行定監督「山﨑賢人のキャリアからは想像できない役柄」

2020.6.28 17:15

「映画監督がオリジナルでこういった作品をやろうと思ったら、制作費の0が1個減ってしまって、インディペンデントになってしまう可能性がある」と語った行定監督

(写真5枚)

演劇に打ち込む青年が東京の街角で女性と出会い恋に落ちる・・・。芥川賞作家・又吉直樹の初の恋愛小説が映画化された『劇場』。監督は『GO』(01年)『世界の中心で、愛をさけぶ』(04年)『春の雪』(05年)など、数々の恋愛映画を手掛けてきた名匠・行定勲。

主演に山﨑賢人、松岡茉優の、人気・実力とも最高の二人を得て新たな名作が誕生した。来阪した行定監督に話を訊いた。映画の意図をより深く紹介するネタバレバージョンは、7月17日公開・配信日以降に紹介する(7月26日掲載予定)。

取材・文/春岡勇二 写真/南平泰秀

「恋愛を成就するには、途中で諦めなければならないものがある」

──原作のどこに惹かれたのか、教えてください。

読んでいて、身につまされるものがあったんです。「幸せ」ってよく言うじゃないですか。これまでラブ・ストーリーは何度も描いてますが、映画では興行のこともあって主役を美男・美女にすることが多いですよね。

それで作品の印象も美しいものになってしまう。ただ、ラブ・ストーリーにおける「幸せ」って考えたときに、作品のなかに醜さがどう介在しているのかというのが重要だと思うんです。とすれば、もともと題材がロマンス重視よりも、この作品のようにダメな人間が魅力的に書かれているものの方がいいんです。

──確かに美しいばかりのラブ・ストーリーよりも、どこかに人間の醜さが織り込まれている方がより「幸せ」に敏感になるし、作品としても深まる気はします。

成瀬巳喜男監督の作品が好きなのですが、『浮雲』(1955年)なんて森雅之と高峰秀子という絵に描いたような美男・美女が主演にもかかわらず、人間の醜さや弱さがてんこ盛りで、だからこそあの深さを獲得していると思うんです。

でも、いつのまにかああいう深さのある映画は避けられるようになり、ものわかりのいい作品ばかりが求められるようになってしまった。そういう風潮に挑みたいという気持ちはありました。

左から山崎賢人、松岡茉優 ©2020「劇場」製作委員会
主人公の永田演じる山﨑賢人と、沙希演じる松岡茉優。©2020「劇場」製作委員会

──その思いのなかで、この原作がぴったりだったと。

そうです。あと、主人公二人の恋に、いわゆる障害というものがないことにも惹かれました。不倫関係でもなければ、どちらかが病に侵されているわけでもない。

この二人の恋は、男があることから降りてしまえばいいのに降りなくて、逆に女の方が降りてしまった、それだけのことなんです。大きな障害はないのにうまくいかない。でも考えたら、これってよくあることですよね。だから普遍的でもあり、こういう物語が撮りたかったんです。

──さまざまな障害がある方がドラマとして盛り上げやすかったり、その恋の本質を描きやすいのに、ですね?

そうなんです(笑)。わかりやすさを求めて人間の弱さや醜さを描くのを避け、さらにわかりやすい障害を設定する、そんな作品とは真逆のものがつくりたかったんです。

たいした障害もないのにうまくいかない恋愛。これは描くのが難しい。ただ、形はあります。男があることから降りずに女が降りたという。男が降りないのは、追い求める理想へのあがきだと思います。

恋愛を成就するには、途中で諦めなければならないものがある。では、なにを求め、なにを切り捨てるべきなのか、その取捨選択が迫られる。これは僕自身も身につまされることだったし、多くの人がそうでしょう。その選択を考えるきっかけになればいいなと思っています。

『劇場』

2020年7月17日(金)公開・配信
監督:行定勲
原作:又吉直樹「劇場」(新潮文庫)
脚本:蓬莱竜太
出演:山﨑賢人、松岡茉優ほか
音楽:曽我部恵一

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