アニメ映画史を揺るがす大傑作「犬王」、湯浅政明監督に訊く

その圧倒的なまでの独創性で、国内外から高い評価を受けるアニメーション監督・湯浅政明
「もっと自由に生きて良いんじゃないか」(湯浅監督)
──今回、松本大洋さんがキャラクター原案をされてますけれども、テレビアニメ『ピンポン』(2014年)以来ですよね。
元々、大洋さんは古川日出男さんの『平家物語』と『犬王』の挿絵を描かれていたので、内容も把握されてて。僕のなかに犬王のイメージもあったんですけど、逆に大洋さんはどう考えているのかまず知りたかった。だから最初に自由に描いてもらって、そこに僕なり犬王を話し合いながら入れていった感じですね。
──右手だけが異常に長いというのは、あれは監督のアイディアですか?
そうですね。なにか大きな特徴を付けた方が良いと思って。諸星大二郎さんのマンガ「西遊妖猿伝」に、ぐーんと手が伸びる妖怪が出て来るんですが、そういうのも面白いなと。片腕だけがすごく長くて、片方は短く違うところに付いているみたいな。

──そんな異形の物が見事に動きまくるという。まさにアニメーションの醍醐味ですよ。あの形態でありながら、まさに疾駆しますもんね。爽快なまでに。
最初、走るのに腕が邪魔にならないかなとも思ったんですけど、杞憂でした。原画も良かったです。爆発的で爽快な疾走感が欲しいシーンでした。
──ところで湯浅監督の作品は、『映像研には手を出すな!』の女子高生3人とか、『ピンポン』のペコとスマイルとか、補完し合ってひとつのものを創造していく関係がたまにありますよね。今回も、犬王と友魚の一種のバディムービーといえると思いますが、そういうところに惹かれたというところはありますか?
『映像研〜』は理想像ですよね。実際はあまりそう上手く行く事はないですが。人がこう上手く組み合わさるとすごいことができるんだって。映画『マイ・フレンド・メモリー』や映画『ヒックとドラゴン』も好きですね。『犬王』はピンポンと同じように、犬王が光で、それに惹かれた才能が友有りなんだろうと思います。
あの時代に運命的に逆らえないような姿で生まれてきても、まったく気にもしない。自分はこう生きたいんだという犬王の生き方に、周囲の人が巻き込まれていく。特に友魚なんかは負の運命に左右されそうになったけど、犬王に引っ張られて高みに登っていく。また犬王も友魚がいたおかげで、すごくスムーズに上がっていく感じになったと思うんです。

──なるほど、必ずしも最初から補完し合う関係ではない。
友魚がいなくても、ああいう誰かと出会っただろう犬王がいて、友魚は犬王がいたからこそ駆け上がっていけた。だから、もしかしたら犬王から裏切られたかもと思ったとき、友魚はドロップアウトして、ダークサイドに堕ちてしまう。犬王は自分の夢はあるけれど、友魚のためならそれを捨てることさえできる。踊ることさえできればいいから。
というところで、歴史に残らなかった2人の話を今見てもらうというのがテーマでありながら、お互いを理解し合える友がいることはすごく良いことだなぁと。ちょっと苦手な人、理解できない人がいても、理解する想像力があれば関係も変わってゆくのではないかという現代とも繋がるテーマ。そんなバディの関係を意識しました。

──師匠に友一の名を与えられた友魚が、友有(ともあり)と自ら名を変えたとき「我はここに有るんだ」と言いますが、「友が有るんだ」というようにも読めます。犬王も自分で自分の名前を決めた。あのシーンで2つの創造体がひとつになる。
そうですね。
──先ほど野田さんと脚本を作る過程で、そこに向かってクライマックスを作っていったとおっしゃってましたが・・・。
名前=生き方という事ですね。当時は名前をどんどん変えていく時代でもあったんですが、自分で名前を決めるというのは生き方を自分で決めるということにもなる。無謀なことですけれども、それって意外にできちゃう。
そこもちょっと現代と繋がるんですけれども、人に迷惑をかけず、自分で責任が取れるならどんな無茶な生き方をしても良い、それで成功することもままあるんじゃないかなって思うところがあって。失敗しても自分で責任取れるなら、もっと自由に生きて良いんじゃないかなって。
映画『犬王』
2022年5月28日(土)公開
監督:湯浅政明
脚本:野木亜紀子 キャラクター原案:松本大洋 音楽:大友良英
出演(声):アヴちゃん(女王蜂)、森山未來、柄本佑、津田健次郎、松重豊
配給:アニプレックス、アスミック・エース
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