「消えゆく灯りを守る」大阪・八尾を灯す、日本唯一の女性ランプ職人

数々の苦難を乗り越えて、いち職人へと成長
若手職人としてスタートした由加さんだが、仕事を覚えるにつれ想像を絶する苦難が続いた。ランプ自体、数百個の金型やプレス機を使って、すべて手作業でパーツを作り上げ、それを組み立てて完成させる。その機械の不具合が相次いだのだ。
「機械は新しく買い替えるのでなく、苦労しても先代から受け継がれた機械を継承するのが私にとって大切なこと。でも、うちの機械は『人』で『機嫌』がある。動かなかったり、誤作動したり。毎日、データを細かく取って格闘して数年、やっと仲良くなれました」(由加さん)

そして、由加さんは2013年に、代表取締役に就任。2016年には自社ブランド「FLAME SENSE」を立ち上げ、ランプ製作、販売促進と忙しい日々を送る。そんななか、由加さんが「工場長」と呼んで慕っていた職人の杉中さんが亡くなった。
「死ぬ直前まで、ホントに根気よく技術を教えてくれた。今思うと、大学を中退しないと間に合わなかった。パーツのひとつひとつにすごく苦労したことを思い出します。ハリケーンランプの作成はとても手間のかかる仕事だけど、プライドを持っている。だから、できあがったときは本当に報われるし、美しいと思う」(由加さん)
いち職人に育った由加さんにとって、ハリケーンランプ完成の瞬間はいつでも、先代が守り続けてきたあらゆるものの継承を実感できるときだと言う。
舞い込んだアラジンランプの制作依頼
そんな由加さんのもとに舞い込んできたのが、現在公開中の実写映画『アラジン』をモチーフにした、オリジナルランプの制作依頼。映画のプロモーションの一環として使用されるという。
映画館で展示されるこのアラジンランプ。由加さんはデザインから型起こし、塗装まで、そのすべてのプロデュースを手掛ける。1枚の銅板からランプの原型となる形に起こすのは熟年の職人である倉田さん。そして、ランプの塗装は大正5年創業の「吉田着色」が担当する。

ランプの塗装をおこなうのは、同社代表の吉田忠司さん。真鍮の粉末にレジンを混ぜたものを吹き付けて乾かし、磨いていくという作業。手際が良く、無駄な動きのない職人の仕事を、由加さんはただひたすら見守りつづける。
偶然で必然だった、若き職人2人の出会い
今年5月に30歳になったばかりの由加さんと、30代半ばにして国内外からオファーが絶えない塗装職人の吉田さん。この若き2人の職人の出会いも、またユニークだ。
「仕上がりを見たら、もうほかのものとは全然違う。数年前、とにかく技術第一で吉田さんに初めてお願いした。受けてもらえるかドキドキしていて、承諾いただけたときはホントにうれしかった。イメージを形にしてくれる技術と提案力には、毎回頭が下がります」と由加さん。

そして吉田さんは、「実は以前、テレビで別所さんを見たことがあって。むちゃくちゃかっこよくて、いつか一緒に仕事をしたい! と思っていた。そんな矢先、本人からの塗装依頼があって。夢にも思わない幸運だった。彼女も真の職人、決して妥協をしないタイプ。だから、僕も別所さんと一緒に最高のものをつくりたいと突き動かされる」と話す。
ただ前を見てまっすぐ、由加さんは「どうせ作るなら、最高のものをつくったろ!」と言った曽祖父・留吉さんの職人気質もしっかり受け継いでいるようだ。
「別所ランプ」の輝きを取り戻したい
3月末から製作が開始されたアラジンランプが完成。いかにもジーニーが入っているような膨らみのある胴体にランプの口先は青いグラデーションがかかっている。このアラジンランプは映画館「大阪ステーションシティシネマ」で6月10日まで展示されており、13日からは「MOVIX八尾」に移されるという。

「宝のなかから発見された古いランプが、こすられることで生気を取り戻し蘇る。ジーニーが今にも出てくるような様子を表現すれば、物語の始まりをこのランプひとつで想像できると思い、このデザインに決めた」と由加さん。依頼者も「感無量でとても満足です。別所さんに依頼して本当に良かったです」と感謝、由加さんの顔に安堵の表情が浮かんだ。

「やっぱりランプの光って、あたたかくて大好き。機械とも仲良くなって、やっとスタート地点に立てた。多くの人にこのあたたかな灯を届けられるよう、厚かましい夢だけど、一時は世界シェアにあった別所ランプの輝きを取り戻したい。海外の人たちにも愛されるランプとして会社を大きくし、WINGED WHEELを継承していってくれる人を育てたい」と将来の夢を語った。
取材・写真/岡田由佳子
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