHK

そうして春町を仲間にしたのに加えて、前回の影の主役と言える、朋誠堂喜三二(尾美としのり)が腎虚に見舞われながら書き上げた『見徳一炊夢』が、青本格付けのトップに選ばれたという、耕書堂には二重のめでたい出来事が。これにも「本屋大賞を取ったみたいなもんか。出版の蔦重も大喜び」「ランキング上位作品は売れますからね。これは心強い」「腎虚が治って本も人気になって良かった良かった」と、前回のネタを擦りつつ祝う言葉があふれた。

■ 『真田丸』のオマージュ? 誰袖の証文シーン

しかし今回SNSが一番盛り上がったのが、重三郎に恋する女郎・誰袖(福原遥)が、冒頭で逝去が伝えられた女郎屋の主人・大文字屋市兵衛(伊藤淳史)に「重三郎に500両で身請けさせる」という証文を、無理やり書かせていたシーンだった。この構図が、2016年の大河ドラマ『真田丸』で、石田三成が病床にある豊臣秀吉に無理やり遺言を書かせるという伝説のシーンとの、そっくりぶりを指摘する声がノンストップ状態に。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第19回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第19回より。花魁・誰袖から病床で証文を書かされる女郎屋の主人・大文字屋(伊藤淳史)(C)NHK

「何年か前の大河で観た構図が・・・秀吉公と三成で・・・」「あの名シーン(「眠い・・・」「眠くない!」)を思い出した人は真田丸の同胞」「眠くない!(違)」「ひどいwww真田丸の石田三成もびっくりするわ!」「誰袖めちゃくちゃなことしよるwww 旦那の今際の際にやることがそれw」など、誰袖の予想以上のぶっ飛び具合とあわせて、笑いながら戦慄するようなコメントが相次いでいた。

吉原で遊びたいという不純な動機から、新ジャンルに挑戦したいという野心まで、それぞれのクリエイターの「一番やりたいこと」を見抜いて、すかさず言葉巧みに口説いていく重三郎の才能。その力は、春町の「お得意さんの仕事を盗んだ相手と組みたくない」という、真っ当な正義感すらも揺るがしたのだから、こうなると悪魔的な領域である。そんな男を手玉に取る誰袖も、実は「小悪魔」というのを超えたしたたかな存在ということも、さり気なく提示された回だった。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第19回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第19回より。耕書堂の本が高評価を得たことを喜ぶ重三郎たち。写真左から、戯作者・恋川春町(岡山天音)、戯作者・朋誠堂喜三二(尾美としのり)、重三郎(横浜流星)(C)NHK

別に記す幕府パートの方はかなりハードな展開だった分、一部の地本問屋界隈以外は割と丸く収まった感がある今回の重三郎パート。誰袖の身請け話が、もしかしたらこの先の前フリか? とついつい身構えてしまうところもあるが、まず制作陣になにか質問ができるとしたら「あのシーン、やっぱり『真田丸』っすか?」とうかがってみたいものである・・・。

大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。5月25日の第20回「寝惚けて候」では、重三郎が大田南畝(桐谷健太)を通じて狂歌の世界に出会うところと、将軍家後継問題にまつわる様々な思惑が描かれていく。

文/吉永美和子

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