恒例の評論家鼎談、洋画・勝手にベスト3

2019.3.9 19:00

Netflixオリジナル映画『ROMA/ローマ』

(写真3枚)

「 僕的には、理想のホラーのひとつかもしれへん」(斉藤)

田辺「『ヘレディタリー/継承』もだいぶ頭おかしいですよね(笑)。極めて理知的でありながら!」

斉藤「いやぁ、冒頭からスゴい。ホラーというかオカルトだけど、作りはもう完全にアート・フィルム。冒頭のシーンを観たあと、反芻すると余計にそう感じられる」

春岡「あれ、ロマン・ポランスキー監督の『ローズマリーの赤ちゃん』(1969年)みたいだったよな。まあ、オカルトだよな。怖くはない」

田辺「最後の母親がキレるところですよね(笑)」

映画『ヘレディタリー/継承』 © 2018 Hereditary Film Productions, LLC

斉藤「いや、あれは最強に怖い映画ですよ! 僕的には、理想のホラーのひとつかもしれへん。前半の幽霊の出し方とかも、部屋の隅も暗い所に、ほんのちょっと暗さが違うだけのトーンでボーッと立ってる姿が見える、っていう。それで僕はデボラ・カー主演の『回転』(1961年)の『立ってるだけ幽霊』を思い出すのよ」

田辺「立ってるシーンは怖かったですね、確かに」

斉藤「それに音響設計がスゴいでしょ。基本的に、前衛サックス奏者コリン・ステットソンの変性された音が低いところでずーーーーっと不穏に鳴ってたり。となると、その音がどこで途切れるか、どこでまた鳴りだすかが気になる」

田辺「そこに舌を鳴らす音とかが入ってきたりしてね」

斉藤「うんうん! あの舌打ちが気味悪いよね、意味なく。とにかく終始カッコいい映画ってのが僕的には大きいなあ」

田辺「なるほど。ただ、劇場で観たとき、お客さんは意気込んで『怖い映画を観よう!』って来てたから」

斉藤「ああ、『私の思ってた怖さと違う!』ってことやろ? よく長いと言われるけど、全然そんなことない。あんなに終始緊張して観た映画は、今年は『ファントム・スレッド』くらいかな。音もそうだし、画面設計も寒色と暖色の落差にまでいろいろ意味を探ってしまう。すべてが作り込まれてるっていう意味では、その2本がダントツ」

春岡「『ヘレディタリー/継承』はそうだわ。最初から最後まで考えて作らないと、ラストはあそこまでいかないわ」

田辺「あのミニチュア出てきたあたり、ミルクマンさん好きそうですね、確かに(笑)」

春岡「あのオープニングはスタンリー・キューブリック監督の『シャイニング』だよな」

斉藤「主演のトニ・コレットが、ジャック・ニコルソンにしか見えへんっていう(笑)。完全に影響下にあるのは間違いないけど」

田辺「暗いシーンでも鮮明に見える映像がスゴいですよね」

斉藤「そう、パヴェウ・ポゴジェルスキって、いかにもポーランド系のよく分からない撮影監督の映像がスゴいねん」

田辺「あの色度というか彩度というか。だからこそ怖いという」

斉藤「あれ、長編処女作やで。このあとどうするんや(笑)」

春岡「マニアなんだよ、だから」

斉藤「でも、ホラーのマニアじゃないような気がするねんなぁ」

春岡「いや、『シャイニング』のマニアなんだよ」

斉藤「それはあるかも。スタンリー・キューブリックは間違いなく好きやと思う。ただ、下半期で光ったのは『ヘレディタリー/継承』だけ、かな。もちろん、それだけじゃないねんけど。年間ベスト10に挙がるのは、上半期公開の作品が多くて」

春岡「そうなんだよ。俺はテイラー・シェリダン監督の『ウインド・リバー』が好きだったなぁ。でも、それくらいだったかなぁ」

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