称賛の一方で脱落者もいたスカーレット、評論家はどう観たか

2020.4.13 21:00

第150回より、いつものように穴窯と向き合う川原喜美子(戸田恵梨香)

(写真20枚)

数々の映画メディアで活躍し、本サイトLmaga.jpの映画ブレーンでもある評論家・ミルクマン斉藤。映画の枠に収まらず多方面に広く精通する彼が観た連続テレビ小説『スカーレット』への印象を10回にわたり連載してきたが、その集大成としてドラマ全体を振りかえって思うところを訊いた。

第25週「炎は消えない」

『スカーレット』放送終了からもうずいぶん経ってしまったので、この最終週レビューは知らん顔してパスしようとも思ったのだが、このまま次作の『エール』に移るにはなんともわだかまりが抑えきれず、とりあえず書いておく。

このドラマに少なからず感銘を受けたり、主人公・戸田恵梨香の「繊細な演技」を素晴らしいと評する視聴者が思いのほか多いのは、この連載の反応を見ても判る。どれだけ女性の自立を押し出した作品といえど、夫唱婦随の枠からなかなか逃れ得ない朝ドラパターンにイライラするフェミニズム至高論者ならもっともな感想とも納得できはする。

喜美子(戸田恵梨香)に強く抱きしめられる武志(伊藤健太郎)。2人は幸せを胸に刻むのだった
第150回より、喜美子(戸田恵梨香)に強く抱きしめられる武志(伊藤健太郎)。2人は幸せを胸に刻むのだった

そのいっぽう、毎日観るに耐えられないのですでに脱落したという人や、観ちゃいるけれど僕の指摘にまったく同感と言う人も少なからずいたわけで。ちなみに僕がドラマを蔑視しているという意見もいただきましたが、チャンチャラおかしい。そんなつもりなど毛頭なく、単に映画やドラマや演劇を同一線上というか、同列に見ているだけである。

とにかく筆者はこの半年間、このドラマにただの一度も心底笑ったり、ましてや泣いたりすることがなかったので、そもそも本作とのクリエイターとは指向性が合わなかったと言わざるを得ない。近年の朝ドラでは駄作の烙印を押すしかない『まれ』までとはいかないものの、その次くらいに驚くほど何も感じなかったんだから。

縁側であることを喜美子(戸田恵梨香)に話す八郎(松下洸平)
第150回より、縁側であることを喜美子(戸田恵梨香)に話す八郎(松下洸平)

僕がそうした嫌悪感に近いものを感じるのは、とりわけ「大阪篇」以後の展開。戸田恵梨香や松下洸平に代表される「いわゆる自然な演技」と、北村一輝や林遣都やマギーや財前直見らに代表される「カリカチュアされた演技」が同居する気持ち悪さ。婚姻関係破綻以後の嘘くさい家族関係。「TODAY is ジョージ富士川」に武志が付記した、なんだか相田みつをフォロワーのような回答・・・。

ちなみに 「いわゆる自然な演技」と「自然な演技」は似て非なるものですからね。僕には、富田靖子や福田麻由子や水野美紀あるいは村上ショージらのほうが、「いわゆる」抜きの自然な演技に思えて好もしい。

完成した大皿に耳を傾ける喜美子(戸田恵梨香)と武志(伊藤健太郎)
第146回より、完成した大皿に耳を傾ける喜美子(戸田恵梨香)と武志(伊藤健太郎) (C)NHK

ドラマ全体を眺め返すと、かなりギクシャクした展開だったので十全に打ち出せていたとは思えないのだが、亡きお父ちゃんに贈った皿が最後までアトリエの中心に在ったように、川原家にずっとデンと居座っている家族主義と、やがてその娘たちが自分の思う信念に沿って生きようとする個人主義との相克というものがあったように感じる。

しかしそれは、すでに『カーネーション』でずっと華麗に実を結んでいたのではないだろうか(脚本の構成力以前に、要は華だキャスティングだ、と言ってしまえば身も蓋もないのだが)。

ただこの最終週は、前に何度も書いたように「物語る配分が間違っているのではないか?」という思いは断ち切れないものの、伊藤健太郎と松田るか、稲垣吾郎の好演によって感動ポルノを逃れた、むしろ清澄ともいえるものになっていた。

病状の進行によって卵焼きの味がわからなくなった武志と喜美子との会話。それでも新作に邁進する武志の作った皿からかすかな音が鳴り、「作品は生き物や」と寿命が迫りながらも悟るくだり。そして真奈との、ありきたりではあるが微笑ましいエピソード。正直、最終週はかなり充実していたのではないか。

「自分にとって財産となる時間を過ごすことができました。笑顔で支えてくれたスタッフのみなさんに感謝です」と戸田恵梨香(2月29日/提供:NHK大阪)
クランクアップで「自分にとって財産となる時間を過ごすことができました。笑顔で支えてくれたスタッフのみなさんに感謝です」と戸田恵梨香(2月29日/提供:NHK大阪)

これがBK(NHK大阪放送局制作)、AK(NHK東京放送局制作)併せ、朝ドラの系列では確かに異色作であったことは認める。しかしその「異色さ」がほとんど心に響かなかったのが、ほかの異端作である『カーネーション』『あまちゃん』『半分、青い(行き当たりばったりに見える展開と主人公の成長のなさは一方の真実だ)』などとは画然たるところなのだな。

文/ミルクマン斉藤


なお、5月に『スカーレット』の総集編が放送。NHK総合で5日・昼3時5分から前・後編を続けて、BSプレミアムでは7日に前編、8日に後編がどちらも朝9時から放送される。

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