外国人不法労働者を描く、リアルな声から生まれた映画とは?

2021.5.11 20:40

左からアン、フォン、ニューが不法労働者となり日本で稼ぐために漁港で働く。(C)2020 E.x.N K.K. / ever rolling films

(写真4枚)

「自由のなかに、また新しい不自由が生まれるということがテーマ」

──前作もそうだけど、監督の作品はドキュメンタリ的に見えつつも、明らかにドキュメンタリとは違う方向を向いてますよね。今回はあの雪景色のなかにいる人物をハンド・キャメラで追うだけじゃなくて、遠景もがっちり撮ってるじゃないですか。真っ白な風景の向こうの色彩がすごい色をしてたりとか、そうした美的なショットが何カットもある。

あの時期のあそこの場所って本当にラッキーでした。余計な色がないんですよ。白か、海の色か、木材の色。グレーよりの色に統一されているんですね。あんまり日本にそういうところがなくて、色がカラートーンを統一できるとか。

青森の外ヶ浜町という街で、まだ1回も映画に撮られたことなかったらしいんです。フィルムコミッション(撮影を誘致しサポートする非営利団体)はないんですけど、そこの町長さんとか、産業観光課などの役場の方に全面協力してもらっ て、漁師さんはじめ町民の方々にも協力してもらいました。

でも、こういう題材ってそもそも断られるんですよね。絶対にやって欲しくないじゃないですか、自分の町で。ここではそういうケースがなかったからこそ受け入れてもらえたんですけど。

──ホントそうですよ、不法労働者を雇ってる漁港の話ですもんねぇ。実際には彼女たちはどこから逃げてくるんですか?

リアルで横浜あたりが多いんですね。映画的には記号にしたかったんで、都市部と地方っていう区分だけにしてますが。東京にいると、たまにすごい荷物持ったベトナムの方に会ったりするんですよ。色々ストーリーを考えちゃって。そうした日常的なところであったことをアイデアとして取り入れたりしましたね。

──逃げてきた技能実習生・・・というかつまりは不法労働者ってことになるわけですが、実際に働き口を斡旋するブローカーの存在もあるわけですよね。

それは間違いなく。基本は日本人、もしくは長年滞在して、日本語もちゃんと喋れる同郷の人が勧誘してるはずですね。

──この映画に出てくるブローカーのベトナム人のダン君、3人娘からだいぶもらってますよね。まあ、見ようによっては搾取なんだけど。

月々何%ってマージンを。でも逃げちゃうリスクもあるんで、彼もなかなか大変なのかなと。

──彼も彼女たちにかなり親身に接してますよね、映画には映らないけれど逃げ出す原因となったブラックな経営者は別として、「もっとちゃんと働け」と怒る漁師さんも含めて、この映画ではだれも間違ったことを言ってないような気がするんですよ。日本人でもそんなことを言われている労働者は普通にいると思うんで。

そうですね、僕でも多分同じことを言うだろうなと。ほかの日本人がすごく殴って苛めてるとか、外的要因がキツすぎるとパーソナルな部分の心情的葛藤とかが全然浮かび上がってこないだろうなと思ってそうしたんです。

技能実習生とか不法労働者の話とかっていうと、すごくNHKっぽいのかなって思う人が多くて。ただ、僕らとしてはパーソナルな部分にフォーカスしたかったんです。でも、もっと過酷なのを期待していたとか、そう言う方はいますね。

アン(ファン・トゥエ・アン)、ニュー(クイン・ニュー)は、新たな職場での余暇を楽しむ余裕も。(C)2020 E.x.N K.K. / ever rolling films

──うん、不法だからって人権無視で不当に使いまくられるようなイメージはありますよね。でも、仕事が朝早くて午前中に終わるから結構自由な時間があるし。それ以外の時間は拘束されないんだなぁというのも新しいアプローチで。

「もうちょっと働こうか」って台詞もありますしね。

──でも、それがリアルだってことは、いろいろリサーチされたうえで分かったわけでしょ?

がちがちに牢獄に入れられてるわけじゃないですしね。でもそんな自由のなかに、また新しい不自由が生まれるということがテーマなんです。逃げ出したとしてもビザがないとか保険証がないとか。スペクタクルな苛めとかそういうのじゃなくて。

──フォンちゃんがどこでどう降り間違ったのか、延々と雪の野っぱらのなかを病院を探して歩くのを密着して追ったなか、たどりつくも、病院にはすげなく追い返されてしまう。またいろんな闇の商売もあったりして。そうしたジャーナリスティックな面も入れつつ、それだけじゃ無いっていうのが劇映画の豊饒さというかな、そんなものを感じさせてくれる。

そこは僕らがすごく強調したいところです。ドキュメンタリータッチとは言われますけど、「物語る」というのに重きを置いている。「メディアが報道でやることと、映画が担うところの二つがあって、合わせて丸ごとだ」って言葉を聞いたことがあってとても良いと思ったんですが、まさに橋渡しになれば良いな、と。

『海辺の彼女たち』

脚本・監督・編集:藤元明緒
出演:ホアン・フォン、フィン・トゥエ・アン、クィン・ニューほか
配給:株式会社E.x.N

関西の上映館:シネ・ヌーヴォ(5月8日〜)、京都シネマ(5月7日〜)、神戸元町映画館(5月8日〜)

  • LINE
  • お気に入り

関連記事関連記事

あなたにオススメあなたにオススメ

コラボPR

合わせて読みたい合わせて読みたい

関連記事関連記事

コラム

ピックアップ

エルマガジン社の本