アルコール自粛で酒蔵にも打撃、日本盛「今できることをやる」

2021.6.19 07:45

兵庫県西宮市に本社を構える「日本盛」

(写真4枚)

まん延防止措置、緊急事態宣言と、数カ月に渡る飲食店への休業や酒類提供の自粛が続いた関西。先行きが見えないなか、飲食店だけでなく酒蔵への心配の声も多く囁かれるが、コロナ禍を酒蔵はどのような思いで過ごしているのか。前向きな姿勢を崩さず、さまざまな行動を起こしてきた関西の老舗酒蔵「日本盛」(本社:兵庫県西宮市)に話を訊いた。

阪神間の神戸市灘区、東灘区、西宮市に渡る海岸沿いにあり、「西郷」「御影郷」「魚崎郷」「西宮郷」「今津郷」の5つのエリアからなる日本一の酒どころ、灘五郷。その酒蔵のひとつで、1889年の創業以来、約130年にわたって日本酒を作り続けてきた同社。看板商品の「日本盛」や「惣花」をはじめ、搾りたての生原酒をアルミ缶に入れた「生原酒ボトル缶」シリーズや、健康ブームで人気が右肩上がりしている「日本盛 糖質ゼロプリン体ゼロ」など、時代に合わせて多岐に渡る日本酒を製造・販売している。

そんな同社も、新型コロナウイルスの影響を受けた酒造メーカーのひとつ。広報担当者は「2020年春の第一波のときは、国内外すべて商品の出荷が難しい状況でした」と振りかえる。家庭用の商品を多く扱っていたことで、緊急事態宣言下では家庭向け商品の売り上げを伸ばしたものの、家庭での飲酒量と外食時の飲酒量では、外食時のほうが圧倒的に多いため、緊急事態宣言の影響は少なからず受けたという。

今春の第4波でも、同社の商品が多く流通する関西・関東・東海のほとんどの地域では、緊急事態宣言、まん延防止措置法が発令されており、飲食店への出荷はストップ状態。厳しい状況が1年以上続くが、「日本盛」はそんな窮地のなかでも「今できることをやる」をモットーに行動を起こしてきたという。

コロナ禍だからこそ起こしたアクション

「『今できることをやる』の言葉通り、2020年4月には国の規制緩和に伴い、手指用アルコール消毒液である日本盛アルコール77の製造に着手しました」と広報担当者が話すように、アルコール消毒液不足が問題となっていた最中に商品の製造をスタートさせ、地元の病院や介護施設、学校を中心に医療現場や教育現場などに提供し続けてきた。また、2020年秋より安定供給ができるようになったことから、同商品の一般販売も開始し、アルコール消毒液不足解消へ大きく貢献した。

主力事業である酒類の製造販売面では、通販用ECサイトの強化を実施。「これまで弊社のECサイトでは化粧品や健康食品など、酒類以外の商品をメインに取り扱っていたのですが、2020年春から酒類の販売を強化しました」と話す。

公式サイトで公開されているアレンジレシピ(写真はスクリーンショット)

商品ラインアップを充実させるだけでなく、お酒を一工夫して楽しむ『家飲みのススメ』というコンテンツを取り入れたほか、オンライン限定商品の展開もスタート。純米酒をオーク樽で8年間熟成させた「オーク樽純米酒<8年熟成>」をはじめ、アウトドアブランド「モンベル」とコラボした「モンベル製クージーと生原酒セット」は発売開始から約40分で完売するなど、爆発的人気商品も誕生している。

そのほかにも、家族と過ごす時間を楽しむ機会になればと、「ステイホームプロジェクト」として『鬼ころし』のパッケージをぬりえにしたキャンペーンを実施するなど、この1年、今できることをおこなうことで、厳しい状況を乗り越えてきただけでなく、新型コロナウイルスのまん延防止のために大きく社会貢献してきた。

「我々も飲食店のみなさんを心配していましたが、逆に飲食店のみなさんに心配していただき、とても感慨深い。酒蔵はなんとか元気にやっています。私たちが弱音を吐いている場合ではない。早く飲食店で楽しくお酒が飲めるよう今できることをやっていきたい」と、力強く話した。

現在、同社では新型コロナウイルスのワクチン接種会場向けにアルコール1万リットル(5リットル×2000本)を寄付するプロジェクトをおこなっており、各自治体へ応募を呼びかけている。

取材・写真/野村真帆

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