外国人不法労働者を描く、リアルな声から生まれた映画とは?
「そもそも僕ら照明部がいないんですよ」
──3人組だけじゃなく、今回もどこまでも演技はリアルなんですが、『僕の帰る場所』では例えば津田寛治さんとか明白な俳優さんも混じってましたよね。今回はどこまでがプロの俳優さんで、どこまでが素人さんなんでしょう。
ひとりだけですね。キタガワユウキさんっていう怒ってた漁師の方が出演兼アソシエイトプロデューサー。『僕の帰る場所』で主人公家族のビザなどの書類をサポートする日本人役で出てます。その方以外は全部現地の方ですね。
とりわけ漁港で3人が働いている場所は本物です。通常稼働しているなかに僕らが入れさせてもらっている形なんです。撮影のために「じゃぁ今から魚をここからここへ移してください」とかではなく、作業音も本物ですし、ガチななかであれを作れたというのはすごかったですね。
──そんなだったら、撮影さんも録音さんも大変でしょ?
録音さん大変でしたね。カメラは追っかけるだけなので良いですけど。結構狭いんですよ。あんまり邪魔すると漁師さんメチャクチャ怖いんで。
──速度の問題ですもんね、魚って。
そう、早くパッキングして氷詰めしたりしなくちゃいけないので。そこをリアルな場所をお借りできたというのはほんとに助かったというか。水揚げされた鰯を大きいのと小さいのと選別していく。そのときは小さいのはドッグフードになると聞きました。でもあまりに膨大な量の鰯なんで、それは人手いるよねみたいな。
──フォンちゃんが行く病院も結構大きいですよね。あれもあの土地に実際にあるんですか?
実際の病院を貸しきってもらって撮りました。お医者さんも本物のお医者さんです。受付の方は、ひとりは本物で片方はボランティアの方。結構みんなOKなんですよ。青森の地域性なんですかね。本当に人が温かくて、懐がすごく広い。
ひとり歩いているところを撮るとき、「この敷地通ってごめんなさい」みたいなことしゃべってたら、「リンゴ持ってく?」って言われて。知らない人からいっぱいリンゴもらったり。魚も余ったやつを全部くれたりだとか、町長さんも味噌をくれたりだとか(笑)。
──でも撮影クルーの息の合った良さというのが、前作以上の美しく迫力ある画面に表れてますね。
そうですね。前の作品を1回やってるというのはすごく大きくて。新しいメンバーとはこういうやり方って共有しにくいんですよね。
だから、僕が「2時間長回しします」って言ったら、普通なら「もう本当に監督、ふざけないでください」ってなっちゃうんだろうけど、このチームってだれひとりそんなこと言わないし、「やりましょう」「いつものやつですね?」って分かってる感じがして、すごく気持ちよかったです。
同じ座組で作品を積み重ねていくというのは、インディペンデント・フィルムにおいては重要なのかなと、今回改めて思いました。
──現実に放りこまれる、あるいは入りこんだなかで撮るみたいなことも阿吽の呼吸で出来ちゃうっていう。
そうです。そこは。小さい撮影所みたいな感じですね。
──今回の映画、冒頭の脱走シーンからしてナイト・シーンがけっこうありますけど、ほとんど外から加えられた光がないじゃないですか。実際に三人が持ってる懐中電灯とか、倉庫の電球の光だけで。クレジット見ても照明さんの表記がないし。
そもそも僕ら照明部がいないんですよ。ちょっと補助するくらいで。電球の明かりだけでやったりとか。
──ああいうナイトシーンって、余計な映画的なライトを加えたりするでしょ? そしたら一挙にリアリティがなくなっちゃう。あれは暗いからこそ良いんですよね。
本当は、僕はいつか大きくなったらむちゃくちゃやりたいんですね、『ノルウェイの森』(2010年)くらい。中村裕樹さん(日本を代表する照明マン)呼んできてね。でも中途半端になると急にチャチっぽくなっちゃうんですね。こうやって話してると、あのナイトシーン、懐かしいですね。
──いつ撮られたんですか?
ちょうど1年前、2020年の2月ですね。コロナで横浜に船が止まってるらしいぞ、って頃。で、撮影後半になるにつれて北海道にコロナが来て、女優さんたちが不安がって。国に戻ったときに差別されるとか。本当にギリギリでしたね。「雪がある時期」っていう設定にしてなかったら、多分ポシャってました。やっぱり海に雪で正解だった。
『海辺の彼女たち』
脚本・監督・編集:藤元明緒
出演:ホアン・フォン、フィン・トゥエ・アン、クィン・ニューほか
配給:株式会社E.x.N
関西の上映館:シネ・ヌーヴォ(5月8日〜)、京都シネマ(5月7日〜)、神戸元町映画館(5月8日〜)
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