余白で表現する伊藤ちひろ監督「答えが無いものに魅了される」

「誰かの想い」が見える主人公の青年・未山(坂口健太郎) ©2023『サイド バイ サイド』製作委員会
◆「悔しいけど、僕にはできなかった」(行定勲)
──とってもよく分かります。
行定:だから横で話を聞いていて、さすがミルクマンさんだなって思ったのは、フリオ・コルタサルの『石蹴り遊び』を読んで、あれはこういう物語で、なぜ主人公がああなったのか・・・って誰が理路整然と説明できるんだってね(笑)。じゃあ、説明できないからつまらないかといえば、全然それは違うわけで。
──フラグメントの塊のようなものですからね。
行定:ですよね。監督が好きな作家は、アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグ(フランスの作家、詩人)だったりするんですけど、死と生の境界線が不穏に感じるのに、起こっていることは浜辺の出来事だったり、現実のことなんですよ。
──まさにそうですね。それを彼独特のレトリックとエロティシズムで淡々と綴っていくような。
行定:でも、読んでると絶対に裏になにかあるだろうって、『黒い美術館』(1946年)とかね。そういう世界をそのまま映画化する監督って、今やいないじゃないですか。
──やりたくても、なかなかできないのが現状ですよね。
行定:悔しいけど、僕にはできなかったことなんですよ。だから、敢えて今そういうものを作ろうと。さっきから「余白」って言ってるじゃないですか。余白ってすごく良いですよね、謎はあっていいんですよ。昔、映画祭の会見で(台湾の映画監督・脚本家の)エドワード・ヤンさんが「『カップルズ』で女の子が突然吐く描写がありますよね。あれは妊娠してたってことですか?」と質問されて、「貴方はそう思いました?」って記者に訊いたんです。
──その記者は当然、そう思って訊いてるんですよね。
行定:だからヤンさんは「じゃあ、それが正解ですね」ってニコニコしながら、結局正解を答えなかった。それを聞いたとき、映画って自由で良いんだなぁって。余白があるからこそ、そんな質問がいっぱい出てくるんです。
伊藤:私がそういう作品が好きなのは、やっぱり「答えが無いもの」に魅了されているからなんです。人って不思議なもんで、腑に落ちる答えがあるとそこで思考が止まっちゃうんです。作品について考えることが、自分の人生の新しいヒントになると思うんですね。そういう映画を作りたかったんだと、今改めて思いますね。

──なるほど。伊藤監督って、誰が犯罪を犯したのか謎に迫る、フーダニットの推理小説とかあまりお好きじゃないでしょ?
伊藤:それはそれで好きだけど、後ろから読みます(笑)。
──僕は最後に全部理に落ちちゃう(理屈っぽくなる)ところが苦手なんです。
伊藤:ですよね。だから、私は最初に読んじゃうんです(笑)。
──そんな人がいるとは聞いたことあるけど、実際に会ったのは初めてです(笑)。
伊藤:最初に分かってから読むと、自分の好きなように謎を膨らませられるから好きなんです。
行定:やっぱり変態ですよ、ある種のね(笑)。いろいろ思うところはありますけど、僕じゃ成し遂げれなかったことを伊藤監督はやってると思う。だって、この映画もむちゃくちゃ面白かったから。
──面白かったのは間違いないです。
行定:余白を楽しむ映画ですよ。それを楽しんでください。今回、『大阪アジアン映画祭』のクロージングに選んでいただきましたが、この映画祭も余白のある映画がいっぱい上映されているじゃないですか。だから、ここの観客はきっと面白がってくれると期待してる。そう切に思います。
◆
映画『サイド バイ サイド 隣にいる人』は現在公開中。主演の坂口健太郎のほか、齋藤飛鳥、浅香航大、磯村アメリ、市川実日子らが出演。藤井風やiriのプロデューサーとして知られる小島裕規(Yaffle)が劇伴を手がける。
映画『サイド バイ サイド 隣にいる人』
2023年4月14日公開
監督:伊藤ちひろ
出演:坂口健太郎、齋藤飛鳥、浅香航大、磯村アメリ、市川実日子
配給:ハピネットファントム・スタジオ
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