「年代」からアートを斬る展覧会、神戸で

2018.3.28 13:00

大岩オスカール《www.com》2003年(平成15) 兵庫県立美術館蔵

(写真4枚)

現在、2018年。その10年前の2008年から100年前の1918年まで、時代を10年ずつさかのぼって美術作品を並べてみたら、一体どんな景色が見えるのか。そんな一風変わった切り口の展覧会が、「兵庫県立美術館」(神戸市中央区)で6月24日までおこなわれています。

美術作品には、作られた時期の世相・政治・経済が反映されています。しかし美術館の展示では、作家名、作品名、技法、素材、サイズなどは作品の横に記されていますが、制作年に起こった出来事までは触れていません。同展ではそこに「時代背景」を組み合わせています。具体的には、対象となる年とその前後に起こった出来事を各章のパネルに列挙することにより、作品と世の中の関係がより具体的に伝わるのです。

ヴィクトル・ヴァザレリ 版画集『明晰』より 1968年(昭和43) 兵庫県立美術館蔵

たとえば、2008年(平成20)を見てみましょう。大岩オスカールの《www.com》は2003年の作品ですが、2008年に起こった狂牛病やリーマンショックを予言しているかのようです。1968年(昭和43)は学生運動に代表されるカウンターカルチャーが隆盛しましたが、ヴィクトル・ヴァザレリのオプ・アート(視覚効果を利用した美術作品)や、横尾忠則の演劇ポスターには、既成の価値観をひっくり返そうとする時代の空気が濃密に感じられます。また、1938年(昭和13)に展示されている阿部合成の《見送る人々》(1938年)を見れば、戦争の影が忍び寄る時代の重苦しい空気がはっきりと伝わるでしょう。

横尾忠則《毛皮のマリー》《大山デブコの犯罪》《続ジョン・シルバー》《由比正雪 劇団状況劇場》 いずれも1968年(昭和43) 兵庫県立美術館蔵

このように作品と時代背景を独自の切り口でリンクさせ、新たな視座を提供しているのが同展の面白さです。実際に起こった出来事がキーワードになっているので、美術通から初心者まで、誰がどのレベルで見ても新たな発見が得られるでしょう。今までにありそうで無かったユニークな美術展としておすすめします。

取材・文・写真/小吹隆文(美術ライター)

『県美プレミアム特集 Back to 1918:10年ひとむかしと人は言う』

期間:2018年3月17日(土)~6月24日(日)※月曜休(4/30開館、5/1休館)
時間:10:00~18:00(金土曜~20:00)※入場は閉館30分前まで。 
会場:兵庫県立美術館(神戸市中央区脇浜海岸通1-1-1 HAT神戸内)
料金:一般500円、大学生400円、70歳以上250円、高校生以下無料
電話:078-262-0901

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