尼崎の元公民館で、新鋭作家がグループ展

2018.6.15 06:00

三枝愛《庭のほつれ》(部分) おがくず、原木、木片、椎茸用封蝋、瓶、紙座布団、作文用紙に鉛筆、麻紙にコロタイプ印刷・彩色、アクリル板 サイズ可変 2015-2018年

(写真4枚)

今春に大学卒業または大学院を修了した新鋭作家6名のグループ展が「あまらぶアートラボ A-Lab」(兵庫県尼崎市)で7月8日までおこなわれています。また、今年度より尼崎市とドイツのアウクスブルク市の姉妹都市間で開始した若手アーティスト相互派遣事業で、アウクスブルク市より推薦を受けた作家も参加しています。

出品作家・三枝愛の生家は椎茸農家を営んでおり、栽培に欠かせない原木を福島県から調達していましたが、東日本大震災に伴う原発事故の影響で深刻な原木不足に陥りました。彼女はなくしかけた環境やその景色を維持するために、おがくずや原木、蝋などを用いた作品を発表しています。一見すると寡黙な表現ですが、作文用紙に書かれたテキストを読むと、作家の体験がリアルに迫ってきます。

稲本紗希《いくつかを記憶し/いくつかを忘れる》毛糸 サイズ可変 2017-2018年

稲本紗希は、大量の毛糸と編み物、そして短いメモ書きを廊下の壁面いっぱいに展開しています。彼女は記憶をテーマにしており、目の前を過ぎていく時間と共に消えていく些細な記憶をとどめる手段として編み物を用いています。毛糸を編んだ一目ごとに、自分の記憶が込められているのです。

ザラ・ヘントリジアク《コミュニケーション》21点 インクジェットプリント 2011-2015年

尼崎市の姉妹都市であるアウクスブルク市から来日したザラ・ヘントリジアクは、写真の連作を展示してます。被写体は人物で、こちらに視線を向けている人がいる一方、反対を向いている人もいます。彼女のテーマは「コミュニケーション」ですが、ひと口にコミュニケーションと言ってもさまざまな形があることが窺えます。また彼女はアートもコミュニケーションの一種と捉えており、本作を通じて、言葉が通じない異国で文化を分かち合えることを実証しています。

ほかの4名も独自の方法でメッセージを発しており、決して大規模ではないものの充実した展覧会に仕上がっています。また、会場の「あまらぶアートラボ A-Lab」は元公民館を転用したアートセンターで、美術館や画廊とは性質の異なる空間が特徴です。個々の作家はもちろん、空間にも注目すれば、ほかでは味わえないアート体験ができる でしょう。入場は無料。

取材・文・写真/小吹隆文(美術ライター)

『新鋭アーティスト発信プロジェクト A-Lab Artist Gate 2018』

期間:2018年5月26日(土)~7月8日(日)※火曜休 
時間:11:00~19:00(土日祝は10:00~18:00)
会場:あまらぶアートラボA-Lab(兵庫県尼崎市西長洲町2-33-1)
料金:入場無料
電話:06-6489-6385(尼崎市役所シティプロモーション事業担当)、06-7163-7108(イベント開催時のみ)

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