2020年下半期に見逃していない? 観るべき洋画の評論家鼎談

モデル活動もおこなう主役のチュティモン・ジョンジャルーンスックジン。『ハッピー・オールド・イヤー』。(c) 2019 GDH 559 Co., Ltd.
春岡「相米慎二、清順さんを思い出す」
田辺「これも下半期どころが2020年の全体ベスト級なんですけど、メル・ギブソン主演の『ブルータル・ジャスティス』も良いですよね。あの映画、いろいろおかしいですよ(笑)! 『リーサル・ウェポン』シリーズみたいな警察バディものだけど、バカをやってしまって謹慎処分を食らってしまって・・・という話だけど、ワンカットがいちいち長いんです」
斉藤「贅沢な時間の使い方をしていたよな。もうね、映画としか言いようがないんですよ、コレは」
田辺「お笑い芸人・兵動大樹さんが、ご自身のユーチューブの映画番組でものすごく的確な『ブルータル・ジャスティス』評を配信していらっしゃるんですよ(『兵動大樹のシネマな話』)。兵動さんも指摘しているんですけど「このくだりって本当に要るのか」という箇所がすごく多い。例えば、歩いてくるシーンにしても、とにかくストロークが長い。メシを食っていても、『このメシがどうのこうの』ってダラダラダラダラしゃべっている」
斉藤「まさに、そうしたシーンの集合体みたいな映画だよね。もちろん緊張が走る箇所もあるんだけど、『ブルータル・ジャスティス』ほど映画的な時間をとらえたものはない。張り込みのシーンでもダラダラと話をしていたり。銀行強盗を襲うシーンでも、全然関係ない銀行員の日常生活から始まったり。そんなところから撮り始めるのかよ、という場面ばかり。『リーサル・ウェポン』の逆なのよね」
田辺「丁々発止で進むんじゃなくて、テレビ放映では絶対に耐えられないような間合い」
斉藤「で、キャラクターがちゃんと対峙するところになったら、それはそれでめちゃくちゃおもしろいんだけど、ほとんどリアルタイムの駆け引きでこれまた長いのよ。結局、何にも起こらなかったりして(笑)。S・クレイグ・ザラー監督は小説家でもあるんだよね。こんな映画を作れるなんて怖いもの知らずだよ、はっきり言って。これまで映画を2本撮ってるんだけど、全部良いんだよ。そのなかでも『ブルータル・ジャスティス』は飛び抜けてアタマがおかしい。僕は今年のベスト3」

春岡「センスが良いってのを飛び越えているよな。監督の身体が映画のリズムになっているみたいだな」
斉藤「そうそう、センスが良いのよ。ちゃんとバディものになっていて、犯罪映画のセオリーも押さえている。僕はピーター・イェイツの映画あたりから影響受けてるのかなって感じるんだけどね。各場面、関係のないところから始まるところとか」
田辺「だってそういう箇所がなければ90分くらいで終わるような映画ですから。それを2時間半くらいかけてやりますからね」
斉藤「『透明人間』同様に、アクションシーンはちゃんとやりつつ、アート映画の域に達している。兵動大樹さんがこの映画を評価しているって面白いね」
田辺「ストロークがどうのっていう話を実際していて。メル・ギブソンの主演映画だからこその時間感覚ではないかとか」
斉藤「うんうん、まぁメルの監督作観れば分かるけど変態だしね。まるでカサヴェテスの映画を楽しむのと同じようなタイミングのアクション映画。あと、変なノワールだと中国映画『鵞鳥湖(がちょうこ)の夜』かな? ディアオ・イーナン監督は『薄氷の殺人』(2015年)もすごかったけど、超えてきたね」
田辺「はい、出ました『鵞鳥湖』。『透明人間』、『ブルータル・ジャスティス』、『鵞鳥湖の夜』で僕の下半期ベスト3は全部出ました。『第三の男』(1949年)のオマージュとかそういうことをずーっとやってるんですよね。これも飯を食うシーンが長いんだけど、それぞれが展開のタメになっているんですよね」
斉藤「これも無駄なところが魅力。光るサンダルで踊っているところとかね」
田辺「あの夜のダンスシーンは2020年のベストカットかもしれない。サウンドトラックもすばらしい。バイクアクションも中国映画的なんですよね。で、バイクに乗っていて頭がスッポーンと飛ぶシーンとか、いろいろ的確かつ軽くやっていてびっくりする。そしてヒロインのグイ・ルンメイの存在感」
斉藤「今やアジアの知的トップスターだね、グイ・ルンメイは。ってか、ディアオ・イーナン監督って絶対に鈴木清順が好きだよね」
田辺「ガンアクションのやり方は完全にリスペクトが入ってますし」
斉藤「傘の使いかたなんて清順さんも悔しがるんじゃないかな。いちいちシビれるし、いちいち傾(かぶ)いている。デヴィッド・リンチも入っている、カーニバルのシーンとかね」
春岡「鈴木清順とデヴィッド・リンチって、ちょっと分かるな」

斉藤「中国のなかでは彼はもっともそういうジャンル映画に近づいている。そういう意味ではすごく異端な存在なんですよ」
田辺「中国の地域文化も生々しく捉えていますよね」
斉藤「辺境区域の人間がみんな集まってきて、よく分からないコミューンを作ってしまっているのが鵞鳥湖なんだよね」
田辺「で、湖である鵞鳥湖の上で売春がおこなわれているという。画として、『え、そこで、そんなことをやってんの?』みたいな」
斉藤「そんなナンセンスなシーンにドビュッシーみたいな音楽がかかったりしてさ、ほんとアタマがどうかしてる! 常にハイテンションといってもいい」
田辺「冒頭が雨のシーンで冷たいのと、夜のシーンが多いこともあって冷たい雰囲気なんだけど、実はテンションの数値がそもそも高い」
斉藤「そう。照明とか見てもウォン・カーウァイ、鈴木清順。ってか、まぁ、ウォン・カーウァイのスタッフなんだけど」
田辺「男女が雨のなかでしゃべっているシーンも、お互いが柱を背にしゃべり合うとシーンなんてまさにウォン・カーウァイ」
斉藤「中国映画なら『凱里(かいり)ブルース』も入れておきたい。大阪では下半期公開に入るんだよね。中国ではディアオ・イーナンと、このビー・ガン監督が異端なんですよ。『凱里ブルース』は長回しの楽しさを追求してるよね。ああいうのはやっぱり映画しかできないもの」
春岡「街から街をワンカットで移動するところとかね。でも主人公は空気なんだよな。目的があって旅に出るわけだけど、行かなきゃ、行かなきゃっていう義務感だけで行ってて」
斉藤「で、結局は何も成し遂げられない(笑)」
春岡「その前までを全部ワンカットで観せられて、すげぇ大きい街の大地の中で、すげぇ孤独だという。でも『俺、ちょっとおもしれぇ』みたいな感じがある。行き着いた先で、男たちが街の商店のものを見たり買ったりしているところ。あの長さが堪らんよ」
斉藤「散髪屋とかさ、どう結びつくのか分からへんのよね。とりあえず『街でコンサートがおこなわれるみたい』みたいなことを言って、川を渡る。観客は見ているうちに頭の中で地図を書くんだけど、段々迷宮に入っていく。横道に入ったりするから良く分からなくなったり、バイクと歩く人が併走したりして。いや、堪らんよね」
春岡「小さい街なんだけど、どこをどう切っても中国なんだよ。『中国にこういうところあるんだろうなぁ』って言うところの話。相米慎二、清順さんを思い出す」
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