アニメ映画史を揺るがす大傑作「犬王」、湯浅政明監督に訊く

2022.5.28 19:00

その圧倒的なまでの独創性で、国内外から高い評価を受けるアニメーション監督・湯浅政明

(写真10枚)

「ロックが一番ストレートだなと」(湯浅監督)

──幼少期の犬王のステッピングは、まさにシュルレアリスティック(超現実を追求する芸術思想のこと)なまでの異様さが楽しい。

全体的に出来るだけシャッフルダンスみたいな、足を使ったダンスを取り入れたんですね。そしてそこは犬王の体型や場所を生かした感じになっています。村上泉(アニメーション映画『ピンポン』以来の原画担当)さんや榎本柊斗さんなんかがいいのを描いてましたね。足のダンスで言えば「竜中将」で総作画監督の亀田祥倫さんもいいのを入れてました。それ以外もいろいろありますけど。

「腕塚」はレイアウトだけになったけど、向田隆さん(映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』原画)の仕事が良かったですね。足が生えたあとの軽快な走りは榎本柊斗さん(テレビアニメ『映像研には手を出すな!』作画監督)・・・というように、それぞれいい感じを出してもらっています。

二本足で立てるようになった幼少期の犬王の舞 © 2021“INU-OH”Film Partners

──アニメーション界を代表するような錚々たるスタッフですね。今回、脚本を担当したのが、映画『罪の声』、ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』などで知られる野木亜希子さんです。ちょっと意外な組み合わせなんですが、どのようにしてあの原作をアレンジされていったんでしょう。

原作は調子よくあっちに行ったり戻ったり、また飛んだりとかするんで、それを映画として1本のストーリーにまとめてゆく感じですすんでいきました。名前の意味合い、もうひとりの主人公・友魚の名前が変わっていくところ、犬王が自分で名前を決めるというところを強調して、野木さん中心に謎解きも含めてクライマックスへと盛り上がるようにまとめていきました。

──金閣になる以前の北山第で将軍・足利義満に謁見するシーンが映画のクライマックスですが、実は原作にはないんですよね。

やはり山場は必要ですから。実際犬王は晩年、北山第で展覧能を勤めたらしいです。犬王は義満と仲違いをした時期もあったけれど、最終的にはまた仲良くなったという話もあります。まあ、ちょっと気にくわないところもあるけれど関係は続けていく、という感じにしました。身分の高い人に寵愛されなければ、やっていけなかった時代だと思いますから。

──芸能の流行り廃りは昔から目まぐるしいですしね。そのなかで勝ち残るのも大変。

ホント、みんな気が変わるのが早いので(笑)。同じ時期に田楽があって、田楽の方がこのあと隆盛を極めていくなかで、猿楽も2つの地域が競っていた。世阿弥が属した結城座がある「大和猿楽」4座と、犬王の比叡座がある「近江猿楽」6座です。

しかし、その後の将軍達にも寵愛された「大和猿楽」は残って行きましたが、犬王も属した「近江猿楽」6座の方は、比叡座が結城座に吸収されると共に消えていった。世阿弥は犬王を尊敬していて、幻想的な舞に影響を受けたというようなことを書き残していたりしていて。そういう関係もちょっと面白いなと思って入れています。

音楽を担当したのは、朝ドラ『あまちゃん』や映画『花束みたいな恋をした』で知られる鬼才・大友良英 © 2021“INU-OH”Film Partners

──今回、踊りの音楽をロックンロールでまとめられたのは監督の意向ですか?

最初に企画をいただいたとき、室町時代のポップスターを描くんだって、現代のロックシンガーの写真も一緒に入っていたんですよ。単純に僕はそれを面白いと思って、当時の人にとっては現代のロックスターのように感じたであろうと。

特に熱狂させるっていう意味では、自分の知っている音楽ではロックが一番ストレートだなと。だから、ロックというのは最初から考えていて、それでどういうロックかを試行錯誤しながら探っていって、最終的に今のかたちになった感じですね。

──まあ、ロックと一言で言えども、いくつものスタイルがありますもんね。

力強くて激しくて不敵な、ちょっと悪いもののような感じで。たぶらかすような、扇動するような感じのものとは思って例をいろいろ挙げたりしていたんですけど、なかなか共通意識をもつのが難しかった。それで先に、歌がある体でライブムービーを作って、それに合わせて作曲してもらう方法にしました。

映画『犬王』

2022年5月28日(土)公開
監督:湯浅政明
脚本:野木亜紀子 キャラクター原案:松本大洋 音楽:大友良英
出演(声):アヴちゃん(女王蜂)、森山未來、柄本佑、津田健次郎、松重豊
配給:アニプレックス、アスミック・エース

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