岸谷五朗、柚希礼音「ここはユートピア」

2018.4.9 13:00
(写真5枚)

岸谷五朗と寺脇康文による演劇ユニット・地球ゴージャスが新作『ZEROTOPIA』を上演。沈没した豪華客船から生き残った特別な過去を持つ数名の男女。たどり着いた無人島をゼロの起点として、彼らが向かう行方を、歌やダンス、アクション、コメディを含めてミステリアスに描くという。今回、西川貴教とともに主演をつとめるのは宝塚歌劇団を退団して以来、ミュージカル界で活躍する柚希礼音だ。作・演出を手掛ける岸谷と柚希に、作品や役者という仕事について話を訊いた。

取材・文/米満ゆうこ

「今、大きく背中を押してもらった気がします」(柚希礼音)

──箱を開けたら、役者の才能がポロポロと出てくる稽古場だそうですね。稽古場で、岸谷さんは役者に何を求められますか。

岸谷:演出家・脚本家として、地球ゴージャスの主宰者としてもすごく幸せなことは、集まってくれるキャストはいつもみんな、ものすごくいい人ばかりなんですよ。今回も柚希さんをはじめ、みんなピュアで、板(舞台)の上を心から愛していて、きちんと稽古場で恥をかいてくれる。必死になってやるから失敗して恥をかくわけで、その前で止めてしまったら俳優は伸びない。恥をかくと、恥の先には成長した姿がある。それを全員がやってくれることですね。

──柚希さんは、稽古場でいっぱい恥をかいていらっしゃいますか。

柚希:岸谷さんと寺脇さんが、恥をかける環境を作ってくださっているから、思い切りかいていますね(笑)。また、お2人がすごくピュアに作品を愛していて、「この作品は今、絶対いろんな人に伝えるべきだ」という強い思いが伝わってきます。お2人の出しているエネルギーがすごくて、みんな引き寄せられるんです。

──岸谷さんは俳優でもあるから、演出は実際に演じて見せてくれるそうですね。

柚希:それ以上です。思っていたことと全然違うように動かしてくれ、それがまた最高なんです。ご自身が役者だからなのか、演出家として見てのことなのか分かりませんが、すごい発想だなと思うことが多くて。私が舞台で役としてどう居るべきかも、想像していた以上にしっくりきていますね。

岸谷:そう言ってもらえるとうれしいですね。芝居はもちろん、稽古場の演出も含めて、エンタテインメント作りの1つと言えますよね。表現の仕方が多面的というのかな。たとえセリフが1つの場面であっても、言葉だけではなくそれ以外の部分でも見せる。そういう風に役者を動かしているかもしれませんね。

──岸谷さんにある程度イメージはあるけれど、役者さんにも委ねていく。

岸谷:もちろんそうです。もともとみんな、持っている才能はすごいですからね。

──稽古場での柚希さんを見て、岸谷さんはさらに当て書き(役者に合わせて脚本を書くこと)をされたそうですね。柚希さんは元宝塚歌劇団星組トップスターですし、岸谷さんにはどう映ったのでしょうか。

岸谷:僕はね、柚希さんが男役をやっていたというイメージはもはや全くないです。

柚希:(驚いて)ハーーーッ。

「もはや男役をやっていた印象がない」という岸谷の発言に驚く柚希
「もはや男役をやっていた印象がない」という岸谷の発言に驚く柚希

岸谷:今回35人の出演者のなかで、一番女性の役を演じなければいけないんです。だからもう男役の印象は全然ない。でも、ちょっと、ガバーッって踊り出したりはするんですけど(一同笑)。

柚希:そこを突っ込んでくださるんです。(歩幅が)広ーって(笑)。

岸谷:舞台の上手下手を3歩ぐらいで行きますからね(一同笑)。そのエネルギーは0番の女優ですね。本当に素敵ですよ。男役で培ったものを武器にできるから、絶対、普通の女優は真似できない。0番、すなわちセンターに立てる女優なんです。稽古場でも立ち位置に、1番、2番と番号が振ってあるんですが、0番と0.5番はほんの少しの差じゃないですか。でも、その0番に立つには、果てしない距離があるんです。そこに立てる女優と、0.5番までしか立てない女優は、ものすごい差がある。彼女はその0番に、平気で大股でいける(一同笑)。

──ミュージカル『コーラスライン』みたいですね。

岸谷:そうですね。でも、『コーラスライン』はその先頭ラインに立てるまでの、後ろの横のラインを描いた話なんですが、僕が言いたいのは、縦のラインです。この0番に、みんな近づいていっても、そこには一生立てない人がいるんです。特別選ばれた人、選ばれた才能がある人のみが0番に立てる。

柚希:ありがたすぎるお言葉です・・・。宝塚の男役のときは、0番にいることがしっくりきていましたけれど、退団した後は、0番でどのようにいればいいのか分からなかったんです。でも、ちゃんと思いがあれば、女役でもバーンと立っていいんだということに、最近気が付いて。やっぱり、女役ではバーンとしてはいけないという思いがどこかにあって、2年ぐらい試行錯誤していました。今、大きく背中を押してもらった気がします。

──岸谷さんに当て書きをされて驚かれたことは?

柚希:驚きばっかりです。自分が自分を本当に分かっていないのかなと思うぐらい。きっと奥底にはあっても、人には全く見せていない私を書いてくださっているんです。

岸谷:フフフ。

柚希:脚本を読むと、ほかのキャストも当て書きだなと分かるんですよ。だから、ほかの人から見ると、私の役も当て書きだと思うんでしょうね。自分が自分をもっと知っていく作業でもあるし、すごい発見です。宝塚時代に当て書きをしてもらったときは、どう見てもそうだという当て書きだったんです。今回は当て書きなのに、初めて挑む役という感覚ですね。とても新鮮です。

──岸谷さんに見透かされているみたいで、怖くないですか。

柚希:怖いです。いつからこういう役にしようと書き始められたんだろうと。その作業がかなり前から始まっていると思うと本当に怖いです。私のどこを見てくださって・・・と思います。

岸谷に観察されていたことに感心する柚希
岸谷に観察されていたことに感心する柚希

岸谷:(笑)。

柚希:私としては、今年1月と2月に出演したミュージカル『マタ・ハリ』で、何にもとらわれず、女としていいんだという気持ちになれたのに、岸谷さんはそのずっと前から脚本を仕込まれているんですから。

地球ゴージャスプロデュース公演Vol.15『ZEROTOPIA』

日程:2018年7月6日(金)〜15(日)
会場:フェスティバルホール
料金:S席12000円、A席10000円、B席8000円
電話:0570-200-888

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