嵐莉菜主演、難民問題を映画にした川和田恵真監督の覚悟

映画『マイスモールランド』主演の嵐莉菜(左)と川和田恵真監督
またひとり、作家としての確かな視点と演出力をもった若い監督が生まれた。日本に住むクルド人の女子高生を主人公に、彼女たちが直面する多くの問題をドキュメンタリーではなく「物語」として描き出し、観る者に強い印象を残したデビュー作『マイスモールランド』。川和田恵真(かわわだ・えま)監督と主演の嵐莉菜(あらし・りな)に話を訊いた。
取材・文/春岡勇二 写真/木村正史
「映画監督としてこれで終わっても・・・」(川和田監督)
──嵐莉菜さん演じる在日クルド人の少女が、在留資格を失ったことから自らの居場所について葛藤する本作。監督はなぜクルド人の少女を主人公にしたのでしょうか?
監督:2015年頃、ISIS(イスラム過激派組織)と闘うクルド人の若い女性兵士の写真を見たのがきっかけでした。自分と同年代の女性が大きな銃を抱えて闘っている姿を見て衝撃を受けたんです。
──クルド人は、イラク、イラン、シリア、トルコにまたがって暮らす山岳民族ですよね。オスマン帝国の領内で暮らしていたものの、第一次世界大戦後の「サイクス・ピコ協定」によって分断され、「国をもたない最大の民族」とも呼ばれています。
監督:そうです。その写真を見て、国家をもたない民族クルドについて勉強を始めて。彼らは、国家をもたないからこそ自分たちの居場所は自分たちで守るんです。すると、「国家とはなんだろう?」と。彼らの存在がそれを問いかけてくる気がしたんです。
──そう思われた背景には、父親がイギリス人で母親が日本人という監督ご自身のルーツも影響してるのでしょうか?
監督:ありました。自分も幼いときからずっと自分の居場所とか、国への思いというものが揺らいでいる感覚がありましたから。デビュー作は、映画監督としてこの1作品で終わっても悔いのないものという覚悟を持っていたので、やはりこれを撮らなくてはと。
──それで、日本に住むクルド人たちに取材を始められたと。
監督:そうです。調べてみたら、日本にも2000人とも言われるクルド人の難民申請者がいることがわかって。埼玉や東京にあるクルド人が多く住む地域に通って、およそ2年間、取材したり脚本を書いたりしていました。実際訪ねると、どこも盛大に迎えてくれて、それがクルドの文化なのだと知り、それは脚本づくりにも生きました。

──撮り始めるまでに、相当の時間が費やされたわけですね。
監督:やむを得ずそうなった面もあります。私はこの映画を、日本全国にある映画館で観てもらえる作品にしたかったのですが、今なお、日本人が主人公でない作品を撮ることは簡単でないことを改めて知りました。今回はプロデューサーや製作委員会、所属する会社が頑張ってくれたおかげでなんとか企画が成立しました。
──川和田監督は、是枝裕和監督や西川美和監督と同じ「分福」に所属されてますよね。
監督:そうです。是枝監督からも「これは今の日本でぜひ作るべき映画だ」と言っていただいて心強かったです。
──ドキュメンタリーではなく、物語=フィクションとして撮られたのはなぜですか?
監督:私はドキュメンタリーって、いい意味である程度の距離をもった他人事として観るものだと思っているんです。一方、今回の映画で描いたさまざまな問題は、もし自分たちが同じ状況に置かれたらどう思うのか、自分事として感じてもらいたかったので、物語で語ることにチャレンジしたんです。

──確かに物語の方が身につまされます。そんななか、主人公の在留カードが失効し、県外への移動が禁止されてしまうことが、相手役の少年との淡い交流のなかに描かれます。
監督:失効を示すために目の前でカードに穴を開ける。あのパチンという音が忘れられないと言う人がいました。また、彼らにはほかの困難も多く、移動制限は一番の困りごとではないと言っていましたが、私には大きな人権侵害に思えたんです。
──大きな橋に付けられた、県境を示すプレートを使った表現が、微笑ましくも痛ましくもあって印象的でした。
監督:クルド人の多くの人が、日本を好きでいてくれるんです。治安もいいし、人もやさしいと。期待をもって来日された方が大勢いる。でも、難民申請は何度もするけれど却下されてしまう。申請、却下の繰り返し。だから、日本で難民申請するのは不治の病にかかっているようなものだと言う人もいました。
──なぜ認めないのでしょうか?
監督:まずは、難民条約を批准しているのに受け入れ体制が整っていないこと。そして、国と国の関係が大きいと言われています。日本と友好関係にある国で迫害があることを認められない、という。ただ、映画でそれを解説的に伝える必要はないと思っています。
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