金子大地と石川瑠華主演作「互いの良さが引き出された」
「ものすごく基本に立ちかえって撮った」
──そんな人間の、業の深さを露呈するのがやっぱり恋愛、あるいは恋愛映画の面白さだと思うんですよ。
この映画でいうと、ガールズバーのシーンとオーディションのインタビューシーンは、見ず知らずの第三者に自分の心情に近い部分を話してしまうという対になるシーンになってて。これは技術的な話なんですけど、インタビューシーンもガールズバーのシーンも実はものすごく分からない速度でじんわりズームしてるんですよ。
気がつくと小山田やユカだけになってる。この映画全体的に通して言えることなんですけれど、何をどの順番でどういう風に見せるかをすごく考えたんです。デジタルの4Kで撮れるから出来る技だったりするんですけれど、撮影の文法みたいなものはものすごく基本に立ちかえってやってましたね。もう映画学校の奴かって言うくらい(笑)。
──だからこその推進力がありますよね。3つのチャプターに分かれてるんだけど、映画のリズムは加速するばかりで。
アート・ムーヴィーみたいなものも僕は好きですし、ラフでエモーショナルな映画も魅力あるんですけど、どっちかというと文法に比重を置いた撮り方を僕はやってるつもりです。まあ、映画の文法に超詳しい偉い人に「なっとらん!」と言われたら「すいません!」って言うけど(笑)。
でも、ガールズバーのパートとかは、観客に無意識のうちに人物にフォーカスするような作り方、編集をしてますね。僕はマーティン・スコセッシが好きなんですけど、人物の会話シーンだって、とてもスタンダードなカットバックだったりするんですよね。それが映画にどういう作用をもたらすかが、きれいな画とか美術映像よりも大切だと思うんです。
──小山田の心理に観客の目を集中させていきますしね、実際。
目を凝らしてみると、ちょっと涙がこぼれてるんですよ。ホントはそこに寄りたいんですけど、なんか同情も出来るけど、「お前が泣くことなの?」っていうのがあったりとか(笑)。そこの距離感って難しいんですが、あえてそこを見せないっていう。でも金子くんはホントに素晴らしかったです。
──クライマックスといっていいと思うんですけど、小山田のアパートでのあの「修羅場」は、何テイクくらい撮られたんですか?
僕の編集の話になるんですが、何年か前、フィルムで撮っていたときは細かくカットを切ってやったりとか、もしくは相米慎二監督みたいに1シーン1カットで撮ってしまってOKっていう、大体その二択だったと思うんです。
僕はデジタルで撮影出来るようになったので、割と頭からケツまで通して撮るんですよ。OKテイクみたいな概念がないんですね。喧嘩のシーンは映画のなかで一番くらいテイクを重ねていて、いろんなアングルで撮ってるんです。
──でもすさまじい緊迫感が生まれてるし、そこに地獄感がむくむくと立ち上がるという(笑)。
あのシーンの最後で、二人がもみくちゃになってカメラを取り合うんですよね。いちおう観客が混乱しないような動線は作ったんですが、とりあえずのりしろ的に玄関あたりから小山田が写真を撮るところを撮ってみたら、ちょうど壁で二人が見えなくてフラッシュだけ映るみたいなのがあって。
「これメッチャなんかすげぇぞ、見たことないぞ」って。その状況の残酷性を光だけで表現するみたいなカットに編集段階でなりましたね。そんな発見もありながら、撮影は3時間くらいやってたのかな。みんなもうヘトヘトで(笑)。
──そりゃそうでしょう。あれはちょっとカロリー使いますもん、観客さえそうだし(笑)。小山田はユカの写真をいっぱい撮りますよね。で、ラストで小山田が部屋を出ていって、もぬけの殻になった床に一枚、裏返しになった写真が残されてるじゃないですか。あれは何なのかなって。
ね。どの写真だったんでしょうね。それはご想像にお任せします。
──結構、観終わってから議論になるでしょうね。
映画って、要はそういうもんじゃないか、って。現像したものを小山田は置いてるんですよね。だからちゃんとあの裏にはきちんと現像された写真がある。
──わざわざ焼いてるんですからね。
でもあそこのシーン、撮るのに滅茶苦茶時間かかりました。大きくなくて簡易的なクレーンみたいなものがあるんですよ。今回は三脚とレールが基本的な僕らのセットだったんですけど、トラックインしながらカメラが下に向いていくというのが妙にがたついて出来なくて。「あれ、楽勝だよね」ってみんなで言ってたのに(笑)。何回もやってたら日が暮れそうになって、20テイクくらい撮ってますね。
──でも結果的にスムーズに動いてますねぇ。
スタビライズって画面をがっちり見せる後処理があるんです。デイヴィッド・フィンチャーもよく使ってるような。だからあそこも後処理で更になめらかにしてるんです。でも微妙な揺れが効いてるところがあるところがあって、そこは敢えて残してるシーンもありますね。
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