『のぼる小寺さん』、古厩監督「女の子は道を見つけ、男の子は恋愛に」

2020.7.2 21:15

ボルダリングで、ひたすら上を目指す小寺さん。今回のために工藤遥は練習を重ねて、自分で登れるように。©2020「のぼる小寺さん」製作委員会  ©珈琲/講談社

(写真10枚)

「女の子たちは道を見つけ、男の子たちはただ恋愛にうつつを抜かす」

──そんな古厩流青春映画の本質を表しているのが、ボルダリング大会ですね。小寺さんの頑張りを観戦している4人が「分からないけどなんか泣けてくるじゃない」って言うくだり。あれが小寺さんの引力に引っ張られてる彼らの心情を端的に示している。とりわけ近藤にとっては、一介の傍観者に過ぎなかった彼が恋情も含めて小寺さんに「自分のことを見てくれ」と告白するまでの物語、という風にも捉えることができると思うんです。

はい。その通りです。だいたい青春漫画では「俺がお前を甲子園に連れて行ってやるから、お前は俺について来いよ」ってふうに、男が何かを成し遂げて女の子がそれについて行くんですけど、今回は全部逆でいいや、と。女の子たちはぐんぐん道を見つけていく、男の子たちはただ恋愛にうつつを抜かすんですよ。

なんか今っぽいし、それでいいんじゃないの? と思って。だから近藤と四条(鈴木仁)は、はじめから恋愛の話しかしないんです、『タッチ』とかと逆で。今おっしゃっていただいたのはすごく嬉しくて、近藤は小寺を見ている存在でしかないので、そこにキャッチボールは成り立ってないんですよね。

で、「キャッチボールしたいな、小寺さんボール投げてよ」と初めて近藤が言うところで、そのあとの小寺さんがわ~っと揺れた顔をするんですけど、あれが撮りたくてこの映画を撮ったようなものなんですよね。それは上手くいったかなぁと思っています。

工藤遥演じる小寺さん、と伊藤健太郎演じる近藤。©2020「のぼる小寺さん」製作委員会  ©珈琲/講談社

──なるほど。でも監督って、登場人物のあるシーンの顔が撮りたい、とかというのがどの映画でもあるタイプじゃないですか?

う~ん、そうかもしれないですね。出演者が自分で作る場合もあるんです。『奈緒子』には、上野樹里さんが三浦春馬さんに水を渡そうとしたら春馬さんが水を落とすところを、ハイスピードカメラで撮るというシーンがあるんです。口では説明してなかったのですが、樹里さんは明らかに「ここは私の決めどころだな」と分かっていた。そこをガッと決めてくるっていう、そういう風に出演者が作る場合もあるんです。樹里さんは天才だからな、ちょっと。

──同じく今回の工藤さんにもやはり天性の才能を感じてしまいます。それとはちょっと別なんですけど、ボルダリングシーンのすごさですね。明らかに本人であると分かるように撮られている。あれはだいぶ練習なさったんですか?

結構しましたね。僕もある程度やれるようにならないと、と思って彼女と同じ日に練習を初めて。でも僕は、「無理だわ、出来ない」って4日で離脱しました。それに俺の仕事はこれじゃないなって(笑)。でも彼女はずっとやり続けて、たぶん県大会とかに出たらある程度狙えるくらいの感じにまでなっていましたね。あのスイスイ登るのが、八割吹き替えです、ってことになったらちょっと困っていたでしょうね。

──終始のぼっている顔がバッチリ写っているんですが、吹き替えシーンってあるんですか?

1カットだけ使ってるんですよ。あとは全部彼女ですね。

『のぼる小寺さん』

2020年7月3日(金)公開
監督:古厩智之
脚本:吉田玲子
原作:珈琲『のぼる小寺さん』(講談社アフタヌーンKC刊)
出演:工藤遥、伊藤健太郎、鈴木仁、吉川愛、小野花梨、ほか
配給:ビターズ・エンド

関西の上映映画館:梅田ブルク7/なんばパークスシネマ/T・ジョイ京都/シネ・リーブル神戸、ほか

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