はるな愛、初の映画監督作を通して「辛くても生き抜いて」

2020.11.29 17:15

「吉野ママの話を伝えたい」と初めて映画監督に挑戦したはるな愛

(写真10枚)

2008年頃から松浦亜弥のモノマネでブレークし、テレビ番組などに引っ張りだことなったタレント・はるな愛が映画監督デビューを『mama』で飾った。

初監督作は、「伝説のゲイボーイ」として有名な89歳・吉野ママと、彼女に会いに来る店の客たちのやり取りをドキュメンタリー感覚で描いた物語だ。はるな監督自身、トランスジェンダーであることは知られているが、吉野ママを題材とした映画の制作を通して、改めて何を感じたのか。はるな監督がこれまでの自分の生き方、考え方を振りかえり、現在の世の中を重ねて思わず涙を流すほど、胸中を明かしてくれた。

取材・文/田辺ユウキ 写真/バンリ

「私は何者でもないし、何者か分からない」

──はるなさんは名古屋の映画番組にレギュラー出演されていて、今回はついに監督としてデビュー。もともと映画への思い入れは強かったのでしょうか。

私は男として生まれて育ち、でも女として生きていきたかったから、子どもの頃「自分は何者なんだろう」と悩んでいました。図書館で『人魚姫』をよく読んでいて、「人魚姫は魚から人間になってから死ぬけど、私は男から女に変わって幸せな人間になれるんだろうか」と思いを重ねていたんです。

そんなとき、映画でいろんな世界を知ることができました。登場人物を観て「こんな人生いいな。でも私は男だし」とあきらめることもあれば、「海外にはこんな場所があるんだ」と発見できることもあった。映画で学ぶことがたくさんありました。

──今回の映画では、30分の本編だけではなく、44分のメイキング映像も同時公開されますが、本編の方にははるなさんは一切登場しません。監督をつとめるうえでご自身の名前やタレント性をどのように考えていましたか。

実は本名の大西賢示で監督名をクレジットしようとしていたんです。私の名前を一番前に出したくなかった。主人公の吉野ママは差別をすごく受けてきて、LGBTQや性同一性障害なんて言葉が知られていなかった戦前は米軍さんたちのお相手をし、そういうものを経てお店を開き、いろんなお客さんと出会い、会話で関係性を築いていった。

吉野ママの話術をストレートに聞いて欲しかったから、自分は裏方に徹しようと考えたんです。はるな愛という名前を一切出さない方が良いんじゃないかって。ただ、メイキングにも映っていますが、撮影の際に飛び込みで交渉する必要があるときなど、自分が前に出ることによって出来ることもあります。今は「少しでも多くの人に映画のことを知ってもらえるなら」という気持ちです。

吉野ママからは明言が次々と自然に飛び出す。(C)シネマスコーレ

──はるなさんのプロフィールにはいろんな肩書きが並んでいますが、「映画監督」という肩書きも新たに増えましたね。

でも私は、自分の肩書きをエンタテイナーだと思っています。テレビで歌って、踊って、あと飲食店の経営もやっていて、すべてひっくるめて。

うちは小さいときからお好み焼き屋を経営して、あとスナックもやっていた。私自身も水商売を経験しているし、ずっとお客さまのお相手をしてきました。そういう意味でも、エンタテイナーという肩書きがしっくりきます。

──今は肩書きが多いという意味で、何者なのか掴みどころがない一方、何者にもなれる。あと、はるなさんはモノマネ芸も、別の誰かになりきるもの。映画に登場する人物もみんな「自分は何者であるか」と話をしていますが、だからこそ、肩書きをたくさん作り、だれかのモノマネをすることで、本当の自分自身と向き合えるのかなって。

いまだに私は何者でもないと思っているし、何者か分からないんです。男でも女でもある。それは受け取ってくれる人が心地よい解釈をしてくれたら良い。ただ、社会とちゃんと交わっていたい、だれかに必要とされたい。

吉野ママは、映画のなかで「自分は何者か分からない」と言っています。もうすぐ90歳になるママでもそれは分からないんだって知ったとき、気持ちが楽になりました。「あ、それで良いんだ」って。

12月6日に先行上映される「シネ・ヌーヴォ」にて取材

──例えばニューハーフショーはモノマネ芸が多いですよね。それこそ憧れの誰かになりきることで、気持ちがちょっと楽になるのかなって。

それはあるかもしれません。みんな、なりたい女性像があってメイクや服装を真似たりする。私の場合、松浦亜弥さんのモノマネをして芸能界で一発狙おうとかは考えていなかった。

三軒茶屋の7人入ったらいっぱいになるバーで芸を見せてきて、でも慢性ポリープで声が出なくなり、「これから生活費をどうしよう」と不安になっていた矢先、たまたま流れていたコンサート映像に合わせて口パクをしたらお客さんが笑ってくれたんです。

──そして今に至るという。

生きるため、食べていくために何かやらないといけなかった。そんな私の芸を見て、「おもしろい」と引き上げてくれた人たちも、何者にも属さない方たちだった。そうやって人生の歯車って回り出す。

頑なに「こうやって生きていかないとダメ」とかじゃなく、いろいろ試さないときっと後悔する。今は新型コロナできつい時期だけど、自分の可能性について多様に考えることが苦しさを乗り切るヒントになるかもしれません。

『mama』

監督:はるな愛
出演者:吉野ママ、たけうち亜美、ゆしん、田中俊介ほか

ドキュメンタリー
監督:木全純治
出演者:吉野ママ、たけうち亜美、ゆしん、田中俊介、はるな愛ほか

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