森山未來「『大人』というものの必要性がよくわからない」

映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』で主演をつとめた森山未來
「便利さが産んだ曖昧さのようなものの渦中にずっといる」
──さっきも話に出ましたけど、佐藤に恋するバーの店主・七瀬役の篠原篤さんが面白かったですね。彼の過去作のなかでも最高じゃないかな。
僕はこの映画は佐藤と七瀬の恋物語でもあると思っています(笑)。裏テーマというか、むしろ表にしたいくらいなんですけど。佐藤の全時代をずっと眺めていますからね。最後は酔って崩れ切っちゃったって感じですけど。
──ゴールデン街のお店も閉じちゃって。
篠原さんによると、七瀬は店に拘りすぎてたみたいなことを言ってましたね。劇中では描かれていないですが、七瀬は一見さんにはぼったくって、常連さんばっかり入れて、しかもちょっと安い値段で飲ませたりするから店が保てなくなったとか、そういう裏設定が篠原さんのなかにあったりして。それ、どういうアプローチなの? みたいなのもあるんですけど、篠原さんらしい(笑)。

──なるほど。この映画ってそもそも語られてないところを観客が頭のなかで埋めていくというところが結構あるじゃないですか。こういう語り口だから、この年とこの年の間に何があったんだろうとかね。
でも、僕は佐藤として、時間の溝に何があったのかはそこまで考えないで演じていたかもしれないです。それよりも1995年というのはどういう時代なのかとか、1999年、2000年はどういう年だったのかみたいな、そっちで捉えていたことの方が大きいかなぁ。例えば1995年は阪神大震災とサリン事件の年だから、あそこから何かが変わっていったよね、とか。
──前時代と断絶して何かが始まったという感覚がありましたね。
佐藤は関東の人間だから、阪神大震災のあおりも受けてないだろうし、そういうのとは関係のないところで生きているとも言える。でも何か、瓦解し始めたというか、なにかしら仄暗いものを纏っている瞬間から物語が始まっていることの意味はあると思います。なんとなくその時代の空気感を全体で共有していたかもしれない。1999年から2000年にしてもある種、末法思想的な、人類はもう終わりだって叫んでるみたいな思考が、全体にわかりやすく働いていた。
──2001年には9.11が起こりましたし、まさに末法の時代だったんですよ、あれは。
そこから2011年は東日本大震災が起きて。コロナ禍の現在まで描ききれたのが良かった。
──最後、みんながマスクして出てくるのは正解だな、と。それは撮影時期のおかげもあったと思うんですけれども必要不可欠だったと思います。
コミュニケーション・ツールの変容というのもポイントになってるので、コロナでコミュニケーションの有り様が変わったところまでピックアップできたのはよかったですね。

──そういう意味では、三好(萩原聖人)と関口(東出昌大)と佐藤の会社の発展も同時に描かれているところが、いわゆるパーソナルな面だけでなくて、社会の変遷が映画から見てとれるように出来ていますよね。経済情勢であるとか、仕事の在り方であるとか、メディアの変遷であるとか。
なんせテレビのテロップ専門の会社ですから。本当にニッチですけど、メディアというものの変容がコミュニケーション・ツールの変遷と上手くリンクしてる感じがあるのかも知れません。
──かおりとの出会いにしてもSNSの萌芽のようなところから始まるし。個人と個人が匿名で出会える時代の始まりみたいなもんですから。
SNSは誰とでもそんな風に繋がれてしまう。かおりとは二度と会えないとドラマティックに考えて生きていたのが、普通に「お友だちじゃないですか?」って出てくる。物心ついた時にはすでにSNSというものがあったであろう10代や20代の人たちからすると、もうそんな風にしてしか繋がれない。
でもこのことが逆説的に伝えているのは、別れられもしないし、かといって繋がり切ることもできないみたいな、便利さが産んだ曖昧さのようなものの渦中にずっといるとも言えるということ。それは別れたら二度と出会えないみたいなものの新鮮さ、羨ましさにも繋がる。だからこそ、この原作小説が「エモい」って言葉で語られるんだろうなと。
──これを観て、渋谷再探方する人も増えるかもしれないですね(笑)。
それも面白いですね。だいぶあの当時とは変わっていますけれども、出来るだけ特徴的で、今も変わってないところを選んでいますから。
◇
映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』は、全国の劇場で公開中&Netflixで配信中。
映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』
2021年11月5日(金)劇場&Netflix同時公開
監督:森義仁
出演:森山未來、伊藤沙莉、東出昌大、SUMIRE、ほか
配給:ビターズ・エンド
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