黒木瞳が監督、伊藤健太郎主演作「若い人にいつでもバトンを」

監督としては4年ぶりの新作を手掛けた黒木瞳
女優・黒木瞳が、2016年公開『嫌な女』に続いて手掛けた監督作『十二単衣を着た悪魔』。内館牧子原作を映画化した同作は、就職試験も連敗中で、優秀な弟に対する劣等感が拭えない伊藤健太郎演じる青年・伊藤雷(らい)が、ひょんなことから1000年以上前の平安時代にタイムスリップする物語。
紫式部によって書かれた『源氏物語』の世界へ紛れ込んだ雷は、野心に燃える三吉彩花演じる弘徽殿女御(こきでんのにょうご)と出会い、彼女に仕えることに・・・。その言葉と生き様に成長を遂げていく。11月6日公開となった同作について、黒木瞳監督に話を訊いた(取材は10月28日に実施)。
取材・文/田辺ユウキ 写真/南平泰秀
「演じる役の印象が私に対する先入観になりやすい」
──前監督作『嫌な女』では友だちづきあいがうまくない真面目な弁護士と社交的な詐欺師という従姉妹、そして今回は何をやっても躓く兄と優秀な弟の物語。対照的な肉親というのは、黒木監督が興味を覚える題材なのでしょうか。
そこまで意識はしていなくて、偶然なんです。『嫌な女』では、人生はそんなに悪いものではないというエールを映し出したかった。そこで、心にわだかまりを持って殻に閉じこもる徹子を主人公に、自分とはまったく違う夏子の存在によって心の扉を開けるところを追いました。
今作は、主人公・雷と弟・水が源氏物語の一宮(朱雀帝)、二宮(光源氏)の関係性と重なっていくところがおもしろく、伊藤雷が源氏物語という異文化を経験することで一歩進んでいく。『嫌な女』、『十二単衣を着た悪魔』はともに人が成長する姿を描きました。
──本来の源氏物語では弘徽殿女御はヒール的なポジションですよね。
この映画を作るにあたって『源氏物語』の勉強会を演出部とおこないましたが、弘徽殿女御の素顔について詳しく書かれているものはほとんどないんです。桐壺帝の第一夫人でもあるにも関わらず、悪者として書かれている。
原作者の内館牧子さんは高校時代、そこに興味を持ったそうで、本当はすごく潔くて叡智に長け、心の強い人ではないかと想像したそうなんです。普通、その年頃って『源氏物語』を読んだら「光源氏って格好良さそうだな」と思ったりするだけなのに。

──確かにそうですよね。
高校生のときの内館さんの熱量と思い入れが膨らんで小説ができあがった。源氏物語を研究していらっしゃる東北大学名誉教授・仁平道明さんも「こういう解釈もおもしろい」とご感想を持たれたんです。『源氏物語』はどんな角度からでも読み解ける。特に内館さんの原作は「そういう見方もあるのか」と驚かされました。
──弘徽殿女御は、表向きはヒールとして通っている。でも雷は、彼女と接するうちに実はそうではないと気づいていく。もともと、内館牧子さんは原作小説を書きあげる際、映画『プラダを着た悪魔』(2006年)をヒントにもしたそうですし。「他人が持っている表のイメージと裏側の本当の自分の違い」はだれにでも思い当たる話ですよね。
例えば私の場合は普段、さまざまな役を演じています。キャリアウーマン、お母さん、コメディアン、怖くてクールな女性など、演じる役の印象が私に対する先入観になりやすい。女優とはそういう仕事ですよね。
自分にとって興味深いのは、みなさんがどの作品のどういう役の印象で私を捉えているのかということ。役のいろんな顔が、私の印象を形作っている。それは女優冥利に尽きます。
弘徽殿女御も確かに表向きはとても強い女性ですが、内に秘めた心の葛藤、母としての切なさなど、いろいろな面があるのを表現しています。
『十二単衣を着た悪魔』
2020年11月6日(金)公開
監督:黒木瞳
出演:伊藤健太郎、三吉彩花、ほか
原作:内館牧子『十二単衣を着た悪魔 源氏物語異聞』(幻冬舎文庫)
制作・配給:キノフィルムズ
(C)2019「十二単衣を着た悪魔」フィルムパートナー
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