ネクタイ業界が悲鳴、京都の老舗会社が吐露「どこも人手不足」

2023.2.13 07:15

ブランドネームを付ける行程も手作業でおこなう(提供=タイヨウネクタイ)

(写真2枚)

織物や漆器など数々の伝統工芸品で知られる京都。世界に誇る伝統工芸の世界だが、人手不足や後継者問題などが原因で、存続が危ぶまれている業界も多い。1月末、そんな業界の現状が垣間見えるつぶやきをツイッターに投稿したのが、西陣織ネクタイの生地販売や製造をおこなう老舗会社「タイヨウネクタイ」(本社:京都市上京区)だ。

同社のツイートでは、ネクタイのブランドネームを縫い付ける作業など、針仕事ができる人を募っている(2月時点)。投稿文には「コロナ禍で廃業が相次ぎ」「ベテラン勢の引退も相次ぎ」といった言葉が並んでおり、人手不足が深刻なことがうかがえる。外からは分からない業界の現状について、ツイートをおこなった担当者に詳しく訊いた。

■ 廃業や引退が相次ぐ「ネクタイ」業界

──投稿内では「廃業」や「引退」という言葉が印象に残るのですが、やはりそこまで人手が不足しているのでしょうか?

全国の統計データがあるわけでもありませんので、若干乱暴な表現だったかもしれません。ですが、規模縮小はネクタイ業界におけるほとんどの業者が当てはまると感じます。

この冬も「どこか縫製所は知りませんか?」という取引先からの問い合わせが数件ありましたが、現状は投稿したように人手が足りていない状況なので、「どこもいっぱいです」と返すことしかできませんでした。

──そんな経緯があっての投稿だったんですね。ちなみに「ネクタイの縫製が京都に集中」とありますが、これは京都に縫製ができる業者が集まっているということでしょうか?

縫製屋の軒数自体は関東の方が多いのですが、良い仕事ができるところが減少していることが問題になっているそうです。弊社でも元々お願いしていたところが廃業となり、ほかの縫製所さんに依頼したところ仕上がりにバラつきがあり返品が多発してしまうことがありました。

──なるほど。全体的に縫製ができる業者や人材が減少しているのに加え、安定した技術を持つ業者さんも少なくなっていると・・・。

もちろん質の高い縫製屋は現在でも残っていますし、今回内職さんを募集している縫製所も、私の知るなかで非常に安定したクオリティで仕上げていただけるところです。なので「京都に集中している」というより、特にその縫製所さんが人気というのが正しいかもしれません。しかし、そういったところは生産力が衰えつつあり、かなり希少な存在となっています。

クオリティの高い仕事をしてくださる縫製屋は、やはり人気が集中します。しかしこの業界は、繁忙期には生産力をはるかに上回るレベルで依頼があるため人手が足らず、逆に閑散期になると人手が余るといった状況で、生産ベースが安定しません。

ブランドネームを付ける行程も手作業でおこなう(提供=タイヨウネクタイ)

──需要はあるにもかかわらず、人手不足によって立ち行かなくなるというのはもったいないですね。そもそも、どうしてそういった状況となったのでしょうか?

デフレが長く続いた結果、問屋メーカーがより安い生地と縫製を求めるようになり、国内需要の大半を中国へと発注するようになりました。結果として、多くの織り・染め・縫製・紋など関連の仕事に関わる人々が廃業してしまいました。

そして給料が上げられないため若者が業界に入ってこず、高齢化も進み・・・。利益も望めないため設備投資もなく、国内のネクタイインフラはどんどん脆弱となっています。

正直なところ、小売店や問屋、メーカーが安価な海外製にシフトした以上、日本国内はもう立ち直りが出来ないところまできているかもしれません。ただし、そうでないと「モノ」が売れないのが今の日本という一面もあります。原因を追究していくとあまりにも根が深い問題ですね・・・(苦笑)。

ネクタイ業界に限らず、伝統工芸品や日本の「ものづくり」にまつわる問題が浮き彫りとなった今回の投稿。簡単に解決できる問題ではないが、それでも投稿後には数名から同社に連絡があったそう。同社は「業界全体で難しい状況にあることを理解していただき、それでも良いと言っていただける方と縫製所さんのご縁がつながればよいなと思っています」とコメントしている。

取材・文/つちだ四郎

  • LINE
  • お気に入り

関連記事関連記事

あなたにオススメあなたにオススメ

コラボPR

合わせて読みたい合わせて読みたい

関連記事関連記事

コラム

ピックアップ

エルマガジン社の本