マサラ上映に見た、地方映画館の在り方

「インド映画は盛り上がってなんぼやから、ブームがきてうれしい」という衣裳もバッチリの女性グループ
コンテンツがどこにいても楽しめるようになった今こそ。
上映が始まるや、早くも各所でクラッカーが炸裂。昨今よく聞く絶叫OKの「応援上映」では鳴り物はマナー違反なので、そのスタイルはかつてカルトムービーとして一部のマニアに大受けした『ロッキー・ホラー・ショー』(日本公開1976年)に近いものがある。キャラクターが登場したときの発声は、まるで歌舞伎の掛け声のようで、BGMや効果音以上にシーンの盛り上げにひと役を買っている。そして、おびただしい数の紙吹雪。筆者は最後列から拝見していたが、通常、クライマックスで舞いがちな紙吹雪がオープニングからどんどん撒かれる様子は、否が応でもテンションを上げてくれる。初っ端からこれで、エンドロールまで気力・体力・紙吹雪がもつのか?と思ったが、終わってみれば心配ご無用。なにより、『バーフバリ』とマサラ上映の相性の良さにも驚かされた。

終演後、会場内の照明が点くと、通路の赤い絨毯がすべて覆い隠されるほどの紙吹雪の山が! すると、前説にも登場した民族衣装の男性が現れ、「それでは、みなさん。掃除しましょう!」とひと言。すると一斉に、自席を中心に、紙吹雪、クラッカーの残骸、そのほかのゴミを拾い始める観客たち(もちろん劇場スタッフも)。それぞれ感想を言い合ったり、初めましての挨拶をしたり、むしろそれすらお楽しみタイムとばかりにゴミ拾いをしている。そして、最後に全員そろっての記念撮影(帰り際にプレゼントされる)。その一連の光景は、映画館に映画を観に来る、のではまったくなく、映画館を楽しみに来る、というようなものだった。「僕らが目指すのは、お客さんに映画館に来てもらって、どれだけ楽しんでいただけるか、ただそれだけです。正直、人手が要るので赤字ですけどね(苦笑)。みなさんの協力があって実現できています」とは、同劇場の戸村さん。

日本映画のマーケットは、1958年をピークに映画館の入場者数は減少。これは家庭用テレビの普及によるものだが、シネコンの登場により一時的に回復。しかし再び、ビデオ・オン・デマンド(いわゆるVOD、AmazonビデオやHulu、Netflixなど)の世界的普及により、またもや窮地に追いやられようとしている。そりゃそうだ、VODなら映画1本分の料金で、映画やビデオが1カ月間見放題になるのだから(Amazonビデオにいたっては、年間3900円)。家庭での音響環境なども考えると、「映画館で映画を観る」こと自体、今後爆発的に増えることはないと思われる。そうなると、大手資本によるシネコンはもとより、地方の映画館は死活問題に直結する。
そんななか、脚光を浴びているのが、エンタテインメントにおける「体感性」だ。音楽業界では激減するCD販売をあざ笑うかのように、コンサートの来場者は右肩あがりで上昇。演劇界に目をやると、ステージが360度回転するアジア初の円形劇場「IHIステージアラウンド東京」が注目を集めている。また、映画では、劇場による4DXやVRの導入のほか、ライブビューイングや応援上映も年々増加の一途を辿っている。コンテンツがどこにいても楽しめるようになった今、そのとき、その場所でしか分かち合えない体験を人々は求めているのだろう。今回訪れた創業60年超の老舗映画館「塚口サンサン劇場」は、観客、近隣の飲食店、スタッフとともに、手作りながらもその「体感」を作り上げ、「マサラ上映」の聖地と呼ばれるまでになった。

単館系、ミニシアター、小劇場・・・さまざまな呼び名があるが、とりわけ地方の映画館のおかれている現状は厳しい。コンテンツ勝負では、当然ながらシネコンに大きく水をあけられる。しかし、この「塚口サンサン劇場」で見た光景は、ひとりではできない映画の楽しみ方であり、そこに行かなければ味わえない最上の「体感性」だった。旧作などの特集上映もひとつの魅力ではあるが、地方の映画館の目指すべき姿をこの日、ありありと見た気がした。
映画『バーフバリ 王の凱旋<完全版>』
2018年6月1日(金)公開
監督:S.S.ラージャマウリ
出演:プラバース、ラーナー・ダッグバーティ、アヌシュカ・シェッティ、ほか
配給:ツイン
© ARKA MEDIAWORKS PROPERTY, ALL RIGHTS RESERVED.
「塚口サンサン劇場」
兵庫県尼崎市南塚口町2-1-1-103
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