少女が犯した罪を描く「映画の根本の部分は、障害と正常」

2020.12.2 20:46

かわいがっていた妹の死をどう受け止めるのか。知恵を演じる竹中涼乃(C)2019 Yosuke Takeuchi

(写真7枚)

「あの2人が唯一、心が通じ合っているというのは間違いない」

──ちょうど、あれくらいが非常にベストな状態ですね。光雄のキャラクターに合ってる感じ。しかも画面が美しい。

ラストだけ35mmフィルムなんです。あとはデジタルですので、カラーグレーディングでなるべく合わせて。岸さんも35mm初めてだから緊張してました。

──それは贅沢な。でもその効果は発揮されてますよね。監督は撮影前にコンテは描かれるんですか?

いや、描かないんです。もともとばっちり決めるタイプだったんですけど、その通り撮って編集したら全然面白くなくて。それでやめたんです。それからは演技を見て、ある程度許容を作ってカットを変えるようにしたんです。

──それでも比較的、構造がカッチリしてますよね。

もしかしたら無意識に。いろいろ映画が好きで、そういうオマージュ的なカットもちょこちょこ入ってたりしています。

──例えばどなたの?

『散りゆく花』とか。

──グリフィス(1919年のサイレント映画)ですか。えらい昔な(笑)。

あの映画の切り返し、三者の視点の部分をやってみたいなと。絶対だれにも気づかれないと思いますが(笑)。アンゲロプロスやフリッツ・ラングをちょっと真似してみたりとか。ブレッソンもすごく好きです。

──ああ、なるほど。『少女ムシェット』(1967年・日本公開は1974年)とか(笑)。

そう、『ラルジャン』(1983年)とか。なるべく分からないようにしてたんですけど、海外に行ったときに1人だけ指摘してきた人がいて、ちょっとうれしかったです(笑)。

──あはは。でもたまに技術的にびっくりするようなところもあって。事件が起こる前の、不安じみた空気が募っていくところのスクーターの走りとか。

それはうれしいですね。あれはトラックの荷台にスクーター乗せて撮りました(笑)。

──やっぱり(笑)。でもそういうショットがサスペンスを盛り立てるんですよ。そもそもダレたカット無しにきっちり120分、緊張を持続しながら見せてしまう。そして最後に至って浮かびあがるのは、知恵ちゃんと光雄さんというアウトサイダー同士の連帯なんですよね。

あの2人が唯一、心が通じ合っているというのは間違いないと思うので。それはこの映画のメインの線ですね。彼女は学校でも友だちがいなくて唯一心を許してるのが光雄という存在で。あの事故のあと光雄は、知恵の心の救済のみを思う。。

彼女が今後どうやって生きていけばいいか、それだけしか考えられなくなっている。その2人の感情の線が、最後まで流れていっているのかなというのはありますね。光雄と知恵は、世界を見てる目線が近いのかもしれない。

叔父の後をたどっていく姪の知恵。2人だけが理解し合える時間が流れる。(C)2019 Yosuke Takeuchi

──それが美しいんですよね、この作品。この後の映画は考えておられますか?

いろいろ考えてますね。例えば、知恵の大きくなったときの話とか考えてます。

──ホントに?それは面白そう。

彼女がこの後、どうなるのかなってホントに思いますよね。普通に恋愛してるのかな、とか。

──でも知恵ちゃんって、決定的な人生のトラウマを抱えて生きていくわけじゃないですか。いくらラストで向日葵咲いてたってそれで癒やされるわけではなく。

あれでは救われてないですもんね。もうちょっとちゃんと彼女を見てあげないと、って思いますよね。

──だって一生、彼女の脳裏にはおじちゃんが居るだろうし。

というか実際に居たんですよ。岸さんは演技して、そのままの衣裳で撮影して。だから、常に光雄が知恵を見守り続けているという感じだったんです。撮るときも光雄の目線で、本当に知恵を見つめ続けていたという(笑)。

──あはは! それはすごく面白い。もし続編やるとすると、やっぱ涼乃ちゃんで? 彼女、美少女ですしね。

いや、彼女はいま役者の仕事をお休み中みたいで。二十歳超えたら自分の意志で決めるんじゃないでしょうか。素晴らしいものを持っているので役者を続けてほしいですね。

『種をまく人』

監督・脚本:竹内洋介
撮影監督:岸建太朗
出演:岸建太朗、竹中涼乃、足立智充、中島亜梨沙、ほか
配給:ヴィンセントフィルム

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