ヤノベケンジ「作品作りは人生の映画を撮っているようなもの」

2021.2.14 13:45

映画『BOLT』(C)林海象/ドリームキッド/レスパスビジョン

(写真17枚)

現代アーティストのヤノベケンジが、林海象監督とタッグを組んだ映画『BOLT』が、2月13日より順次、公開される。映画の美術を担当したヤノベケンジに話を訊いた。

──デビュー期から放射能の問題やサバイバルをテーマにした作品を発表してきたヤノベケンジ。アート作品として表現してきたことが、震災以降、はからずも『BOLT』が描くようなリアルな状況と重なって見える。それをどう感じていますか?

作品が世の中とリンクして、評価されたり批判されたりするってことは、いろんな意味で素晴らしいことだと思う。状況によって時代によって、作品にいろんな見方が生まれてくることって、あると思う。『BOLT』は、2016年に撮影された、原子力発電所を舞台にした作品ですが、(新型コロナ感染拡大下の)今見ると、「イエロー・スーツ」が、感染防護服に見えるような、そんな別の見えかたもすると思うんです。

──「時代を予見したアーティスト」と、評価されることは?

僕はアーティストとして核の問題について語ってきた一人ですが、もちろん災害を予言する能力はないですし。そうならないようにと願って作品をつくってきた。もし仮に、間違って神様がそういう能力を与えたとしたら、もう二度と悪い予言をする作品は作るべきじゃない。だから、恥ずかしいくらいにポジティブな未来の像を作ろうとした。それが、希望の子ども像「サン・チャイルド」(2011年)なんです。その時代で何を作るか、何を目指すかは、表現者としては葛藤もあるし、常に考えているところです。

現代美術作家・ヤノベケンジさん

サン・チャイルドとは、震災後、福島市に設置した、可動式の巨大な子どもの彫刻。傷だらけの顔で防護服のようなコスチュームを身につけた子どもが、右手に太陽を持って立ち上がる姿は希望の象徴として制作されたが、被災した住民からは賛否の声があがった。

──手掛けてこられた一連の作品には、ひとつの物語性を感じます。コンセプトがぶれないということでしょうか?

90年代からアートをやってきて、まさに映画を撮るように作品を作ってきたと思います。もともと映画は好きで撮りたかったんだけど、いろんな制約がある映画の世界よりも、自由に楽しいことができるアートを選んだ。社会的背景があって、その時に作った作品が、時代の登場人物であるような。人生の映画を撮っているようなものだと思っています。そうして、人生がドラマチックに過ぎてゆく(笑)。今回は林監督が、映画の話をもちかけてくれて、それもひとつのエピソードとして語れるんじゃないか。

──ヤノベさんの壮大な人生映画の片隅に『BOLT』がある?

そんなこと言ったら、林さんに怒られるじゃないですか!(笑)

──ここ(インタビュー会場となった「MASK」(大阪市住之江区))には、サンチャイルドをはじめ、大型の彫刻作品の近作も並んでいて、ヤノベさんの作品がますますパワフルになるのを感じます。ブレない、衰えないモチベーションの源泉はなんでしょう?

「おもしろいやん」ということでしょうか(笑)。僕が教えている京都芸術大学にはウルトラファクトリーという教室があって、いろんな人が集まってプロジェクトをやっている。林監督は、姉妹校の東北芸術工科大学で教鞭をとっていて、今回、お互いの学生たちが一緒に仕事をしました。

大学のなかで教えているのは、若い才能が開花したり、能力が急成長するその瞬間に立ちあうのが好きだからです。ものを作るのが好きだし、ものが生み出される現場が好き。クリエイティブなエネルギーの魅力があるから、やり続けていられるんです。

作品「サン・チャイルド」の前に立つ、現代美術作家・ヤノベケンジさん

 ◇ ◇

ヤノベケンジさんの作品が保管されているアート収蔵庫「MASK」で、3月6日より作品公開のプログラムが開催される。『Open Storage 2020-2021-拡張する収蔵庫-』https://www.chishimatochi.info/found/mask/

取材・文/沢田眉香子 写真/木村正史

映画『BOLT』

2021年2月13日(土)より公開
監督・脚本:林海象
出演:永瀬正敏、佐野史郎、金山一彦、後藤ひろひと、大西信満、堀内正美、月船さらら、佐藤浩市(声の出演)
制作:東北芸術工科大学
※2021年2月13日(土)より「シネ・ヌーヴォ」(大阪)、2月26日(金)より「出町座」(京都)、順次、「元町映画館」(兵庫)で公開

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