【京都・老舗の継承】360年続いた一子相伝「すはま」が断絶?!

植村さんから引き継いだ看板とともに
京都市営地下鉄烏丸線「丸太町」駅を降りてすぐの場所に、京町家の一部をカフェにした「すはま屋」があります。もともとこの場所には、約360年続いた「御洲濱司 植村義次」がありました。一子相伝の「植村義次」の味を引き継いだ「すはま屋」店主の芳野綾子さんにお話を聞きました。
すはま(州浜)は、大豆粉と砂糖、麦芽糖で作られるシンプルな半生菓子の和菓子です。「すはま屋」のすはまは、むっちりしつつもやわらかい食感で、浅煎りの大豆粉の香りと味が、やさしい甘さとともに口の中に広がります。
京老舗「植村義次」には跡継ぎがなく、体調をくずされた植村さんがお店を閉めたのは2016年です。その頃、芳野さんは大学生で「お店をやめられたからお店がしたいとか、そういう気持ちがあったわけではなかったんです」と話します。

芳野さんのお父さんは、茶道・武者小路千家の3代続く教授で、曽祖父の時代から毎年初釜には、茶室にあわせた緑一色の特別なすはまを「お好み」として植村さんに作ってもらっていたくらい長いお付き合いだそうです。芳野さんも初釜の手伝いをしてきましたが「水屋で棹物のすはまの端っこを独り占めするほど好き」と微笑みます。
「植村さんが体調をくずされて、すはまが初釜で使えないことになりまして、違うお菓子をご用意したのですけど、毎年使っていたお菓子が欠けてしまうことに寂しい気持ちがありました。次の年に、父が植村さんのところにご相談に行ったら、『そこまで言うんやったら自分で作ってみたら』という話になり、父が習いに行くことになりました」
すはまが大好きだった芳野さんも、一緒に習いに行くことにしました。ところが、お父さんが教えてもらいながらとったメモが2、3行のところで、芳野さんが紙1枚にびっしり書いているのを見て「諦めた父」に代わり、芳野さんが習うことに。
「最初は実家や自分用に習っていたのですが、すはまを作っていくうちに楽しくなって、もう少しすはまの勉強をさせていただきたいという感じで植村さんにお伺いしたら、『じゃ、ここもあけているし(店舗はそのまま使われていなかった)、良かったら』っていう風に言ってくださってって感じでした。植村さんは一子相伝でされてきたので、私は『植村義次直伝の』という形でさせてもらっています」
大学で病原菌などの研究をしていた芳野さんは、大学院に行くことをやめて、すはまの研究をすることに。芳野さんは料理やお菓子を作るときは、理系らしくグラム単位できっちり計って作るタイプでした。ところが植村さんは「こんなもんかな」と長年の職人の“たしかな勘”で作ります。そのため“これくらい”を計ってもらい、その数値を基準に温度や湿度に合わせて調整しながら作っています。
「おいしいってただ食べていた側から、作る側になってみるといろいろ作ってみて味見して、『どうかなどうかな?』とやっぱり毎日考え込んじゃいますね。植村さんの作ってはったすはまが好きだったので、やっぱりその味に近づけるようにと思って作っています。子どもの頃からずっと食べてきたので、味を覚えているのもあって、作って食べて違うなっていうのがわかるのがすごくありがたい。違うかなと思ったら、すぐ植村さんのところに行って『どうしたらいいですかね』っていう感じでお話しさせてもらえたので、それもすごく大きかったですね」
植村さんを知るお客さんたちからは、とても厳しかったのではないかとよく言われるそうですが、実際はとても優しく教えてくださったそう。そうして大学を卒業した2018年11月に、芳野さんは「すはま屋」をオープンしました。

「オープンしたころは、1年を通して作ったことがなかったので、水分の調節とか、大豆粉の煎り加減とかすごく難しかったです。特に大豆粉に火を入れたりするんですけど、ちょっと入れすぎるときなこになっちゃうと言いますか…。最初に口に入れたときには香ばしい感じやけど、後味に濃さが残らないような。そんな感じに仕上げるのが最初の頃は難しかったです」

以前のお店の常連さんが「前と同じお味やわ」「なくなってずっと寂しかったんやわぁ」と、とても喜んでくれていることに口元をゆるめ、「自分はそんな大したことをしている気はなくて、自分が好きでやってきたので、そんなふうに言っていただいて…、頑張ってきて良かったなと。まだ7年なので…まだまだこれからかな。ひとりでやっているので、家族にも助けてもらいながらここまでこれました。無理はしすぎず、細く長く頑張っていきたいです」と話しました。
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